新指定・登録文化財 第31回京都市文化財
ページ番号175574
2024年2月8日
京都市では京都市文化財保護条例に基づき,文化財の指定・登録を毎年行っています。
平成25年3月に京都市文化財保護審議会から答申を受け,新たに5件を指定し,1件を登録しました。(平成25年4月1日告示)
これにより,京都市指定・登録文化財は全部で492件になりました。(平成25年4月1日現在)
*〔 〕内は,文化財の所有者又は保持団体名です。
美術工芸品(絵画)

板絵著色忠度最期図(いたえちゃくしょくただのりさいごず) 1面 (指定)
西川祐信筆
〔京都市上京区馬喰町 北野天満宮〕
本図は北野天満宮の絵馬所に懸けられた西川祐信(すけのぶ)(1671~1750)筆の絵馬である。銘文墨書は薄れて判読が困難だが宝永8年(1711)4月下旬の年紀があり「宿坊能貨(のうか)」と記される。同社の『宮仕(みやじ)記録』宝永8年4月20日条にある「能貨入来,明日大絵馬打申候」が本図に該当すると思われ,翌21日に懸けられたと判明する。奉納者の安井多重郎については未詳。本図の主題は『平家物語』巻第九の「忠度最期」で「源平合戦図屏風」等の『平家物語』に取材した絵画でも取り上げられる。
西川祐信は絵本や肉筆美人画で知られた京都の浮世絵師で,祐信の確実な在銘本は38歳まで確認できないが,絵本や肉筆美人画で次第に頭角を現し,当時「浮世絵の聖手なり」と称賛され,鈴木春信などに多大な影響を及ぼした。祐信は晩年に数種の武者絵本を出版し,肉筆画も小品の美人画が多いが,本図は大画面の武者絵も破綻なく描ける技量がうかがわれる祐信壮年期の貴重な基準作である。

板絵金地著色曳馬図(いたえきんじちゃくしょくひきうまず) 1面 (指定)
渡辺始興筆
〔京都市上京区馬喰町 北野天満宮〕
本図は寛延3年(1750)2月に北野天満宮へ奉納された絵馬で現在は絵馬所に懸けられる。同社の『宮仕(みやじ)記録』寛延3年2月23日条にある「能悦(のうえつ)旦中ヨリ一間余之絵馬掛申度(もうしたき)旨,常円(じょうえん)立合」が本図に該当し同日に懸けられたと見られる。奉納者の長野美末については未詳。
筆者は,画面中央下部の落款(らっかん)から渡辺始興(しこう)(1683~1755)と知れる。始興は近衛家熙(いえひろ)(予(よ)楽院(らくいん))に仕え,禁裏の画事も担当するなど,18世紀前半の京都画壇で高い地位を占めた。写実性を絵画に取り入れつつ,既成の流派体制に縛られず様々な様式や技法を研鑽した始興は,18世紀半ばに活躍する円山応挙の先駆的存在として高く評価されている。
本図の主題は馬を曳く仕丁(じちょう)の姿を描いた曳馬図で,絵馬に多く見られるが,典型的な激しい動勢はなく,足踏みする馬とその手綱を曳く仕丁の姿に極めて自然な動きと力の加減が描出される。
美術工芸品(彫刻)

木造聖観音菩薩立像 (しょうかんのうぼさつりゅうぞう)1躯 (指定)
〔京都市下京区中堂寺西寺町 勝光寺〕
本像は本堂東脇の間に安置される日蓮宗勝光寺の客仏である。本像の背面には日通による「南無妙法蓮華経観世音菩薩」の名号,および「當山(とうざん)卅(さんじゅう)五(さんじゅうご)代日清(花押)/明治九年九月合併者也」の墨書がある。この合併というのは真如寺との合併を指す。真如寺は『山城名跡巡行志』(宝暦4年〈1754〉跋(ばつ))によれば,貞観4年(862)に藤原良縄(よしただ)(814~868)が文徳天皇の菩提を弔うため建立した天台寺院で,万治年中(1658~61)に法華宗の寺として再興したとされる。本像背面に名号を記した日通は,勝光寺に残る墓碑によれば,同寺中興開基で延宝7年(1679)に示寂(じじゃく)したことが知られる。真如寺の創建は貞観4年(『日本三代実録』巻6)で,本像は創建時の真如寺の旧像と想定される。
本像は蓮肉(れんにく)も含めた頭体の主部を針葉樹材(カヤか)から彫成する一木造で,切れ長で比較的見開きの強い目,低く太い鼻梁,彫の深い口唇などの顔貌表現,頭部の比例が大きく全体として寸詰まりなプロポーションは9世紀前半の作例に通じる。その出来映えは,この時期の彫像の特色をよく伝える優れたものであり,伝来した真如寺の開創期の作とは同定し難いが,藤原良縄ゆかりの像である可能性があり,平安京が開かれて間もない時期の造像例として,その価値は極めて高いと言えよう。
美術工芸品(書跡)

方広寺鐘銘草稿 1巻 (指定)
〔京都市中京区上本能寺前町 京都市〕
豊臣秀吉の発願で創建された方広寺大仏殿は慶長大地震による倒壊や火災を経て,同19年(1614)4月梵鐘完成を以て竣工した。この梵鐘の鐘銘にある「国家安康」が「家康」を分断し,「君臣豊楽」が豊臣家を君主として楽しむの意があると徳川家康が難じて,同年11月には大坂冬の陣が勃発,豊臣方滅亡の遠因となった話はあまりにも有名である。この梵鐘は方広寺に現存し,重要文化財に指定されている。
梵鐘の鐘銘作成は総奉行の片桐且元(かつもと)が.漢詩文の才で知られた南禅寺の文英清韓(ぶんえいせいかん)(1568~1621)に命じたもので,清韓自筆の草稿本が2点現存する。1点は,東福寺に伝来し,現在MOA(エムオーエー)美術館に所蔵される「方広寺大仏鐘銘」1幅(重要文化財)で,本巻がもう1点にあたり,一時所在不明であったが,平成20年京都市歴史資料館に寄贈された。
本巻の署名の書体と全体に振られた訓点や訂正増補の跡により,一見すると本巻が草稿本でMOA美術館本が清書本のようだが,現存する梵鐘銘と比較すると両本とも後半部分が相違する。見消(みせけち)のうち巻末の秀頼の官職名はMOA美術館本で「右丞相」とされるが,本巻では梵鐘の銘文通り「右大臣」とされるうえ,見消で2か所,挿入文で6か所が梵鐘の銘文に反映されているため,本巻はMOA美術館本より後の草稿であるといえる。方広寺梵鐘の銘文作者文英清韓の自筆草稿で,推敲過程がわかる史料として,貴重である。
美術工芸品(考古資料)

平安京右京三条二坊十六町「齋宮」邸出土品 566点 (指定)
〔京都市中京区上本能寺前町 京都市〕
平成11年,京都市中京区西ノ京東中合町1に所在する西京高等学校新校舎建設計画に伴う発掘調査において,平安時代の邸宅跡と邸宅に関連する遺物が多量に出土した。同校敷地は平安京右京三条二坊十五・十六町にあたり,十六町が1町規模の宅地である。十六町は園池跡から出土した墨書土器に,「齋宮」,「齋雑所(さいざっしょ)」などと記されていたことから,伊勢神宮に仕えた齋宮と深く関わる邸宅であったことが明らかとなった。
齋宮は,伊勢に下った齋王やその居処の齋王宮、そして齋王自身のこともいう。齋王は,天皇の代替わりごとに神の御杖代(みつえしろ)として伊勢神宮に奉仕する皇女で,『延喜式』によれば,未婚の内親王または女王の中から卜定(ぼくじょう)され,勅使が齋王家に遣わされ,初齋院に入るまで齋王家で潔斎の日々を過ごした。
発掘調査では,園池関連遺構,掘立柱建物跡群などを検出し,出土遺物の大半は,園池関連遺構から出土した。出土品は,土師器,須恵器,灰釉陶器,緑釉陶器,輸入陶器,石製品,木製品などである。
墨書土器は灰釉陶器の椀皿類の出土が最も多く,墨書の内容は大きくみて齋宮関係の墨書群と特定の数詞を記した墨書群に区分することができる。齋宮関係墨書は,「齋宮」,「齋雑所」,「齋舎所」などがあり,数詞墨書には「清 十二」,「六十」,「卅三」などがある。また,吉祥句「冨」あるいは,呪符記号「井」を記したものも出土している。
人形代(木製品)は,平安京内出土の人形代としては最大級で,頭部・顔面は墨書で写実的に描写している。墨書から性別を判断することはできない。
以上の通り,9世紀後半から10世紀前半における,皇族(内親王)クラスの私的な生活様式に加え,「齋宮」邸という公的・祭祀的一面を検討するうえで欠かせない重要な資料である。
無形民俗文化財(民俗芸能)

真如堂の十夜鉦 (登録)
〔京都市左京区浄土寺真如町真正極楽寺内 真如堂十夜鉦講〕
真如堂の十夜鉦(しんにょどうじゅうやがね)とは,毎年11月5日より15日までの間,天台宗の鈴聲山(れいしょうさん)真正極楽寺の本堂で行われる十日十夜別時念仏会(じゅうにちじゅうやべつじねんぶつえ)(十夜法要)に伴う,いわゆる双盤念仏(そうばんねんぶつ)である。
十夜法要は,15世紀に伊勢貞国が真如堂で行ったのが最初といわれ,双盤念仏は十夜法要が基盤となって生じた。今も期間中は,伊勢貞国像が脇壇前に祀られる。
真如堂では8名が左右の鉦座に上がり,独特の節で唱える念仏にあわせて,一尺二寸の吊り鉦鼓(しょうこ)を打つ。伝承されている曲は17種類で,そのうち8曲は念仏が伴い,他の9曲は素鉦(すがね)と呼ばれ,打ち方の妙技が披露される。
真如堂の十夜法要では,17世紀には礼堂で僧侶が鉦鼓を撥(ばち)で打ち,庶民は縁で合掌していたが(「都名所図巻」)。18世紀に入ると,各種の講が成立し始め,鉦講(かねこう)は天明4年(1784)の序文がある「六萬唱鉦講(ろくまんしょうかねこう)過去帳」より確認される。寛政元年(1789)の寺務日誌の10月15日条には,十夜法要の結願(けちがん)日に「六萬唱鉦講これを打つ」と記される。
真如堂の十夜鉦は,十夜法要の発祥の真如堂において継承されてきた双盤念仏で,僧侶による念仏会(ねんぶつえ)から民俗的色彩の強い行事へと変容する歴史的過程が明らかであり,鉦講によって非常に多くの曲と洗練された演奏技術を現在に伝えており,貴重である。
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