新指定・登録文化財 第19回京都市文化財
ページ番号5500
2020年4月6日
建造物
〔京都市上京区観音寺門前町〕
観音寺は北野天満宮参道のニの鳥居の西側に位置する。当建物は本堂(内陣)と礼堂(外陣)を造合(つくりあい)(中陣)でつなぐ複合形式の建物である。本堂部分は細部の様式から17世紀前期の建築とみられる。一方礼堂と造合は瓦銘などから元禄7年になって増築されたことがわかる。
本堂は円柱・出組を用いた本格的な構造形式を備えた仏堂である。元禄の増築時に正面2本の柱と頭貫を取り払い,代わりに大虹梁を入れているが,大虹梁の上部には建築当初の部材が残されている。
一方礼堂および造合部分は軸部を角柱・舟肘木(ふなひじき)とするなど簡素な形式になっており,本堂とは明確に手法を変えて本尊の空間と参拝者の空間を建築的に区別している。
このように17世紀前期の建立時には方三間の仏堂であったものを,元禄7年に増築している。本堂・礼堂ともに建築された時期の様式をとどめる質の高い建築である。
美術工芸品
〔京都市左京区花脊原地町 峰定寺〕
本扁額は,松樹にとまる鷹と,狸を捕らえた鷲を1対の画面にそれぞれ配したものである。表裏の銘記により,本図は,峰定寺の中興と称される元快の25回忌である宝暦元年(1751)に,当時の住職深快により奉納されたもので,渡辺始興(わたなべしこう)(1683~1755)によって描かれたことがわかる。始興は,和漢に及ぶ伝統的な様式に通じ,また,狩野派,特に探幽(たんゆう)の弟尚信(なおのぶ)の作風と光琳(こうりん)の様式を会得するなど,広範な画題,技法に精通した画家である。写生を重視したことでも知られ,その作風は華やかで瀟洒な趣をもつ。本図は同時代資料である銘文をもつ始興晩年の基準作として,また,彼の広範な画業研鑚の成果を示すものとして貴重である。
板絵金地著色繋馬図(いたえきんじちゃくしょくつなぎうまず) 1面(指定)
〔京都市東山区妙法院前側町 妙法院〕
本図は金地に裸の黒馬を配したもので,轡(くつわ)などの馬具以外は墨一色で描かれている。画面の銘記や豊国社の社僧梵舜(ぼんしゅん)の日記「舜旧記(しゅんきゅうき)」の記事から,本図の筆者は狩野山楽(さんらく)(1559~1635)で,安養寺喜兵衛尉氏親により慶長19年(1614)6月1日に豊国社に奉納されたもので,もとは絵馬であったことがわかる。山楽は豊臣家の御用絵師を勤め,雄大かつ優美な作風で知られ,桃山時代を代表する画家の一人である。本図は豊国社の遺品の一つであり,また,山楽が56歳の時に描いたことが確認される基準作例として貴重なものである。
木造金剛力士立像 2躯(指定)
〔京都市右京区嵯峨鳥居本深谷町 愛宕念仏寺〕
本像は平安時代後期の和様を基に,天平様式の復興のうえに成立した写実的な鎌倉時代の様式を加味したもので,鎌倉時代前半期の制作と判断される。当時の京都にいかにもふさわしい造型であり,市内に所在する金剛力士像のなかでも優品の一つに数えられるものとして貴重である。
湿板写真(しっぱんしゃしん)及び鶏卵紙(熊谷直孝像) 3枚(指定)
〔京都市中京区下本能寺前町 鳩居堂〕
本写真3枚は,いずれも熊谷直孝(なおたか)(1817~75)の肖像写真である。熊谷直孝は鳩居堂7代目当主で,幕末期の勤皇家としても知られている。写真3枚のうち2枚は湿板写真で,残る1枚は鶏卵紙による焼付け写真である。わが国における写真の歴史は,銀板写真に始まり,つづいて湿板写真技術が長崎にもたらされ,安政5年(1858)には日本人による湿板写真撮影が行われるようになった。本湿板写真2枚の木枠裏面には直孝の孫直之による墨書銘があり,これら2枚は安政6年,直孝42歳の折に板倉槐堂(かいどう)(1822~79)により撮影されたものとわかる。鶏卵紙による焼付け写真1枚は銘文を伴わず,しつらえにも趣向が凝らされていることから,若干撮影時期が遅れる可能性がある。本写真は,京都における撮影とは必ずしも断じえないものの,当時としては大判で高度な技術による湿板写真であり,市内最古のものと考えられるだけでなく,全国的にみても極めて早い段階のものとして価値が高い。
鞍馬ニノ瀬町出土銭 一括(指定)
〔京都市中京区上本能寺前町 京都市〕
平成10年1月28日,京都市左京区鞍馬ニノ瀬町で発見された埋蔵銭で,全部で38,362枚(別に破片115片及び曲物底板あり)に及ぶ。最古銭がB.C.187年初鋳の八鉢半両,最新銭はA.D.1310年初鋳の至大通寶である。銭の種類は87種で,中国銭38,074枚,朝鮮銭2枚,日本銭263枚,不明銭23枚である。本出土銭の推定埋蔵年代は,最新銭である至大通寶初鋳(1310)以後であり,これまでの調査例から判断して,南北朝時代の1350年±10年(1340~1360)頃と推定される。本出土銭は,これまで京都府下最多の出土例である京都駅北の関西電力敷地出土の31,415枚を上回り,現在のところ出土量では府下最多となり,全国では13位である。京都府下最大の出土量であることや希少銭が含まれる点などから,中世京都の貨幣経済の実態を知るうえで貴重な資料である。
有形民俗文化財
〔京都市左京区上高野三宅町 三宅八幡神社〕
俗に虫八幡ともいわれる三宅八幡神社は,子供の疳の虫封じの神として信仰を集めてきた。地元の伝承では,もともと田の虫除けの神であったが,後に子供の虫除け信仰に移ったとされる。詳細は分明ではないが,幕末から明治にかけて信仰が拡大し,京都市内と南近江を中心に,山城,摂津,そして北河内,大和までを含む広範囲に及んで信者を獲得した。
幕末から昭和初期までの間に奉納された大絵馬のうち133点の絵馬が,子供の疳の虫封じを中心に育児習俗,および十三参りなどの成人儀礼に関連したものである。なかでも幕末から明治30年代にかけて奉納された,疳の虫封じのお礼参りの参詣行列を描く絵馬群がよくまとまっており,描かれる人数の最多のものは大人109人,子供630人,計739人が描き分けられている。参詣の様子を忠実に写生したものとは考えにくいが,行列に参加する人物」それぞれに個人名が記された付箋が貼付されている他,服装や,子供たちの遊び方などの風俗が克明に描き分けられている。
本絵馬群は,時代性や地域性が窺える好資料であるとともに,育児・成人習俗というひとつのテーマに沿った絵馬としては,質量とも類をみないものである。
史跡
〔京都市伏見区竹田中内畑町 安樂壽院〕
安樂壽院は,鴨川と桂川の合流点に近い鳥羽の地に所在する。現在は真言宗智山派の寺院で,その創建は,鳥羽上皇により保延3年(1137)に鳥羽離宮の東殿に御堂が建立されたのに始まる。
この地は,鳥羽作道が通じる交通の要所であり,平安京の外港鳥羽津がおかれ,11世紀末に白河上皇が離宮を造営して以降は,次々と殿舎が造られ,院政期を通じて京外の一大別業の地であった。
中世以後,寺領の大半が散逸し,また兵火などで建物群も失われ,寺勢は次第に衰微したが,16世紀末に至って,豊臣秀吉が,安樂壽院に対し竹田に寺領500石を寄進し,子の秀頼も二重塔(多宝塔)を建立した。徳川家康も,秀吉に倣い,500石の朱印地を寄進し,これが江戸時代を通じて存続している。
現在の安樂壽院の境内地は,当初のそれと比べるとかなり縮小してはいるものの,創建当初の位置に存続していることは絵図からも明確であり,鳥羽離宮の歴史を研究する上で欠くことのできないものである。
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