京都市の基本構想・基本計画(資料編)/京都市基本構想等審議会/第4回 都市整備・交通部会
ページ番号35836
2001年2月1日
21世紀・京都のグランドビジョン 京都市基本構想等審議会 記録/第4回 都市整備・交通部会
日 時 : 平成11年1月19日(火) 午前10時~12時
場 所 : 京都ロイヤルホテル「青雲の間」
議 事 :
(1) 新基本構想の基本的考え方(案)について
(2) テーマ別討論「住宅・住環境」について
出席者 :
◎飯田 恭敬(京都大学大学院工学研究科教授)
川崎 清(左京区基本計画策定懇談会座長,京都大学名誉教授,立命館大学理工学部教授)
○北村 隆一(京都大学大学院工学研究科教授)
清水 三雄(異業種交流コスモクラブ会長)
西村 毅(京都青年会議所直前理事長)
野間光輪子(京町家再生研究会幹事)
長谷川和子((株)京都放送取締役)
エルウィン・ビライ(京都工芸繊維大学工芸学部講師)
三木 千種(市民公募委員)
三村 浩史(南区基本計画策定懇談会座長,京都大学名誉教授,関西福祉大学教授)
宗田 好史(中京区基本計画策定懇談会座長,京都府立大学人間環境学部助教授)
山田 浩之(下京区基本計画策定懇談会座長,京都大学名誉教授,大阪商業大学大学院地域政策学研究科長)
増田 優一(京都市副市長)
以上13名
◎…部会長 (50音順/敬称略)
○…副部会長
1 開 会
飯田部会長
ただいまから,第4回都市整備・交通部会を開催させていただく。
2 議 事
(1) 新基本構想の基本的考え方(案)について
飯田部会長
第3回起草委員会で新基本構想の基本的考え方の案が示されたので,本日はこの件を最初の議題としたい。最終的には第2回審議会で決定することになるが,起草委員会としては各部会の意見をお聴きして,第4回の起草委員会で再度検討する際の参考とさせていただきたい。
「1 新基本構想策定への思い」「2 新基本構想策定に当たっての留意点」「3 新基本構想の枠組み」までが第2回までの起草委員会で確認されており,本日は「4 新基本構想の骨格」の内容についてご意見をいただきたい。
3分ほどで黙読していただいた後,ご意見をいただく。全委員のご意見をお聴きしたいので,本日欠席の委員については文書でいただくことになっている。――(3分間黙読)――
前回の起草委員会にご出席いただいた北村副部会長から何か。
北村隆一副部会長
前回の起草委員会の議論の中では,産業革命以降の工業化とそれに続く脱工業化の中で,20世紀的生活が公害や過度の物質崇拝文化を生み出したが,21世紀に向かいそれに対する対案をつくり出したいという意見が出た。精神的,抽象的な内容なので非常に難しいが,市民1人ひとりが生き方を模索するようなまちにしたいということだと思う。
次の段階の課題かもしれないが,これをどう具体的に実現していくか,そのためのまちの仕組みを考え出すことがチャレンジになる。
飯田部会長
それでは,こういう点を付け加えてはどうかというご意見をいただきたい。
宗田委員
どうやってこれが実現できるのか,これを可能にするまちの仕組みが問題だ。京都は世代間の意識の違いが極端に表れているまちだと思う。戦前生まれの世代と団塊の世代,それより若い世代では生きてきた時代の政治的,経済的,文化的状況が違い,まちづくりに対する考え方が非常に違う。ここに書かれていることは非常にすばらしいが,戦前生まれ,団塊の世代の人には共感できても,それより若い市民にこういうボキャブラリーやリテラシーで通じるかどうか疑問だ。
まちづくりに高い関心を持っている若い世代もたくさんいるが,その人たちの意欲を引き出し,まちづくりの仕組みの中に取り込むための共感に訴える文章になっていないのではないか。新しい市民の意欲を理解していない。京都でも阪神淡路大震災のようなショックがないと,本当の意味で若い人をどうまちづくりの仕組みの中に取り込んでいくか分からないのかもしれない。もう少し分かりやすく書く工夫が必要だ。
川崎委員
ここに書かれていることは正しいが,調和した社会をつくるにしてもチャレンジ・シップがなければならない。そういう積極姿勢がトーンダウンしている。
京都の問題は議論し尽くされている。次はどうやって実行するかという行動力や実行力についての方法論の基本的原理のようなものが欠如している。前回までの新基本計画では「伝統と創造」や「保存と開発」といった対立項の矛盾を乗り越えていくという精神でまとめられていたが,矛盾をどう解消していくかについての議論はあまりなかった。対立項は対立ではなく,循環している。循環する時間的流れの中での方法論があると思うが,そういう方法論の原理のようなものが入ってもよい。
清水委員
非常によくできており,20年前でも20年先でも通用するように書かれている。20世紀を振り返ると,大量生産,大量消費,自然破壊をしながら物質的豊かさを求めてきた。日本は10年前にバブルが崩壊して右肩下がりの時代になり,経営者は 180度考え方を変えなければならなくなった。
100年後には日本の人口は半分になると言われているが,需要と供給の関係を考えると土地の価格も下がっていくだろう。土地の価格が下がればまちづくりはしやすくなる。
これから将来自由なまちづくりを考えてもらうため,25年かけて京都をできるだけ空地や自然の多いまちにしていくことを考えてはどうか。空家を市が買い取り,木を植えたり更地に戻していく。50年後に21世紀を生きていく人たちに京都のまちをどうしていくか考えてもらうための準備の25年としてはどうか。
西村委員
文字面はきれいだが,イメージが湧かない。もう少し具体的イメージがないと,そこへ向かおうという合意がとれない。20年前でも20年先でも通用するというのはその通りで,これを求めている限りずっと答えは見つからないままではないか。もう少し2025年にはこんな姿にしようという具体的な姿を書いてほしい。京都のアイデンティティに合っていれば「環境の先進都市にしよう」というくらい書いてもいい。
野間委員
文章にすると難しそうに見えるが,ここに書かれていることは京都では神仏信仰や祭りなどを通して日常的にやってきたことであり,精神性において現在も続いている。それが若い人に通じなくなったのはなぜかが問題だ。
京都は1200年前から都市であり,都市生活の中で共同体としてどうしていくか,個人がどう生きるべきかが自然淘汰されてきた。戦後に教育や子育てなどで西洋的なやり方が良いとされたが,何十年かたって日本的なものの大切さが分かってきた。これも1200年の歴史の中の1つの自然淘汰の形で,今はそれを踏まえてもう一度考え直す時代なのではないか。
京都のまちが昔から持っていた自然と一体といった部分を基本として継承し続けていけば,今までの歴史を踏まえてすばらしいまちができると思う。文章だけでなく,これからはどういう仕掛けをしていくかが課題ではないか。
長谷川委員
21世紀に向けて人口減少が課題になっているが,京都はこの問題にどう取り組んでいくのか。京都という都市にどう力を注入し,魅力を増していくのか。その際,市民をどうとらえるのかを明確にする必要がある。「世界都市」「文化都市」「自由都市」を京都の憲法と位置付けるなら,広い意味でのシチズンがクローズアップされてくるのではないか。居住している市民だけでなく,長期滞在する学生や観光客,産業など,居住している人プラスαを呼び込む仕掛けをいかにつくるかが,ポスト工業社会における情報化時代とリンクしてくる。
国内の都市間交流だけでなく,世界とのネットワークを持った都市をいかにPRしていくか,その中での京都の位置付けを明確にすることが重要になる。
市民がそれぞれの立場で行動を起こす際には財力が必要になる。財力を育てるためには「民」,企業や産業が挑戦できる仕掛けのある土壌,いろんなものを呼び込みながら,それらが育っていくような挑戦的な都市をいかにつくっていくかが求められている。広い意味でのシチズンの位置付けを明確にすべきだ。
ビライ委員
美しい言葉ではあるが共感できない。言葉は非常に大事で,小説を読むとそこに描かれているのがどのような場所かがイメージできる。ここには大きな夢が描かれているが,具体的な物質としての都市はどうなっているかを書けばもっと良くなる。
時間の流れと共に変化している都市の中で,いろんなことをどういう方法で扱うか,物質としての都市はどうなるのか,行政としてコントロールするためにどんなことができるか,どんな環境をつくれば自発的な市民の行動を導き活性化することができるのか。
ニューヨークの摩天楼などは物質として扱うことができるが,京都もそれを明確にしたほうがいい。見えないものや見えない言葉,見えないシステムだけでなく,具体的に物質としてどのようなものになるのかが出てくれば,良くなるのではないか。
三村委員
系統的に必要なテーマが書かれているが,面白さに欠ける。言いたいことと表現の間に差がある。京都は文学的創造性の高いところでもあるので,最終的には詩人の表現もいただいてはどうか。
今の時点で立派な総論を書くのでなく,これは部会が検討していく際に参考にすべきこととして,各論で根幹にかかわるテーマが出てくれば,最終的にいちばん述べたいところを中心に基本的考え方を基本構想の序文のような形にしていけばいい。今のところはこれでいいのではないか。
市民がどうするか,どんなまちをつくるかだけでなく,京都は世界的にかけがえのない都市であり,歴史を担った都市づくりの世界的モデルとしての役割があるとか,周辺市町村とのかかわりも含め京都が近畿でどういう役割を果たしていくべきかといった,もう少し大きな都市の役割論を取り上げていただきたい。京都は自分たちだけが楽しく暮らしていけばいい都市ではない。
保存や継承は重要だが,京都は変わっていくと思う。25年たつと今持っているストックの半分は入れ替わってしまうのではないか。万物流転的なダイナミズムの中での変わり方を強調し,もう少しアクティブに考えたほうがいい。
ここには安全の概念が入っていないが,大地震が起きれば京都の中心部は壊滅的な打撃を受ける。そのとき次はどんなものをつくるかが問われる。地震が起こったつもりで,こういう継承のやり方をするのだとはっきり示すべきだ。もう1つは,例えば芸術家への優遇措置とか,どんな国籍の人にとっても暮らしやすい,居心地のいい場をつくる国際化を考え,インターナショナルという概念を超えていく必要があるなど,各論で述べていきたいところがある。今のところはこれでよい。
山田委員
まだ形成過程で,このままでは今の基本構想の前文や基調テーマを超えるものになっていない。もっと格調の高い文章が必要。いちばん問題なのは「世界文化自由都市」を3つに分解したことで,「世界文化自由都市」は分解できない概念であり,このように分解すると極めて平凡な手垢のついた言葉になってしまう。「世界文化自由都市」は高い理想として掲げておいて,何か新しいものを考えなければならない。「伝統を生かし創造を続ける都市」を超える言葉を見つけるのは難しいと思うが,それに挑戦してほしい。新基本構想には今の基本構想に代わる何かを出さなければならないが,それが明確でない。
飯田部会長
全体的基調として経済的,生産的視点が弱い。理想のまちがつくられてもその中で働き,生活していかなければならないわけで,21世紀の新しい経済や産業のあり方について付け加えてほしい。関西では,「京都で勉強し,大阪で働き,神戸に住む」と言われるが,大学卒業後京都に残る学生がほとんどいないのは大問題で,優秀な人に生活し働いてもらわないと都市の活力は出てこない。
本日各委員からいただいた意見をとりまとめて,次の起草委員会で報告したい。
(2) テーマ別討議「住宅・住環境」について
飯田部会長
テーマ別討議に移る。最初に事務局から資料を説明していただく。
事務局(中村都市住宅局長)
――(資料2「「住宅・住環境」の視点から新基本構想(グランドビジョン)を考える」に基づき説明)――
事務局(小森都市計画局長)
――(同上資料に基づき説明)――
飯田部会長
何か質問があればお伺いしたい。
清水委員
定期借地権を利用した住宅供給について,何戸ぐらい供給されているか,価格はどのくらいか。
事務局(中村都市住宅局長)
資料を確認して,後ほどお答えしたい。
飯田部会長
ご意見をお伺いする前に,本日欠席の奥田委員から文書にてご意見をいただいているので紹介したい。「地域コミュニティの継承・再生」「住環境整備の推進」「まちづくりへの支援体制」の各項目で,「住民参加,住民主体のまちづくり」などについて書かれているので,お読みいただきたい。
それでは,ご自由に発言いただきたい。
三村委員
現在の住宅政策の安全・安心という点について,神戸の震災時になぜ6千人もの命を失ったのかという建築や都市計画の専門家の反省があった。京都の場合も住宅耐震診断士など住宅内での安全確保のための予防措置をやろうとしている。福祉面でもバリアフリーということで高齢者の住まいなどを改善しなければならない。改善すれば現在のストックでも快適に安全に住めるわけだが,例えば住宅耐震診断士制度をつくっても,診断を受けたのが2年間で 130戸で,診断の結果,改造に 200万円かかると言われれば誰も改善しない,ということになると意味がない。
住宅は社会的資産であり,社会福祉や市民の安全を守る観点からすれば,私的な物財に対してどのように市や公共がかかわるのか決断が必要だ。個人の問題として放っておくのか,資金や技術を提供して支援するのか。他方で個人の資産に対して公共が支援するのはおかしいという考え方もある。
特に高齢者問題等については福祉との関連があって,コミュニティワーカーやケースワーカーが現場に行っても,今の福祉の制度や知識では何もできない。住宅政策と福祉政策をつなぐ要のコミュニティワーカーなどが動けるように,制度や資金等の仕組みをどうつくるか課題だ。看板を掲げるだけでなく,本当にやるかやらないかが問われる。
北村隆一副部会長
サンフランシスコ地震の後,古い建造物が土台と柱を固定していないことが分かったので,市がボルトで留めることを義務付けた。補助があるかどうかは知らないが,基本的に費用はホームオーナーが出す。市の立場としては,大きな被害が起こったとき責任を持って救助できないので,ホームオーナーが自分の責任でやるという考え方だ。1つのモデルとして,市がこういうことをやりなさいと言って,市民がそれに対応して私の責任としてそうするという形で,行政がより積極的な役割を果たしていくことも可能ではないか。
川崎委員
基本構想の基本的考え方にしても住宅・住環境にしても,2025年がどんな姿になるかが描かれないと,どう進んでいいのか分からなくなる。例えば情報メディアが進むとメリットもある反面,匿名性や個人がバラバラになるといった問題が出てくる。高齢化社会や環境問題の深刻化など,2025年に何を解決すべきかはっきりさせる必要がある。一般的に京都とはこういうものだという感じで書かれているように思う。
住環境に関連して,市民の要求,多様な世代の要求を満たすというが,多様な世代がバラバラの要求を出し,それにいちいち応じていたらどうなるか。多様な世代が共生できるように,市がある程度のガイドラインを出す必要がある。
同時に地域のまとまりが重要だ。京都には地蔵盆という地区のまとまりの仕組みがあるが,他の都市の人や単身者が入るとそれが崩れていく。地区のまとまり,地区の個性やアイデンティティがはっきりする形の都市づくり,住環境づくりをすべきだ。高齢化社会においては各地域で相互扶助の気持ちが自然に起きて,人間が人間と助け合うようにしないと,いつまでも施設づくりに追われてしまう。
京都は住宅の木造率が非常に高い。住環境としてはコンクリートより木造がいいし,コスト的に手直しも木造のほうがはるかに有利な点がある。安全性や火災等の問題はあるが,京都を木造都市にしようという議論もある。しかし,そのために輸入木材を入れては別の環境問題を引き起こす。前回も申し上げたが,近いところでの林産,木材生産と木造住宅の循環が必要だ。また,それを支える大工さんや工務店など技術の継承者を育てなければならない。生産の仕組みと循環を考えないと,木造都市の継承はできない。
野間委員
路地の問題を積極的に解決していかなければならない。戦前木造住宅の調査で東山区を担当したとき,老朽化しているが入口が 1.8m以下で建て替えができず,住めない路地の住宅がたくさんあった。地域の高齢者も若い人に住んでほしいと望み,若い人も仕事の関係で都心に住みたいと思っても,建て替えられないので銀行融資も下りず,路地の中が空洞化している。路地は京都のまちのブロックを考えるとき非常に重要なコミュニティの場で,路地に若い人が住むことに交通や高齢者,子供の問題など都市問題の解決法がいっぱいつまっている。
5年前に建築士会連合会で一人住まいの高齢者を全国7ブロックに分けて調査したとき,鉾町の路地に住む高齢者調査を担当した。「京都の高齢者はなぜ美しいか」という副題がついていたが,高齢者の住まいとしての環境は必ずしも良くないのに,皆路地から出て行こうとせず,身体が動く間は路地に住み続けたいと言う。なぜそうなのか。本当の快適さとは何かを考えさせられた。
建築基準法ができた昭和25年には日本は壊滅状態で,国全体としての指針が必要だったため全国一律の法律ができた。そうしなければ復興できなかったと思うが,焼け残った京都の歴史性からは合わない。その当時は各都市の歴史性など考える余裕がなかったのだろう。建築基準法のハードルは非常に高く,京都に違法建築物が多い原因の1つとなっている。路地の問題も含めて,京都に合った,独自のまちを維持していくための法制度が必要。それが木造住宅や京都が維持してきたコミュニティやまちブロックの復興につながる。まちコミュニティは祭りを通して多様な世代が互いを主張しながら交じり合っている。木造住宅が並んでいる路地を縦にすればいいというものではない。真の快適さがどこにあるかを考えたうえで,それを支える施策が必要だ。
ビライ委員
建築条例や建築基準の話の前に,都市について考えたい。京都の都市はどのように形成されてきたか,他の日本の都市の形とどう違うか,「シティ・オブ・ザ・シティズ」としての京都にはどのような特別の点があるかといったことを考えている。都市の形と言えば,ニューヨークの摩天楼やブラウンストーンのような形態が思い浮かぶが,それがどのようにしてできたかを考えると,条例や背後の経済など見えないものが支えているように思う。都市の姿や形は住民の願望が具体的に表れたもので,皆の願望や希望,考えていることが表れる。条例や建築基準がある程度それを表現するが,京都は他の日本の都市と同じに見える。寺や庭には夢のような京都が残っているが,住宅などには果たして皆の考えるような京都が残っているのか。
市がいろいろプログラムを運営しているが,それは具体的にはどんな形態か,どこが特別なのか。京都だけにある形態はどんなものか。京都の町家は有名だが,それがどこからきたか考えるべきだ。京都の都市計画を決めるとき,京都の土地で家を建てるということだけでなく,21世紀にどのようなライフスタイルが京都に存在し,それにこたえる形はどんなものかを問わなければならない。
京都は学生が多いまちだが,学生は京都で日本の伝統や日本文化を経験しているのか。学生は町家に住まないで,下宿やワンルームマンションに住んでいる。そのほうが便利だからだ。どうすれば学生に日常的に町家を経験させられるか,住みやすく便利にできるのか。青春時代に感じたことは後でその世代の政策に役立つのではないか。
レム・コールハースの『錯乱のニューヨーク』にはニューヨークの形態とその背後にある経済状況や願望などのメタファーから,具体的物質としての都市までが書かれており,京都の形態をどう読み,考えるかの参考になる。これからつくる京都の住居の土台,都市の寸法や色についても考えてはどうか。
宗田委員
住宅需要がどう変化していくかを把握しないと住環境の規制はできない。2025年を前提に話すが,現在日本の家族は激動期にある。「20世紀は家族の時代だった」と言う人類学者がいるが,21世紀は家族の時代ではなく,家族の崩壊が起こる。資産価値が上がらない時代とか,フローからストックの時代に移るという市の認識には疑問を感ずる。欧米先進国は右肩上がりの時代が終わって20年近くたつが,家族の崩壊が進みどういう住宅問題が起こっているか見ておく必要がある。例えばドイツでは結婚しないカップルがそれぞれ家を持ち,世帯数が増えている。単身世帯は2000年には7,8割に達すると言われる。日本でも同じ事態は避けられない。住宅政策に家族のあり方を合わせることはできない。未来の住宅需要が分かりにくい時代だと思う。
京都の学生がどこに住んでいるかという話で,数年前に過去25年の京都府立大の自宅外通学生の住居を調べたことがある。学生は住宅を文化的理由では選択していない。不動産屋が売る住宅で決まる。不動産屋が儲けの大きいワンルームマンションを紹介するため,急激に増えた。そういう意味で単身世帯が増える中で市場がどういう動きをするかは無視できない。
欧米の都市は急激な家族や住宅市場の変化に耐えながら,歴史的建造物や都心商業を守っている。安全も福祉も大事だが,それがこれからの25年間で二重三重に難しくなる。綿密に市場や家族の動向調査をしながら,現実に即した処置が必要だ。簡単に予測はできない。
山田委員
京都の住環境の問題は2つある。1つは「狭い路地に多数の老朽木造家屋が密集して」という状況に対して「京町家の保全・再生・活用促進」「袋路の再生促進」がうたわれているが,それがどう可能かが見えてこない。袋路のデータが出ているが,できれば中京や下京の数字も加えていただきたい。書くのは簡単だが,具体的にどうすれば可能になるかが見える形にしてほしい。
もう1つはマンション問題で,若い人たちが住みたくなるまちのイメージをはっきりさせ政策を出す必要がある。マンションがどんどん建っているが,まちなかでは抑制し,新しいまちでつくっていくのが1つの回答だ。どうしても反対できないマンションについては,前回紹介したように祇園祭に参加できることを条件として入ってもらうなどの解決方法もある。それが必要だと書かれているのはいいが,そこから先のイメージが分かるものにすべきだ。
三木委員
単身でマンション住まいをしており,自治会に入っていない。マンションとして自治会に加入することも総会で話し合われてはいるが,まだ加入できていない。マンション住まいでも子供のいる家庭には回覧板が回ってくるが,単身者はそこから漏れている。地域への参加が難しいので,地域活動でなく環境NGOや市民運動など志を同じくする市民の集まりに参加することが自然と多くなる。
地域でいかに住むかということでは,家族の形やライフスタイルは多様化しており,今までのように学区で話を下ろしたので住民には徹底されているはずだと言われても,聞いていない人が出てくる。市役所のやることに関心がある住民,皆のために何かしたいと思っている市民はたくさんいる。学区で話を下ろしたからOKというやり方と違う何かを,ここに書かれている地域が指しているのか,家族像や住まう人の質が変わることをどこまで考えているのかが分かりにくい。
長谷川委員
住宅がフローからストックに移るという認識には疑問を感じる。これからのライフスタイルの変化は女性を中心に起こると思う。夫が世帯主という暮らしから個人主体で生活するパターンが増え,地域コミュニティとのかかわりはどうなっていくかを考えると,地域コミュニティの新しいリーダーを育てていく転換期にあるのではないか。基本構想ともかかわるが,これまでのように家庭でなく,個々人に対してどのようにまちづくりの考え方をPRし,参加する仕組みをつくっていくかが重要なポイントになる。
もう1つは,女性がこれからどういう住まい方をし,どういう老後を迎えるかを考えると,一ヵ所に定住し生活していくとは思えない。子供を育てているときには都心の狭いところより周辺部の自然が豊かなところで生活したい,老いを考える年代になると都心部の医療も買物も便利なところで生活したい。一世代同じところで過ごすかどうかも時代とともに変わる。そのような中で京都が長い間蓄積してきた町家に代表されるストックをどう残していくかが重要な課題。そのために長期滞在型の人を巻き込んだ住宅施策を考えることも必要だ。
清水委員
この審議会に求められているのは2025年をゴールとする京都のまちづくりや住まいづくりでなく,21世紀全体を見わたして2025年までに何をするかということだと思う。2025年は21世紀全体から見れば入口であり,21世紀全体の方向付けということだと思う。路地や木造3階建住宅などの問題は,人口と土地の価格,現在の経済的,社会的環境の中で必然的に起こっていることだ。
基礎資料に2025年には現在の人口が半分になるとの人口予測がある。20歳から30歳くらいの人口はもっと少ないだろう。土地の価格が5分の1,10分の1になれば,木造三階建住宅の問題も路地の問題もなくなる。空き家になったものをどうするかを考えなければならない。
いちばん大事なのは安全の問題で,個人の考える安全と行政の考える安全は分けて考えなければならない。行政としてまち全体の安全をどうするかを考えると,空地が必要だと思う。神戸の震災時に火災をくいとめたのは空地や緑地だった。これから 100年先に向かって今の公園用地を10倍,20倍にするというように,空地の多い京都をつくっていく方向づけを検討してほしい。ミクロ的問題はその時々の市場原理で必然的な方向に向かっていく。
西村委員
ライフスタイルの変化がいちばんのポイントだと思う。伝統文化に携わっていると,日本の文化や精神が壊滅的状態にあることをひしひしと感じる。漆器ひとつ売るにしても,ライフスタイルを伝えなければならない。現状を昔どおりにするのは難しい。女性誌を見ても日本の家屋や庭園の写真はほとんどなく,今の京都の住宅ストックと皆が憧れている住まい像が合うか合わないかは一目瞭然だ。こういう現況を見つめたうえで,今の住環境での京都らしさは何かを考えなければならない。
学生も独身で会社勤めをしている人も,京都の文化に触れられないまま京都を離れていく人が多い。ライフスタイルを否定するのは難しいので,そういう人たちが自然に京都らしいところに入っていける環境をどうつくるか,京都らしい部屋や町並みを供給できるのかどうかに視点を当てるべきだ。
ビライ委員
学生やワンルームマンションの話があったが,方法はいろいろあると思う。まず京都市はどのような文化やストックを持っているか,それをどうすればうまく使えるかを提起することが必要だ。建物は動かないが人は動く。通過する人が町家に残っている文化や記憶を経験できるようにすべきだ。どのような方法でその経験をさせるかを考えるべき。例えば市がそういう不動産をつくって住みやすく便利にできればいいと思う。
飯田部会長
本日いただいたご意見を計画案の中に取り込んでいく努力をしたい。次回は3月の開催,テーマは「河川・上下水道」を予定している。最後に,委員の質問に対して事務局からお答えいただけるものはあるか。
事務局(中村都市住宅局長)
清水委員からご質問のあった定期借地権付き住宅についてお答えしたい。平成9年度までに市全体で81戸,京都市住宅供給公社の実績は55戸である。そのうち最近建てた団地は敷地面積の平均 191m2,延床面積の平均128m2,借地権付き分譲価格が平均3,890万円,地代は月額平均 3.6万円,抽選倍率は平均10倍,最高で26倍,最低で2倍である。
フローからストックへ移っていくのではないかということに対していろいろご意見をいただいた。人口の流動や核家族化などはあるがダイナミックに変わっているという意味で申し上げたが,今回のご意見は十分汲み取って行政に生かしていきたい。
事務局(小森都市計画局長)
袋路再生の取組状況について報告したい。昨年建築基準法が改正され,袋路等は1団地として扱える連担設計制度が創設された。それが生かせないかということで,別に委員会を設け専門家に検討していただいている。制度として袋路再生の有力な武器になると思うが,権利関係が非常に複雑で,その整理に時間がかかるという実態もある。
飯田部会長
他に特にないようであれば,本日はこれで閉会させていただく。
3 閉 会
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