新指定・登録文化財 第26回京都市文化財
ページ番号39313
2020年4月6日
建造物
久我神社本殿
久我神社本殿(こがじんじゃほんでん) 1棟 (登録)
〔京都市伏見区久我森ノ宮町〕
当社は延喜式(えんぎしき)神名帳(しんめいちょう)記載の久何(こが)神社とみられ,江戸時代には森大明神とも呼ばれていた。
現在の本殿は天明4年(1784)に再建された。棟札(むなふだ)によると,大工棟梁は小嶋弥惣太源久清で,播磨の宗左衛門と利兵衛が肝煎(きもいり)として造営に携わっている。
建物は三間社流造(さんげんしゃながれづくり)で,屋根は当初檜皮葺であったが,現在は銅板で覆っている。身舎(もや)内部は内陣と外陣に分かれている。妻飾などの彫刻がやや派手だが,これは播磨の大工が造営に関与しているためとみられる。
当社には,造営棟札の他に普請(ふしん)願書(がんしょ)の控えや板製の建地割図(たてじわりず)が現存する。建地割図は,現本殿の計画図とみられ,墨で建物の正面図と側面図が描かれている。
この本殿は,造営に関する史料がよく残っており,建築年代が明らかである。播磨の大工の関与が認められる比較的規模の大きな社殿で,保存状態も良好である。
秦家住宅
秦家住宅(はたけじゅうたく) 2棟 (追加登録)
〔京都市下京区油小路通仏光寺下る太子山町〕
秦家は祇園祭で太子山を出す町内にあり,江戸時代から薬屋を営んでいた。
主屋(おもや)は表の店舗部と奥の居住部を玄関部でつないだ表屋造(おもてやづく)り形式である。このうち店舗部と玄関部は昭和58年に本市有形文化財(建造物)に登録されたが,その後の調査で主屋居住部や土蔵の履歴が確認できたので,今回追加登録された。
主屋は明治2年(1869)頃に建てられた。その後明治35年に,1階床上部は改変され,2階も拡張された。現在,1階床上部は2列に室を配している。奥列に8畳のザシキと6畳のナカノマを設けているが,玄関から直接ザシキに行けるように,中廊下が配されている。
土蔵の建築年代は不明だが,材の古さから江戸時代後期の建築とみられる。昭和初年に敷地の南から曳家し,開口部も東面から南面に付け替えた。
当家住宅は,改造はあるものの,その経緯は概ね明らかである。既に登録されている主屋店舗部の外観は,階高を変えたり看板を作り付けたりして,変化に富む構成になっている。また,内部もミセやザシキなどの主要室は洗練された意匠である。敷地全体として,下京の伝統的商家のおもかげをよく残す住宅として貴重である。
美術工芸品
永運院文書
永運院文書(えいうんいんもんじょ) 179点(指定)
〔京都市中京区上本能寺前町 京都市〕
本文書は,金戒光明寺の子院,永運院本堂の襖絵4面の下張りに使用されていたものである。平成11年の襖絵修理の際に発見され,同16年に永運院から本市に寄贈された。その内容は豊臣秀吉,徳川家康に仕えた宮城豊盛(1554~1620)に関わるもので占められ,天正10年(1582)から文禄5年(1596)の年記が集中して見られる。内訳は書状が113点,検地・年貢関係28点,軍事関係26点,その他12点である。書状は主に秀吉の近習に関するもので,差出人には,片桐且元・黒田長政・小西行長などの名がみられる。書状以外では,豊盛が豊後の国で行った検地関係のものや,島津攻めに用いられた兵糧に関するものが目立っている。量が豊富であり,当時の小大名の生活や,これまでほとんど知られることのなかった豊臣政権下の小大名の交流を知る上で貴重な資料である。
有形民俗文化財
蟷螂山御所車及び装飾品
蟷螂山御所車及び装飾品(とうろうやまごしょぐるまおよびそうしょくひん) 1基 ・13点(指定)
〔京都市中京区蟷螂山町 蟷螂山保存会〕
蟷螂山は,文久2年(1862)以降巡行が滞り,その後の一時期を除き,久しく休み山となっていたものの,昭和56年に巡行に復した。現在保存会に伝存する江戸期巡行時の遺品は,御所車,旧かまきり,御所車の旧胴掛,旧胴組用角(すみ)飾り金具等である。
現御所車は唐破風(からはふ)であるが,絵画資料より,宝暦年間以前は網代車(あじろぐるま)の形状であったことが確認でき,その側面を飾った可能性がある裂が2点残されている。金糸を地引縫いで埋め,その上に鳳凰や草花模様をあしらったもので,祇園祭山鉾を飾る懸装品の中でも群を抜いて上質な作品である。
その他に,近年蟷螂山保存会が買い戻した胴組の角金具(4点)などがある。角金具は文政12年(1829)に新調された日本製の飾り金具であるが,その図様は西洋文様の独特のものである。
こうした資料は今まであまり知られておらず,江戸後期の蟷螂山の巡行をよく示す資料として貴重である。
綾傘鉾装飾品
綾傘鉾装飾品(あやがさほこそうしょくひん) 55点 附2点 (指定)
〔京都市下京区善長寺町 綾傘鉾保存会〕
綾傘鉾は,昭和54年に復興して巡行に参加した祇園祭山鉾で,現在は傘鉾を台車に建てる格好で巡行に参加しているが,元治の大火(1864年)に罹災する前は,傘を曳山(ひきやま)の上に載せた独特の形状であった。こうした曳山型の綾傘鉾は,天保5年(1834)に完成したもので,それ以前は,やすらい花の傘に似た傘と,棒を持った鬼形の踊り手を中心とした棒振り囃子の行列であった。伝存する遺品類は,この曳山型とそれ以前の綾傘鉾の両方のものが存在する。
曳き車型となる以前の遺品としては,傘の頂部の飾りである鶏のつくりもの(木製・享保12年(1727)作),棒振り囃子の締め太鼓の演じ手(2名)がつけた飛出(とびで)面と癋見(べしみ)面(宝永5年(1708)作),そして傘の垂れ幕につけたと考えられる9統(すじ)の飾り房(文政11年(1828)作)がある。
曳き車型の遺品としては,胴組の前掛,後掛,左右胴掛の4面の掛け物がある。いずれも黒と赤の羅紗地を縫い合わせた縞模様の上にカ紋を刺繍したものである。上部には縹(はなだ)色地に金糸で唐草文様を織り込んだ日本製の綴織が,下部には中国製と推定される紅地に唐草文様をあしらった緞子織がつけられる。
以上,江戸後期の綾傘鉾の巡行の2つの形態をよく示す資料として貴重である。
また,明治期のものではあるが,町内に残された資料である,「傘鉾再興ニ附行荘規則書」(明治14年)及び囃子の採譜である「祇園囃子」(明治7年)を附とする。
鷹山装飾品
鷹山装飾品(たかやまそうしょくひん) 13点 (指定)
〔京都市中京区衣棚町 衣棚町鷹山保存会〕
応仁の乱以前より「鷹つかい山」として確認できる山のひとつである鷹山は,後祭(あとまつり)に出された曳山であったが,文政9年(1826)の巡行を最後に休止していた。その後,幕末の元治の大火(1864年)に類焼し,山本体や懸装品等のほとんどを焼失し,江戸期の巡行に使用された遺品類としては,御神体人形と鉦が伝存している。
御神体人形は,源頼朝とも在原行平ともいわれる「鷹遣い」,白黒の斑の犬を連れた「犬遣い」,そして座り込んで大きな粽(ちまき)を両手で大事そうに持つ「樽負い」の3体セットである。鷹遣い,犬遣いと樽負いの頭部は作風が異なるものの,双方ともの頭部の箱書きに明和7年(1770)の年号があり,同時期に入手されたと推測できる。
その他,鉦(かね)が4丁残されて,後祭の曳山であった鷹山の数少ない遺品類として貴重である。
稲荷祭山車「天狗榊」の面
稲荷祭山車「天狗榊」の面(いなりまつりのだし「てんぐさかき」の面 1点 (追加指定)
〔京都市伏見区深草薮之内町 伏見稲荷大社〕
平成15年4月1日付で京都市有形民俗文化財に指定された「稲荷祭山車「天狗榊」懸装品 10点」(伏見稲荷大社所蔵)は,現存する唯一の稲荷祭お迎え提灯山車の遺品である。
この度,「天狗榊」山車の真木(しんぎ)に取り付けられたと考えられる天狗面が発見された。同面は,総高90.0cm,総幅79.0cm,総奥行59.0cmの大型のもので,張子にて製作されたものである。面形はどちらかといえばふくよかで,顔面は赤い色,白眼,口腔部分は金色で彩色が施されていたようである。
本品は,「天狗榊」山車の重要な構成要素であり,稲荷祭の民俗を明らかにする資料として極めて貴重であることから,追加指定するものである。
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