■平成20年度実践UD第7回講義の様子(小池 禎先生)
ページ番号44796
2016年4月14日
オムロンヘルスケアでのUD開発事例
(オムロンの基本姿勢)
オムロンの創始者である立石一真は,「最もよく人を幸福にする人が,最もよく幸福となる。」という格言を残しており,この考えがオムロンの企業活動の基本となっています。また,オムロンの特徴として,人間視点であるということを挙げることができます。人間視点とは,人間の尊重(共に生き,共に悲しみ,共に悲しむこと)と個人の尊重(民族の違いや価値観の違いがあろうとも個人の存在を無条件に受け止め認めること)を大切にする姿勢のことです。
(電子体温計「けんおんくん」のデザインに当たって)
電子体温計は,発売された当初は価格が約2万円でしたが,1980年代頃から専用のLSIが開発されたことにより,価格が約2千円とリーズナブルになったことから,これを境に急速に普及していきました。
私が,この電子体温計(「けんおんくん」)をデザインするに当たって,「オムロンの企業価値を体現するデザインあること」,「(オムロンの)シンボルとなる商品にふさわしいデザインであること」,「10年以上継続するデザインであること」,「人にやさしいデザインであること」の4つの思いを込めました。そして体温計のデザインと同時に,オムロンのブランド(企業の人格)についても,オムロンの歴史に潜んでいる価値観を形にしたいと考え,「独創的な」,「科学的な」,「思いやりのある」の3つのキーワードをつくり,このようなイメージを持ってもらえる企業を目指すことにしました。
次から次へと新しいものが生み出される中で,この体温計を長続きさせるために,母が子どもをいたわる気持ちを体温計に込め,「mother’s love(マザーズラブ)」というコンセプトを用い,やさしい形や大きな文字を採用するなど,この体温計を見たときに「ホッ」とする気持ちが起きるようなデザインにしました。また,子どもや高齢者など様々な身体的属性の人にモニターとなってもらい,ユーザー検証も行いました。さらに,この体温計は専門店で売っているのではなく,コンビニでも売っています。たくさんの類似品がある中で,きちんとその存在感を示しています。コンビニに置かれていることが大切であり,この体温計の持つ伝播力がオムロンのブランド力をさらに広げることにつながると思っています。
現代は,論理性や効率性に象徴される情報化社会から,精神性や文化性などに象徴されるコンセプチュアル社会へと移行しつつあります。このような移り変わりの中で,この体温計には単に体温を測るだけ機能でなく,「mother’s love(マザーズラブ)」のコンセプトを備えているということは,大変意義深いことだと思います。
(複数の目の重要性)
ものをつくる場合には,ユーザーを観察しますが,その観察には1人よりも2人,2人よりも3人など,より多くの人が関わることが好ましいです。これを実感するために受講生の皆さんに実験をします。「口」という漢字に2画だけ足して別の漢字をつくってください。
受講生(順番に):田,旦,只,古,占,目…
一般的に今回の実験を1人で行った場合には3つか4つくらいしか思いつきません。ものをつくったり,評価したりする場合には複数の目で行うことでより多くの気づきが得られます。そうしたプロセスが大切です。
(デザインを決定する手法)
製品の最終的なデザインを決定するためのいくつかの手法を紹介します。
1つ目は,製品を評価する際の問題の優先度,大きさを判定する手法です。使用者に実際の操作をしてもらい製品の操作上のミスをA(使用の拒否につながるミス),B(目標到達に影響を及ぼすミス),C(使いやすさに影響を及ぼすミス)などに分類し,それぞれのミスがどの段階(「最後まで解決できない」あるいは「最初をクリアすれば後はミスなく操作可能」など)で解決するのかを把握することで,製品の評価を行うとともに,対策の優先度を決定していく手法です。
2つ目は,ユーザーにとって必要なものと医師にとって必要なものの両方の見方で機能分類していく手法です。
3つ目は,ユニバーサルデザインの視点で製品を評価する場合,様々な障害をもったユーザーグループを設定し評価を実施します。しかしながら,こうした多様なユーザーに属性別に集まっていただくのは容易ではありません。こうした場合にあらかじめユーザーの属性別に身体的特徴を把握している専門家や大学の機関に評価を委託する手法です。
(最後に)
ユニバーサルデザインを実現していくためには,高齢者や障害者,子ども,妊婦,日本語が理解できない人,左利きの人など様々な人を理解することが重要です。デザインに当たっては,このような様々な人の立場に立ってものごとをどれだけ見ることができるかが重要です。
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