■平成20年度実践UD第6回講義の様子(熊沢宏夫先生)
ページ番号44600
2016年4月14日
UDトイレの開発・水廻りのUD取り組みについて
公共トイレのユニバーサルデザイン
(いろんな人が使います)
本日は公共トイレのユニバーサルデザインについてお話しします。
トイレは誰もが日常生活では欠かせない場所であり,毎日使用するものです。しかし,トイレの中で誰がどんな使い方をしているのかは,ご自身以外,ほとんどわからないのが現実ではないかと思います。本日はまず,そのような場所であるトイレ,特に公共トイレで,様々な身体状況の方々がトイレをどのように使われているかを知っていただくことからお話ししたいと思います。 TOTOでは,30年以上前から,商品の開発や使い勝手向上のために,実際に商品を使っていただいている方(モニターの方)に弊社工場にお出でいただき,トイレやお風呂などの使い勝手を評価,ご指導いただいています。その際に記録した映像を少しご覧いただきます。
(1)手動車いすご使用の方のトイレ内動作
(2)電動車いすご使用の方のトイレ内動作
(3)目の不自由な方のトイレ内動作
(4)子連れの方のトイレ内動作
このように,公共トイレ(多目的トイレ)の中では,いろんな人がいろんな方法で排泄行為をされています。
さて,みなさんは一見普通の方が車いすご使用の方に気兼ねして多目的トイレを使っている光景を見かけたことはありませんか?見た目は普通でも,実は障害のある方もいらっしゃいます。それがオストメイト等の内部疾患の方です。オストメイトとは,大腸がんなどの病気のために肛門が使えなくなり,お腹に内臓の一部を出し,それを人工の肛門(オストメイト)とした人のことです。この人工肛門では自らの意思で排泄をコントロールすることができないため,オストメイトの方はパウチという袋をお腹に装着されています。そのため,袋に排泄物がたまれば,捨てる場所が必要で,そうした方のための設備(汚物流し等)を備えた公共トイレも増えています。こうしたオストメイトの方は,正確な統計はありませんが全国で15万人いるといわれています。しかも,年々増えているようです。このようなことをふまえ,最近の法制度でも,オストメイトの方への対応事項が強化されています。次はその法制度についてお話しします。
(トイレ関連の法制度)
ご高齢の方や体の不自由な方でも日常生活が支障なく過ごせるよう,日常よく使う経路や施設をバリアフリー化しようという法律,バリアフリー新法が最近制定されました。バリアフリー関連の法律では,従来,建物を対象としたハートビル法,駅や車両を対象とした交通バリアフリー法がありましたが,平成18年に統合され,バリアフリー新法が施行されました。このバリアフリー新法で,誰もが日常利用する建物(デパートや病院)や,特にご高齢の方や体の不自由な方が利用する施設(老人ホームなど)を新設する際,一定規模以上の場合は,オストメイト対応のトイレ(汚物流し等の設備を備えたもの)を1以上設けることとされています。
オストメイトの方関連のお話しは以上ですが,バリアフリー関連の法制度の新たな動きとしては,次のようなことがあります。それは目の不自由な方への配慮に関することです。目の不自由な方が外出先でのトイレが使いやすいよう,紙巻器や便器洗浄ボタン等の壁配置が標準化されたということがあります。これは法律ではありませんが,JIS規格となっており,今後新たに設置されるトイレでは,この規格に沿った配置やボタンの形状に統一されることが見込まれるというものです。この規格を簡単に申しますと,紙巻器の上に便器を洗浄するボタン(寒色系の色で丸い形状)。その真横方向に緊急呼出ボタン(暖色系の色で三角や四角の形状)を配置するというものです。
(トイレの広さ)
オストメイトの方,目の不自由な方への配慮も重要ですが,公共のトイレを設計する際,その広さを決定する要件として重要なのが,車いすご使用の方のトイレ内での動きです。車いすマークのついたトイレ(多目的トイレ)の中は結構広いスペースが確保されていますが,車いすご使用の方がトイレを使う際,一体どのくらいのスペースが必要なのか。次はこれについてご説明いたします。車いすご使用の方が便器に近づく方法は大きく分けて3通りあります。便器の前方から近づく場合。横方向から近づく場合。そし側方から近づく場合の3つです。
・車いすご使用の方のトイレ内動作映像
・車いすご使用の方の便器へのアプローチの動画
車いすご使用の方がトイレに入り,この3通りの方法で近づくために必要なスペースを分析した結果,概ね2m×2mの広さがあれば多くの車いすご使用の方が使えることがわかりました。ただし,オストメイトの方のための設備(汚物流し等)や排泄にベッドを必要とされる方の設備まで含めるともう少しスペースが必要となります。
TOTOではこうしたトイレ内等での動作検証の結果をまとめ,資料として公表し,設計事務所や行政の方々に活用していただいています(写真:バリアフリーブック)。
(ユニバーサルデザインのトイレ)
ここまでは,いろんな人が使えるトイレとはどんなものか。どんな人が使うか。必要な設備はどんなものがあるか。法的にはどんなことが決められているのか。どのくらいの広さがあれば良いのかなど,様々な利用者がとにかく使えるトイレについて。バリアフリーや子育て支援のためのトイレ開発についての取組をお話ししてきました。今度は視点を少し変えて,どうすればいろんな人が使いやすく,気持ちよく使えるかを考えてみましょう。これまでのトイレでは,いろんな人が使えるための機能をとにかく網羅することが優先され,見た目や使い方の統一性はいまひとつでした。TOTOで最近開発したトイレに,「レストルームアイテム ゼロ・ワン」(写真)というものがあります。このシリーズでは,棚や操作ボタンの高さを統一したり,スリムで見栄えも良い形状にするなど,多目的トイレの設備だけでなく一般トイレで使われる設備も含めた統一性,使い勝手を工夫しております。このように,誰もが使いやすく様々な建物のデザインにもフィットする統一感,最先端の機能は,今後の公共トイレのあり方を変えていく起点となるものと考えています。
(TOTOの取り組み)
それでは最後に,TOTOのユニバーサルデザインに関する取り組みについて,他の水まわりの商品の事例をふまえてお話しします。
TOTOではひとりでも多くの人が使いやすいようなものづくりを提案してきました。以下はその主な事例です(写真:ユニバーサルデザイン・コンセプトブック)。
(1)洗面所
・蛇口レバーを洗面奥ではなく手前に設置した。(子どもでも手が届くように)
・洗面台の鏡を手前に引き出せるようにした。(腰を曲げて顔を近づける必要がないように)
・カウンター下部を取り外し可能にした。(腰をかけて使用できるように)
(2)浴室
・浴室内の段差をなくした。
・浴槽のふちをつかみやすい厚さにした。(浴槽から立ち上がりやすいように)
(3)トイレ
・手洗いの高さを低くした。(子どもでも使用できるように)
・便器前のスペースを広く取った。(便器から立ち上がりやすいように)
・後付可能な手すりを設けた。
水まわりの設備は,誰もが毎日使うものです。TOTOはその水まわりを中心とした,ひとりでも多くの人が使いやすい商品の開発にこれからも取り組んで参ります。
毎日にユニバーサルデザインを。
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