京都市の基本構想・基本計画(資料編)/京都市基本構想等審議会/第3回 審議会
ページ番号35860
2001年2月1日
21世紀・京都のグランドビジョン 京都市基本構想等審議会 記録/第3回 審議会
日 時 : 平成11年10月1日(金) 午前10時~12時
場 所 : 京都ホテル「暁雲」
議 事 : 京都市基本構想(第3次案(答申案))について
出席者 :
(1) 浅岡 美恵(気候ネットワーク代表)
(1) 石田 一美(京都市東山消防団団長)
副会長 稲盛 和夫(京都商工会議所会頭)
(2) 乾 亨(右京区基本計画策定懇談会座長,立命館大学産業社会学部教授)
(4) 上村多恵子(詩人,京南倉庫(株)代表取締役社長)
(5) 梶田 真章(法然院貫主)
(5)部会長 金井 秀子(京都教育大学名誉教授,京都文教短期大学児童教育学科教授)
(5) 川阪 宏子(市民公募委員)
(3) 川原 陸郎(京都みやこ信用金庫会長)
(2) 北川 龍彦(京都市民生児童委員連盟会長)
(2) 北村よしえ(京都市精神障害者家族会連絡協議会会長)
(4)副部会長 北村 隆一(京都大学大学院工学研究科教授)
(2) 玄武 淑子(京都市老人クラブ連合会会長)
(2) 小林 達弥(市民公募委員)
(5) 佐々 満郎(京都府私立中・高等学校長会事務局長)
(5) 佐々木博邦(市民公募委員)
(1) 笹谷 康之(西京区基本計画策定懇談会座長,立命館大学理工学部助教授)
(1) 須藤 眞志(京都産業大学外国語学部教授)
(1) 田尾 雅夫(京都大学大学院経済学研究科教授)
(1)副部会長 高月 紘(京都大学環境保全センター教授)
(2) 竹下 義樹(京都市身体障害者団体連合会副会長)
(3) 竹村 寿子(市民公募委員)
(1) 内藤 しげ(住みよい京都をつくる婦人の会会長)
(1)部会長 内藤 正明(京都大学大学院工学研究科教授)
(1) 仲尾 宏(京都芸術短期大学造形芸術学科教授)
(5) 永田 萠(イラストレーター)
(5) 西川 國代(京都市保育園連盟副理事長)
会 長 西島 安則(京都市立芸術大学長,京都大学名誉教授)
(1) J・A・T・D・にしゃんた(市民公募委員)
(1) 野口 寿長(京都市体育振興会連合会副会長)
(4) 野間光輪子(京町家再生研究会幹事)
(4) 長谷川和子((株)京都放送取締役)
(5) 韓 銀順(京都市生涯学習総合センター講師)
(5) 福田 義明(京都市私立幼稚園協会副会長)
(3) 古川 敏一(京都府中小企業団体中央会会長)
(3) 堀場 厚((株)堀場製作所代表取締役社長)
(3) 三谷 章(市民公募委員)
(2) 宮下れい子(市民公募委員)
(3) 向囿 好信(京都市ベンチャービジネスクラブ代表幹事)
(4) 宗田 好史(中京区基本計画策定懇談会座長,京都府立大学人間環境学部助教授)
(1) 村井 信夫(各区市政協力委員連絡協議会代表者会議幹事)
(3) 村井 康彦(上京区基本計画策定懇談会座長,京都市歴史資料館長)
副会長 村松 岐夫(京都大学大学院法学研究科教授)
(2) 森田 久男(北区基本計画策定懇談会座長,元佛教大学教授)
(4) 山田 浩之(下京区基本計画策定懇談会座長,京都大学名誉教授,大阪商業大学大学院地域政策学研究科長)
(5) 山本 壮太(NHK京都放送局長)
(2) 横田 耕三(京都府医師会会長)
(3)部会長 吉田 和男(京都大学大学院経済学研究科教授)
副会長 鷲田 清一(大阪大学大学院文学研究科教授)
(2)副部会長 渡邊 能行(京都府立医科大学付属脳・血管系老化研究センター教授)
(1)(2)(5) 薦田 守弘(京都市副市長)
(1)(3)(4) 中谷 佑一(京都市副市長)
以上52名 (50音順,敬称略)
(1)…環境・市民生活部会
(2)…福祉・保健部会
(3)…文化・観光・産業部会
(4)…都市整備・交通部会
(5)…教育・人づくり部会
1 開 会
西島会長
昨年10月14日に第1回審議会が開催され,その後部会に分かれて1年間にわたり基本構想についての審議を進めてきたが,本日は前半の最終段階になる。この1年間で35回の部会が開催された。また,区でも懇談会を開催していただいた。
鷲田副会長を中心とする起草委員会で第1次案を作成し,それをもとに各部会でご審議いただいた。
それとは別に5月に開催された市民フォーラムでは,公共と私たちのくらしやまちのあり方との関係,意見を集めることと行政や各組織の中で行われる活動をどう組み合わせるか,どうやって市民の声を聴き行政に反映していくか,今は,市民が主体となる市政とはどういうことかを根底から問い直す初めての時代ではないかといった,部会や懇談会とは異なる視点からの議論がなされた。
さらに新しい試みとしてパブリックコメントにより広くご意見をいただいた。その後各部会で第2次案をご検討いただく中で浮かび上がってきたのが「信頼」という言葉だが,人は「信じてください」と言われても信じるものではない。市民と市政の間の信頼には何が大事かということでは,市民フォーラムで特にNPOやNGOの関係者から情報公開によりお互いが何を考えているかを知ることで初めて本当の信頼が生まれるのではないかというご意見もあった。そういった様々なご意見を集めながら,起草委員会で何度も書き直して第3次案に至った。
部会では事務局から,「かくあるべき」ということではなく,「現状はどうか」ということについて,京都市の持つ情報を整理した資料が次々と提供され,それを見て将来についてご議論いただいてきた。30年前であればとてもこれだけの仕事量はこなせなかった。ワープロやコピーの普及により可能になったことであり,情報の時代であることを感じる。市民と区民では立場が異なるし,さらには国民,地球人というようにいろいろな形のコミュニティをつないでいくものが情報であるというご意見もあった。
本日は第3次案についてできるだけたくさんのご意見をいただきたいので,一人一人の発言はコンパクトにまとめていただきたい。これが日本で最初の市民手づくりの基本構想になると思う。よろしくお願いしたい。
2 議 事
○京都市基本構想(第3次案(答申案))について
西島会長
議事に入る前に,事務局から配布資料の説明をしていただく。
事務局(前葉政策企画室長)
――(配布資料について説明)――
西島会長
最初に第3次案について起草委員長からご説明いただきたい。
鷲田副会長
本日お諮りする第3次案は,各部会でのご議論やパブリックコメント等による市民の皆さんのご意見を可能な限り盛り込み,様々な意見を集約する形で起草委員会で作成したものである。何人かの委員の方からは直接修正案を提示していただいた。第3次案は本日までの議論の集大成であり,起草委員会としてはこの第3次案をもって市長への答申とすることでご了承いただきたいと考え,ご提案申し上げる。事前に第2次案との対照表をお送りしているので,本日はできるだけ簡潔に第3次案の考え方や内容を再確認する形で説明したい。
まず,「まえがき」では冒頭で「21世紀の最初の四半世紀における京都のグランドビジョンを描くものである」とこの文章の位置付けを示し,第2段落で世界文化自由都市宣言や京都市基本構想等,これまでの京都市の構想の策定経緯及び日本全体,世界全体から京都がどうとらえられてきたかについて述べている。基本的には1978年の世界文化自由都市宣言の内容を継承していきたいが,この25年間で社会・経済情勢は大きく変動しており,その変化は社会のあり方の基本にかかわるもので,私たち一人一人に日々のくらしを変えるよう求めるところがある。
そのことを前提に,今回の基本構想を市民憲章のような呼びかけの形にしたいということで,全体の主語を「わたしたち京都市民」に統一した。世界文化自由都市宣言の理念をより充実した形で実現するためにも,自分たちの足元を見つめ,暮らしやすい京都のまちをつくるためには何をどう直していったらいいのか,基本的なところから考え直したいと考えた。
「まえがき」の最後で,この基本構想は私たちが望むくらしとまちづくりを「市民の視点から」描くものであり,これを受けて京都市はその実現のために「総合的かつ計画的な行政の運営を図るものとする」と本構想の位置付けを明示している。
本文は3章で構成されている。第1章は京都市民が今まちづくりや市政の中で背負わされている課題を確認し,それらの課題に対してどういう姿勢で,どういう仕組みをつくりながらそれに対処していくのか,そのとき私たちが将来の京都市のあるべき姿として望んでいるものは何なのかを書いている。そういう京都市民の生き方や姿勢を踏まえて,第2章ではこれからの市民のくらしとまちづくりをどのように進めていくかについて書いている。第3章では,そういうくらしとまちづくりを実現するために私たちは市民としてどう活動していけばいいか,また市政はそれを支援する形でどういうことをなすべきなのかを書いている。
第1章は4節から構成されている。第1節では私たちの社会や文明が現在直面している課題をどうとらえるかということが書かれている。なかでも21世紀を生きる私たちに課せられた特筆すべき問題として,環境破壊の深刻な実態を挙げて,環境と調和した持続可能な社会を目指し,次世代に対する責任を持ってその解決に取り組まなければならないということを書いている。また,もう一つ特筆すべきこととして,昨今の日本社会における信頼の崩壊を取り上げている。現在,政治,行政,金融,企業経営など様々な場面で,今まで自明のものとして寄りかかってきた社会の仕組みや制度に対する信頼が大きく揺らいでおり,それを放置すると21世紀には社会の基礎になる信頼の崩壊を招くような事態も考えられる。社会を支える基礎的信頼をどう再構築していくかが私たちに求められている。これらの問題は京都市民というより人類のそれぞれの社会での生活の基本にかかわるものであり早急な解決が図られるべきものであって,一都市の問題というよりは国や世界が協力して取り組む必要のあるものである。そういう世紀の転換期における文明や社会の仕組みの大きな変化を第1節で確認している。
第2節では,私たち京都市民はそれらの問題を克服するためにどういう姿勢をとるのかということについて書かれている。特に強調したことは,京都は近代化を率先して進めてきたまちであると同時に,近現代の価値観と違ったものの考え方や感じ方もまちの中に息づいており,そういう歴史の中で育んできたものを,そのうちの何を守り何を棄(す)てていくかを見分ける知恵を生かしつつ,引き継いでいく意欲があるということだ。
第3節では,京都市民が市民生活の中で育んできた知恵や感受性,様々な能力や特性を見定める作業を行っている。少々自慢話のように響くかもしれないが,自分たちを励ますという意味でこの節は書かれている。私たちがこの危機を乗り越えていく力を蓄えるためには,自分たちがこれまで自信を持ってやってきたことやそれを支えていた精神をここで確認しておく必要があると考えた。守るべき,生かすべき京都市民の特性を「大量消費を繰り返してきたこれまでの社会のあり方に対して,それとは別の節度ある生き方を示しうるような都市文化」の伝統として確認している。第2段落では自治の伝統や独特の生活習慣など,第3段落ではもてなしの心や宗教的癒しの文化などを,自らを励ます意味で確認している。しかし次の第4段落では,こういう京都が市の内外から得てきた厚い信頼が危機的状況にあり,その先駆ける力が現在十分発揮できていないし,都市の活性化にもうまくつながっていないこと,これらの特性を生かさなければいずれ都市として行き詰まるという切迫感さえあるということを確認している。第5段落では,今の京都が抱え込んでいる問題を具体的に提示し,それらの問題を解決するために私たちが今まで長い時間かけて培ってきたものの感じ方や考え方の一つ一つを京都人の特性として洗い直し,21世紀のくらしの基本として改めて磨き上げていこうと呼びかけている。
今回の基本構想では,京都市民の目指す市民生活のあり方を信頼を基礎に置く社会に求めており,第4節でそのことを集中的に書いている。信頼は多義的な言葉だが,京都市や現代社会の抱える様々な問題を一つにまとめるにはこういう膨らみのある言葉がいいのではないかと思う。具体的には,社会の仕組みや制度への信頼から学校や家庭の中の信頼,地域社会での人と人の信頼,市民と行政の間の信頼など,様々な意味を含ませて信頼という言葉を提示している。そして,市民生活がこれから目指すものを信頼を基礎とする社会とし,第1段落では信頼を基礎とする社会とはどういうものか,第2段落では京都における信頼の崩壊,文化への信頼と地域住民の相互信頼という京都の誇ってきた2つの信頼が今の京都で大きく損なわれつつあるという危機感を書いている。そのうえで第3段落では第2章につなげるために,私たちが望む市民のくらしとまちづくりを実行していく過程で,またその結果として,信頼を基礎とする社会が実現されていくはずだという展望を述べている。
第2章は私たちが京都をどのようなまちにしたいのか,その具体像を書いている。「安らぎ」と「華やぎ」をキーワードに,それを受けて安らぎのあるくらしや華やぎのあるまちをつくっていくためにはどういう基盤整備をしなければならないかに触れている。
第1節では,くらしに安らぎがあるとは具体的にどういうことかを書いている。
1では,すべての人が自分の資質を十分に発揮し,いきいきと活動できる場所と機会に恵まれているまちということで,特に互いに思いやる心にあふれた市民生活ということと,一人一人が自分を磨き高めていくことのできるまちであるということを強調した。後半では,あらゆる人が個人として尊重されるまちを目指すということ,人々が多様な生き方や考え方のままにこのまちに迎え入れられ,様々な人の交流の中から豊かな人間関係が生まれてくるようなまちを目指すということが書かれている。
2では,前半で少子高齢社会,男女共同参画社会にふさわしい社会の仕組みに変えていくということ,地域における住民の相互の支援体制を現代の生活環境に合う形でつくり直す工夫が強調されている。後半では人の問題を取り上げており,子供がのびのび育つことのできるまち,すべての人が健康で豊かな心を持って生活できる環境が整えられているまちということが書かれている。
3では,安全の問題を取り上げている。ポイントは災害に強いまちづくり,交通事故や犯罪から安全であるための基礎的条件が満たされているまちづくりであり,後半で環境に負担をかけることの少ない生活をおくること,歩くことが楽しくなるような公共交通優先型の交通体系を中心にまちづくりに取り組むことが確認されている。
第2節は,産業経済を中心とした「活力あふれるまち」と,文化の成熟と活性化を中心とする「魅力あふれるまち」の2つの部分から成っている。
1では,産業経済に活気のあるまちが構想されており,産業経済の活性化のために,企業間の支え合いのある産業連関都市の形成,これまで京都の産業が発揮してきたものづくりの技や高度な情報技術,洗練されたデザイン,斬新な企画力を持つシステムといったものを確認し,さらに京都にある本社機能を支援する基盤が充実しているまちを目指すということが書かれている。さらに,もてなしの心を持った観光都市づくりやベンチャービジネス等を鼓舞していくこと,その結果としての安定した雇用機会の創出や若い世代の人がいきいきと学び働ける場を増やしていくこと,最後に世界の人々がこの地に集まり,自らの能力を発揮できる機会を増やすということを掲げている。
2では,最初に市民文化の成熟がどういうものであり,京都の文化をさらに豊かにしていくためにはどういう資源があるのかを確認している。それらの文化資源の間で活発な交流を起こし,さらには京都市の外部,国内外との多彩な交流を通じて今まで以上にこの資源を生かしていくということが書かれている。第2段落では次の時代を担っていく人づくりを丁寧に行うということ,市民一人一人が生涯にわたって自分を磨き高めていく機会に恵まれているまちにするということが書かれている。第3段落では市民一人一人が楽しく他の人と交わりながら華やいだ生活をしていくためにはにぎわいやくつろぎの場が必要であり,市民の間の楽しい交流が十分にできるまちということが書かれている。
第3節ではこういった華やぎのあるまちや安らぎのあるまちをつくるために,基盤づくりとしてどういうことに取り組まなければならないかが書かれている。第1段落では交通や公園・緑地,スポーツ施設,住環境,河川,上下水道等の基盤の整備と,情報関連産業の活性化をあげている。第2段落では「保全・再生・創造」というまちづくりの大方針の中でそれぞれの地域が特色を持ったまちづくりを進めると同時に,市民が日常的な生活機能を身近に享受できることも必要で,その両面を見据えてそれぞれのまちづくりを行い,京都全体としてまとまりのある良好な都市環境を形成していこうということをうたっている。
第3章は,これまでどの都市の基本構想でも数行で片づけられていたまちづくりのプロセスの問題,市民と市政がどのように協力していくのか,その仕組みをどのようにすればいいのかという,これからの市民と市政の協力関係について詳しく書いており,これは日本で最初の試みではないかと思う。第2章で掲げられたようなくらしとまちづくりの具体的プロセスを推進していくためには市民と市政の信頼ある協力関係が必要であり,市民が市政に責任を持って主体的に参加するための仕組みを整える必要があるが,それをどう進めていくかを記述している。
第1節では市民参加の重要性を確認している。最初の2段落では,市民の市政への要望が多様化している今の時代についての考え方から始め,市民間にいろいろなレベルの多岐にわたるネットワークが生まれつつあるという事実を認識し,それを前提としながら,市民が責任を持って主体的に市政にかかわっていく仕組みをさらにきめ細かく考案し,整備していかなければならないことを書いている。第3段落では,地方分権の流れの中で地域の個性や独自性を重視する時代への大きな変換が起こっており,市政の重みが増すとともに財政上の制約が重くのしかかってくる状況の中で,市民と市政の新しい協力関係が必要となってくることを書いた。第4段落では,そのとき市民にはどういう役割が期待されるか,行政はどういう役割を果たさなければならないかについて確認している。
第2節では,市民の市政参加の仕組みと形についてもう少し突っ込んだ記述をしている。市民参加の仕組みと形を考案していくプロセス自体が市民と市政の深い協力関係を要求するが,第1段落で市民と市長と市会の関係の原則的な確認をしたうえで,第2段落で多様な市民行動,市民参加の形が生まれつつあること,それに対して行政は様々な角度から支援する用意がなければならないことを確認している。第3段落では私たちが目指すのは市民と行政の対等な立場での協力関係としてのパートナーシップであることを確認し,かつての自治の伝統を発展させ,今生まれつつある市民参加の芽を育てていくことによりパートナーシップの実現に向かうということを書いている。第4段落ではその具体的方法について,政策の立案,施策の実施,評価の各段階で市民と行政が協力していくために何をしなければならないか,市民と行政が対等な協力関係を進めていくプロセスの中でこそ,第1章の最後で述べた信頼に基礎を置く社会が形づくられていくであろうことを書いている。
第3節では,市民と行政が厚い信頼関係を構築するために何をしなければならないかを書いている。第2段落では行政の責任について記述し,市民の社会的活動を支える柔軟な行政のあり方と,さらなる分権の工夫が不可欠であることを確認している。最後は,「わたしたち京都市民は,京都を,こうした市政参加の理念をもっとも充実したかたちで実現しているまちとしたい」という大きな希望で結んでいる。
「むすび」は「まえがき」を受けて,私たち市民が望むくらしとまちづくりを基本構想として示したということと,京都市はこれを実現するために全力をあげて市民のための市政推進を図るという,市民の立場,行政の立場を再確認する形で全体を結んでいる。
以上が京都市基本構想第3次案の内容である。
西島会長
「わたしたち京都市民」を主語とする手づくりの構想であり,最後にこういう「むすび」を付けて,市長に答申としてお渡ししたいという案である。これでいいかどうか,ご意見をいただきたい。
笹谷委員
西京区の懇談会の座長をしており,2週間ほど前に副座長と共に横浜市の金沢区と川崎市の宮前区を訪ねたが,区長決裁の予算やスタッフの数など京都市とは大きな格差があることを痛感した。区の基本計画を策定してもどうやって実施するのか。第3章第3節に区へのさらなる分権について書かれているが,区レベルへのさらなる分権については,多様性や固有性,独自性を前提に,もっと積極的な記述をすべきだ。
それと関連して,第3章第1節で地方分権について,国,都道府県,市町村という流れでとらえられているが,市役所から区役所へ,自治連合会や町内会などの地縁団体やNGO・NPOへ,さらには企業へというように様々な分権の流れがあるので,その辺りも書いていただきたい。
第3章第2節に参加の方法がいろいろ書かれているが,これから情報関係技術はどんどん進展すると思う。ミレニアム特別枠の政府予算では電子政府化が非常に意識されているが,電子政府化により行政の持つ大きな資源を市民に開放することが,文化や産業の育成につながる。「情報技術を用いた市民参加の仕組みを大胆に整備する」くらいの記述を加えていただきたい。
もう1つはグローバル・スタンダードの流れで,世界経済に飲み込まれていくから標準化しなければならないということもあるが,一番大切なことは京都独自のルネサンスを求めていくという姿勢であり,どこかにそういう記述を加えていただきたい。
西島会長
重要なご指摘だと思うが,今のご意見の中で情報社会における市民参加のあり方,あるいは地方分権を市政の中でどう考えるかなどは,基本構想よりむしろ基本計画で取り上げるべき事項だと思う。
鷲田副会長
分権については,第3章に「区レベルへのさらなる分権の工夫」と書いたが,国から地方へ,地方の中でさらに民間の組織へというように,様々な方向の分権があり,様々なレベルでその都度書き分けている。
情報技術を使った市民参加のきめ細かなあり方については,会長のご指摘のように基本計画に書き込んでいけばいいのではないか。第2次案までは第3章で市民参加の新しい形態はマルチメディア等の新しい情報技術抜きでは考えられないということを記述していたが,各章に情報の問題が出てくることになるので,第3次案では第2章に集約して書いている。
京都のルネサンスについては,「魅力あふれるまち」で京都の市民文化の成熟がどういうものであったか,それをどう継承し市民の財産として膨らませていくかを書いており,そこに盛り込まれていると判断している。
西島会長
具体的なことはできるだけ基本計画で考えていきたい。
乾委員
起草委員会や事務局のご苦労はよく分かるが,2点だけ申し上げたい。1点目は第3章について,参加にはプロセスに対する参加と決定に対する参加の2つがある。第2次案までは「重要な意思決定にかかわり」という決定に対する参加のニュアンスのある記述があったが,第3次案の第3章第1節ではそれが削除されている。それと関連して,第2節の第5段落に「そうした意見が可能な限り尊重されるなかで…市の意思として決定される」という第2次案まではなかった文章が挿入されているが,これは通常の民主主義の手続きとして当然のことであり,この部分の記述は必要ないのではないか。第2次案に対してはむしろ住民投票の表現を入れるべきではないかという意見が多かったように思う。住民投票はこれから先京都市として議論していくべき重要な課題だと思うので,この時点で答を出してしまわないほうがいい。
2点目は第2章第1節の2について,これからは地域社会での共同性のようなものが大事だという論調で書かれているが,部会でも指摘したようにその地域に「住み続けていける」ことが大事だ。「高齢者が住み慣れた地域社会の中で生活がおくれるための支援が必要だ」という表現があるが,高齢者だけでなく青壮年層も地域の中で安心して住み続けられなければならないし,地域だけに任せるのではなく,そのための制度や仕組みを整備していかなければならない。第2段落の最後に「そのためにも,地域社会を支える一人一人の住民がその地に住み続け,その地で死んでいけるような支援の仕組みが求められている」という表現を付け加えれば,全体のストーリーが完結するのではないか。
西島会長
主体的参加の内容については起草委員会でもずいぶん議論をした。市でも相当な覚悟をもって答申を受け取らなければならないように思う。
鷲田副会長
住民投票については部会でも様々な意見があり,起草委員会でも毎回全面的な書き替えをしてきたが,最終的にはこういう形になった。おっしゃるように参加にはプロセスへの参加と決定への参加があり,決定への参加の最終形態としての住民投票は重要だが,そこに至る前の議論や参加の仕組みをもっときめ細かに整えていく必要があり,決定に至る過程への参加にも非常に重要な意味があると思う。
起草委員会としては,第3章第2節の「時に応じて市民が直接に異議を唱え,代替案を提示できるしくみも設定されねばならない」という表現で,市民の決定への参加の最終形態である住民投票の可能性も十分含み込めると考えた。
西島会長
日本全体がようやく市民が主体であると言えるような行政に向けて最初の一歩を踏み出そうとしているところであり,今の段階でこれが一番いいということは言えない。基本計画でも慎重に諮っていきたい。
2点目のご指摘にあった,住み続けられそこで安らかに死ねる社会についてはどうか。
鷲田副会長
ご指摘の点は起草委員会でも重く受け止め,表現は少し柔らかくなっているが,このまちにずっと住み続けたいと思えるまちにしたいということを第2章の冒頭で大方針としてうたっている。また,私たちにとってどこで死ぬか,誰に見取られて死ぬかということは非常に大切だと思う。「死ぬ」という表現こそ使っていないが,「ひとりひとりが支え,支えられるまち」の最後の「ひとびとが自分の老後や後続世代の生活に不安を抱くことなく」という記述にそういった趣旨が盛り込まれているとご理解いただきたい。
乾委員
市民参加推進懇話会のメンバーでもあり,市民の意思決定への参加の問題は非常に重要だと考えている。最近の他の自治体での事例を見ても,議会と住民投票の意見の乖(かい)離は避けて通れない問題であり,住民と行政のパートナーシップに重点を置いて歩み出す京都市の基本構想として,住民の意向を聴いたうえで最終的には議会が決定するということをわざわざ明記しておく必要があるのか。住民投票のほうが優れているというわけではないが,これは第2次案まではなかった部分であり,意図的に書かないという方法もあるのではないか。
第2章については,このまちに住みたいと思う人はたくさんいるが,住めない状況が発生してきているのが問題であり,この文章の論調を受けるなら,住み続けたいと思う気持ちをどう制度的に支援していくかという記述がほしい。
上村委員
第3章についての乾委員のご指摘は大事だと思う。理念としては分かるが,議会制民主主義の中でここに書かれていることがどの程度可能かというとまだまだ検討の余地はあるわけで,ご指摘の箇所については「これから検討する」とするか,あるいは書かないほうが現実的ではないか。
西島会長
起草委員会の議論では,これから市民参加が自然に行われる社会をつくらなければならないが,そのためには信頼が必要であり,信頼の進み方によって参加がより主体的になるのではないかということで,信頼という概念が出てきた。それに対して,信頼とは結果ではないかというご意見があったが,信頼をつくるプロセスが信頼を生むのであって,信頼は結果であるだけでなく,動機や原動力にもなる。
本日はこの後起草委員会が開催されるので,どう修文すべきかについてはその場で検討したい。
村井康彦委員
今までの議論を取り込んで直していただいている点は高く評価しているが,例えば言葉として,第1章で環境破壊の実態は深刻だという表現がある一方で,第2章で「環境への負担も少ないようなまちをめざす」という表現になっており,これは後退しているのではないかと,気になった。
基本的なところでは,2025年ということが前文に出ているだけで,2025年までのくらしをどうするか,21世紀に入って最初の25年を見据えたときにどういう事態が予想されるのかということがもう少し書かれていてもいいのではないか。例えば情報社会の中での行政の変質など,行政のあり方がどう変わってくるかが考えられてもいいのではないか。市民のレベルでこの構想が書かれていることのプラス・マイナスがあり,市民の目でこういうことをすべきだ,こうあるべきだということは書かれているが,行政そのものがどうあるべきかについての記述がもう少しほしい。
全体の構成では,第1章第1節で全体の大前提となる基本的思想が打ち出されており,次に京都においてはどういうことが問題かということが書かれている。京都は今どういう問題に直面しているのかということがここだけで片づけられていて,大学の流出の問題にしても,それがないようにすべきであるという程度で片づけられている。京都は戦災を受けなかった都市であり,昔のものが受け継がれていると書かれているが,古いものが残っていることが実際には様々な問題を生んでおり,それをどう解決するかが行政の立場としては大問題だ。全体としては京都のいい話だけが取り上げられているように思う。
主語は「わたしたち京都市民」でいいが,京都市民が抽象化された存在になっているように思う。地域によって様々な問題があるという地域への目配りがなく,部会や区での議論が踏まえられているのかどうか不満を感じる。市民の目線で論じたことになっているが,構想の最後は「京都市は…図るものとする」という規約の条文のような表現がされており,京都市の姿勢が表明されていない。審議会の主体性を明らかにするならば,「我々は基本構想の策定に当たって京都市民の立場を表面に出して論じた。したがって京都市はこういうことについてその実現に邁(まい)進すべきである。」という書き方をしたほうがいいのではないか。
西島会長
2025年までではグランドビジョンとは言えない。100年くらいは同じ思いで目指していかなければならない課題があるのではないか。2025年は連続の中の一点としてあるので,この部分の記述は確かに少し気になる。
第1章については,草案の段階では世界文化自由都市とは何を目指したものかということについて書かれていたが,文章を短くしていくうちに文明の大転換期から京都の抱える問題に飛躍していった。
市民が抽象化されているというご指摘については,市民と区民でもずいぶん違うので,必ずしも抽象化ということではないと思う。
鷲田副会長
基本構想はできるだけ多くの人に読んでいただくことが大切であり,字数の制約もあり,各区には個々の問題があり,区ごとの取組が必要であるということを一般的に書くにとどめている。各区がどういう問題を抱え,市民,行政がそれにどう取り組み,どういう解決に至るかという問題は,基本計画や区別計画の中で明示すべきではないか。
危機感の問題については,人類文明や現代社会,京都というようにいろんなレベルで危機感があり,こうしたいという夢がある。今までいろいろ議論してきたが,正直言って問題の大きさにたじろいでいて,本当の意味での見通しがついていないのが現状ではないか。それだけ書いていると暗いものになってしまうので,危機の記述の後に,これに正面から取り組むとすれば私たちには何が資源としてあるのか,これを生かしたら何とかなるのではないかという希望や工夫の可能性を書く形になっている。危機感の記述と,その危機感を深く受け止めながらもこういう夢を見てみたい,こういう希望を語りたいという記述が交互に表れるのが,私たちが現時点でこれからの25年のあり方を考えるときの本音ではないか。
古さや伝統があることが常にいいほうにだけとらえられているというご指摘については,第1章第2節の最終段落で,私たちが今まで持ち続け,育んできたものの中で一体何を守っていくべきなのか,何を生かしていくべきかを見分ける作業こそが今必要ではないかという基本的姿勢を記述している。
行政の構想であるのにそれについての具体的記述が少ない,市民のまちづくりの希望を基本構想として掲げて,市としてはそれを実施するものとするという消極的な書き方になっているというご指摘については,「わたしたち京都市民」を全体を通して主語にするという合意に達するまでには,京都市の基本構想なのだから「京都市」を主語にしたほうがいいという意見もあり,かなり議論があった。
しかし,京都市の市政の主体は京都市民であるという基本は譲れないし,行政レベルの問題だけでなく市民が自分たちの生活の足元まで見直しながら,くらしのあり方まで視野に入れて,自分を変え京都市を変えるという視点で書かないと,今私たちが直面している課題の解決への道筋はとても見えない。あえて私たちはこういうまちにしよう,つくるプロセスを重視した宣言文にしようという趣旨でこの基本構想全体を通すことになったため,行政を主語とする文章が第3章以外には少なくなっている。最後に市政はここに示された京都市民の望むことを着実に実施するということを再度確認する形になっており,これによって市政に対して非常に重要な方向づけを指示するものになると考える。
古川委員
この後起草委員会が開催されるということであり,今後の答申案の取り扱い等については西島会長にご一任することをご提案申し上げたい。
北川龍彦委員
基本構想全体について,今まで何回かの会合を経て出てきたこの文章が,文面だけ美しく,部会でいろいろ論議されてきた生の言葉がどこにもないことが気になる。保健・福祉部会でも構想とは何か,何を考えることが構想かという議論がされた。先ほど25年ではなく100年を考えなければならないという趣旨の会長のご発言があったが,それでは今まで何のために議論してきたのかということになる。25年で区切りをつけて,要望があれば50年,100年かけてやろうという心構えを持つべきだ。
この文章が,どこからも文句を言われないような,危険を避けるような形のものであってはならない。地方分権,区への分権にしても,今は区役所には権限も予算もないが,我々がそれを望むのであれば,基本構想に書き加えていただき,25年先になってこれが本当に生かされたと思えるようなものにしてほしい。
第1回の審議会で学者だけでなく市民の考え方を基本構想に生かしてほしいと申し上げたが,学者の専門的な考え方と我々一般市民の考え方は違う。市民や区民がこれを読んで,山積する問題によく取り組んでくれた,25年後に向かっていこうと思うような内容にしてほしい。
川原委員
今回の基本構想は市民の手づくりの構想ということであり,今までの都市のつくる長期構想は行政側の提言だったが,初めて市民の目線から書かれた構想という意味で画期的なものだと思う。細かいご意見については起草委員会に調整をお願いし,大きな筋は通っているということで,この構想案に賛成したい。
笹谷委員
区の問題については,第3章第3節の第2段落の最後に「行政サービスを受けられるために,区づくりの多様性,固有性,独自性が発揮できるよう,区レベルの積極的な分権を推進する」というように書き加えていただいてはどうか。区の基本計画での位置付けについてはご検討いただきたい。
村松副会長
起草委員会の一員として,区への分権の問題についてひとこと申し上げたい。区レベルへの分権化の方向で考えていくほうがいいかもしれないと思うが,やり方によっては区間の違いが差になって現れることがある。地方自治体間についてはこの数年間かなり議論が進んだが,区の問題についてはまだ議論が十分ではなく,この段階では議論の材料がなかったため,こういう記述になっている。
西島会長
本日のご意見をどう取り扱うかについて起草委員会で諮り,その結論を受けて私の責任で答申の最終案とするということで,ご一任いただければありがたい。
浅岡委員
不十分な点があるということが議論すればするほど分かってくることも事実で,将来の構想を立てていくという初めての試みであり,過去に学ぶという点でも将来構想を大胆に立てるという点でも不十分さがあるということは,ある意味で仕方がない。どう実現するかというプロセスについてはほとんど入口しか書かれていないことも事実だと思う。「まえがき」の最後にでも,今後適宜見直しを図っていくという指摘があっていいのではないか。
また,決定と参加のプロセスの問題は非常に重要であり,「まえがき」の最終段落の「総合的かつ計画的な行政の運営を図る」の前に「市民の意思を反映させつつ」という文言を入れていただいてはどうか。
西島会長
本日はいろいろご意見をいただいた。先ほど25年ではグランドビジョンとは言えないと申し上げたのは,文明の転換期にある現在ということを考える場合,文明は決して10年や20年で形づくられるものでも転換するものでもなく,もっと大きなウェーブの中でこの21世紀の最初の四分の一をどう位置付けるかを考えなければならないという趣旨だ。
起草委員会で第3次案を本日のご意見に基づき修正し,それを答申とすることでご承認いただけるか。
――(拍手)――
西島会長
この後基本計画の検討に入っていくことになるが,その際には今までの縦割りの部会だけでなく,部会の合同検討も考えたい。今までのご意見をいかにして基本計画をつくっていくうえでの基礎にするかということで,資料を配布しているので各自ご検討いただきたい。
それでは,本日はこれで閉会としたい。
3 閉 会
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