新指定・登録文化財 第22回京都市文化財
ページ番号5518
2020年4月6日
建造物
〔京都市中京区一之船入町 廣誠院〕
廣誠院にある書院や茶室・広間は,建築技術者であり実業家としても活躍した伊集院兼常(1836~1909)が明治中期に建てたものである。
13畳半の書院は台目(だいめ)畳3畳敷きの床と棚を設けている。書院の北側にある10畳の次の間には地袋と袋棚を組み合わせた棚が付けられている。書院の南から東にかけては,軒の出が3メートル以上の庇になっており,深い軒を1本の丸太桁が支える軽快な構成になっている。茶室は3畳中板入りで,庭園の流れの上に建つ。また,8畳の広間も茶室として用いられ,水屋に接続する。広間の北に設けてある床は,東端を袖壁で隠し,西端の側壁を斜めに取り付けて間口を狭める特異な構成である。
この建物は数奇屋普請の技術が遺憾なく発揮されている。後の改変も見られるが,明治期の優れた数奇屋邸宅として貴重である。
美術工芸品
〔個人所有 京都国立博物館に寄託〕
祇園社の祭礼の御旅所である祇園社大政所が高辻烏丸に所在した頃の姿を描いた作品。たなびく霞と雲によって3つの場面に分けられており,画面右上には山鉾巡行,左上には御輿渡御,そして画面中央には一際大きく湯立神楽(ゆたてかぐら)の神事が行われている大政所が描かれている。中世末期の大政所の詳細が伺える希少な絵画資料として貴重。
木造毘沙門天立像(もくぞうびしゃもんてんりゅうぞう)1躯(指定)
〔京都市左京区鞍馬本町 鞍馬寺〕
寄木造・玉眼のほぼ等身大の毘沙門天像。鞍馬寺には,その草創の際に毘沙門天を安置したと伝えられることから多くの毘沙門天が残るが,本像はその内の1躯。毘沙門天(多聞天)像は通常,多宝塔を捧げる姿であるが,本像は戟(げき)を握って左手を振り上げ,右手を腰に当てて左足を踏み出すという鞍馬式と称されるポーズをとる。13世紀前半の慶派(けいは)の優れた毘沙門天像として貴重。
若宮八幡宮社関係資料 108点(指定)
〔京都市東山区五条橋東五丁目 若宮八幡宮社〕
若宮八幡宮社は源氏にとって縁の深い左女牛(さめうし)西洞院に源頼朝が八幡神を勧請し,1社として本格的な体裁を整えたことに始まる。本資料は中世を通じて歴代将軍に篤く保護されてきた当社の社歴を証するもので,特に「足利将軍参詣絵巻」は足利将軍の社参を絵画化したものとして貴重な資料。
阿弥衣(あみえ) 1領(指定)
〔京都市山科区大宅奥山田 歓喜光寺〕
時宗(じしゅう)独特の法衣である阿弥衣は,麻をむしろ編みにした質素なもので,時宗僧にとって象徴的な意味を有していた外套衣である。本資料は,最も古い法脈を有する六条道場・歓喜光寺に伝えられたもので,元亀3年(1572)の年記があり,遊行派の総帥である遊行上人(ゆぎょうしょうにん)第30代他阿有三上人の所持していた衣である。
阿弥衣(あみえ) 1領(登録)
〔京都市東山区円山町 長楽寺〕
長楽寺に伝わる阿弥衣は,第二次世界大戦後,双林寺より譲り受けたものである。天台宗であった双林寺は至徳3年(1384)時宗に改宗し,時宗国阿派の本山となるも,明治期に再び天台宗に改宗した。本資料は銘がないものの,繊維の状態などから歓喜光寺所蔵の阿弥衣とさほど隔たりのない時期に製作されたと推測される。
名勝
〔京都市中京区河原町通二条下ル東入ル一之船入町 廣誠院〕
廣誠院庭園は,当地が伊集院兼常の所有であった明治25年(1892)からの5年間に,建物と共に造られたと考えられる。伊集院は建築と庭園に造詣が深く,当庭園は彼の強い指示の下に築造されたと考えられる。
庭園は書院と茶室,広間に南面し,園地の水を高瀬川から取水し,再び元の川へ戻すという,現在は見られなくなったこの地域特有の庭園形態を残す。東西に細長い園地はイロハモミジに覆われている。
庭園と建物は見事に融和している。流れをまたいで立つ茶室を支える華奢な柱は,護岸の一部を兼ねた礎石に立つ。渓谷を思わせる書院の西側には沢飛びが打たれ,書院と園地との高低差には,真黒石の大きな沓脱石(くつぬぎいし)が介する。更に書院の大きな庇を支える柱の礎石が池中に据えられるなど,随所に軽やかな趣きが演出されている。
建物と水流が融和する近代の黎明期に造られた庭園として貴重である。
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