スマートフォン表示用の情報をスキップ

現在位置:

■平成20年度実践UD第3回講義の様子(山下純一先生 / 田尻 彰先生)

ページ番号43540

2016年4月14日

講演とパネルディスカッション:視覚に障害のある生活から感じること

(山下講師講演)

先日,視覚に障害のあるN君と一緒に飲んだときのことです。N君は晴眼者のことをもっとわからなければいけないと言い出しました。この気づきはすごく大事なことです。N君は生まれつき見えないので,見えないということがどれくらいしんどいことなのか,また裏返すと,見えるということがどれくらい楽なのかということがわかっていないのではないだろうかと僕は話の中で感じました。社会で生きていくうえで,僕はこの晴眼者と視覚障害者との「感覚差」をわかっておくほうがよいと思うんです。たとえば,音声信号が作動していない夜中に道の向こう側のコンビニに一人で行きたいとしたらどうするかという質問に,N君は耳を澄まして車が来ないか確かめてからダッシュで渡ると答えました。実際には無謀で迷惑な行動ですから決してこのようなことはしてはならないんですよ。しかし,このとっさのN君の答えでは,おにぎりを買うために命懸けなんです(笑)。皆さんは命懸けでおにぎりを買いに行ったことがありますか?N君はこのことをなんとなく仕方のないことと捉えていました。見えないことによってこんなにも危険にさらされているにもかかわらずです。おそらく,N君は普段からこれに似たような「見えなくて危険なこと,大変なこと」がたくさんあって,「なれっこ」になってしまっているんでしょう。この見える,見えないによって生じる「感覚差」が,僕は晴眼者と視覚障害者の間に大きな溝を作ってしまうような気がするんです。晴眼者の場合,命を懸けてまでおにぎりを買いに行くような場面はそうそうないということ,すなわち,見えている生活と見えていない生活の差を視覚障害者自身がわかっていなければ,よく言われている相互理解はむずかしいと思うんです。こういった「感覚差」を理解するためのひとつの手段として,僕はN君に小説を読むことを勧めました。なぜなら,小説では「店に入ってきたアキラの青いジャケットの肩は少し濡れていた。外は雨が降っていたのだろうか。」などの描写によって,見えるということの疑似体験ができるからです。僕は,この「感覚差」を羨むためではなく,その「見えるという感覚」を理解したうえで晴眼者と接すれば,相手に対する理解も深まり,自分のこともより心に届く形で伝えられると思うんですよね。

先日,とある遊覧船に乗ろうとしたときのことです。僕が乗り場に着いたら,スタッフの方の第一声が「歩けますかー!?」でした。おもいっきり車いすで乗り場まで来た僕に向かってアントニオ猪木さんばりの「元気ですかー!」ならぬ「歩けますかー!?」だったんです(笑)。その勢いとわけのわからない質問に対して,「ひざでなら歩けます。」と必要以上に詳細な僕の身体的情報を含めた返答をしてしまいました。そのスタッフは僕の返答の意味がよくわからず,かといって深く聞くこともできず「で,では,のちほど…」と立ち去ってしまいました(笑)。この噛み合わないやりとりになってしまった原因のひとつは,やはり「歩けますか!?」というスタッフの一声のみの会話の入り方でしょう。ズバリ!言葉足らず!(笑)。「船には少し階段があるんですけど,どうさせていただきましょうか?お手伝いさせてもらいましょうか?それとも,ご自分で行かれますか?」のような感じで聞いてくれれば,「はい,僕は膝で歩くことができますので皆さんの邪魔にならないようなら自分で乗船させてもらいたいのですがよろしいでしょうか?」っていうめっちゃ大人な返答ができたのに(笑)。スタッフの方もおそらくはそういった意味合いで「歩けますか!?」と聞かれたんでしょうけど,ちょっと省略しすぎかと思われます(笑)。まぁ僕もあの唐突な質問の勢いに負けずこう言えればよかったんですけど,歩けなければ船には乗れないのだろうかなど様々なことが頭をよぎったんですね(苦笑)。

僕はひざパットを付ければ結構移動が可能です。先程の船も余裕で乗ることができました。何せ,鳥取砂丘,金毘羅さんをも膝立ちで登りましたからね(笑)。これも僕専用の膝パットを心ある方に作っていただいたからできたことなんですよ。この膝パットのようにその人に合った工夫で技術をうまく活用すればいろいろなことができると思うんです。例えば,(視覚障害者は)文字は見えなければ読めませんが,読み上げてもらえば理解できます。音声機能があればよいわけですね。そのひとつのすばらしい例として,携帯電話があります。それでは皆さんに実際に携帯電話がしゃべるところを聞いてもらいます。

※以下は,山下講師が携帯電話を操作する様子です。

携帯電話:「ただいま5月10日土曜日15時35分です。」,「メールを作成し,送信します。」,「あて先を入力してください。」,「漢字モードです。」。

山下講師:「それでは,そこにおられる森本先生のもりもとと打って漢字に変換してみましょう。」。

携帯電話:「もり(森)のしん(森),もと(本)のほん(本)」。

山下講師:「この漢字で合ってますね?決定ボタンを押してこれで森本です。それから絵文字はこんな感じで読み上げます。」。

携帯電話:「揺れるハートマーク」,「失恋マーク」,「複数ハートマーク」。

携帯電話:「森本複数ハートマーク(森本♡♡)」。

山下講師:「できた!」(笑)。

このように技術の進歩によって携帯電話でメールも打てるようになりましたが,もっともっと進歩してもらいたいところもたくさんあります。身障者用のトイレというのもまだまだ進歩してほしいところで,便座の高さやどこになに(トイレットペーパーや流しボタンなど)が設置されているのかが統一されてないんです。統一しようという動きもあるようですが,まだ反映までは至っていません。それにそもそもそのトイレの呼び方からして統一されておらず,多目的トイレ,ユニバーサルトイレ,だれでもトイレなどいろいろです。このようにまだまだいろんな人の意見,アイディアを必要としている段階なんですよね。トイレがどこにあるのか,どういった設備があるのかという情報なんかは身体障害者だけではなく,ベビーカーに赤ちゃんを乗せたお母さんや,スノボで骨折して松葉杖を使用している人などたくさんの人にも役立ちます。トイレの設備に関しても「もっとこうしたらどうだろう?」というように,皆さんのアイディアがたくさん必要だと僕は思います。みんなのことを考えるのも大切,みんなといっしょに考えるのもまた大切ということですね。

(田尻講師と山下講師の意見交換)

山下講師:京都ライトハウスでは,障害のある人の社会参加について,どのようなサポートをされているのですか?

田尻講師:一般的に視覚に障害のある人の就職率は低いです。パソコンを使った在宅就労や,障害者雇用機会の可能性を求めて日々就労支援の活動に努めています。全国的には,流通業界や企業などでのパソコンを用いた事務職などに従事されている方々もおられます。また,タクシーの配車の案内業務に携わっておられる方の話も聞いたことがあります。京都ライトハウスでは,働きたいという障害者の願いを実現するために,障害者職業相談室や障害者就業生活支援センターの協力を得て,企業などへの就職依頼を行っています。しかし,視覚に障害があると仕事ができないと思われ,なかなかその人の個性までを見てもらえないことがあります。

山下講師:皆さんも自分たちの仕事で,もしも視覚に障害のある人が自分と同じ仕事をするとしたらどうなるかを考えてみてください。音声読み上げソフトがあれば視覚に障害のある人でもこの仕事はできるのではないかと気づくことがあるかもしれません。

田尻講師:私も以前に診療所に勤めていたことがありますが,他の人と仲良くなったことで,その人は必要な情報と不要な情報を分けてくれたりしました。やはり人間関係が障害の壁を低くし,相互の理解が職場の問題を解決する早道だという実例を経験しています。

山下講師:とはいえ,人と仲良くならなければ生活がままならないという状況はストレスを感じる場合もありますよね。

田尻講師:総合学習などで子どもたちが京都ライトハウスを訪れますが,子どもたちはよく質問をします。「どのように顔を洗ったの?」,「どのようにご飯を食べたの?」,「どのようにトイレをするの?」などで,私はどの質問にも丁寧に答えています。そうすると,子どもたちは納得して,帰ってからお父さんやお母さんにその内容を伝えているようです。子どもたちにはありのままを伝え,障害を直視してもらうことから理解の輪が広がるよう努めています。

山下講師:私の車いすを押す順番でも子ども同士が喧嘩をしていたことがありました。子供たちにとっては車いすを押すこともちょっとしたアトラクション感覚なんでしょね(笑)。そういう垣根のないところが子供たちのよいところですよね(笑)。それに子どものアイディアは大人顔負けのことも多く,彼らの意見は貴重です。大人の皆さんも遠慮や恥ずかしさがあるかもしれませんが,気軽に子供たちのような自由なアイディアを出してほしいです。

(受講生との意見交換)

受講生A:現在の仕事以外に就きたいと思った仕事はありましたか?

山下講師:以前に,あれもできないこれもできないとすべてをわざとマイナス思考にしてみたことがあります。そのときに,できないという中に「野球をしたい」や「バイクに乗りたい」など,自分が実はしたいと思っていたことに気付きました。現在の職業であるミュージシャンは自分のやりたいこと,やれることを総合的に考えて最も願いをかなえてくれる可能性のあるものだと思っています。だから,これからますますこの仕事でがんばろうと思っています。それからいわゆる障害者は仕事の選択肢が非常に少ないです。皆さんが思っている以上に少ないでしょう。なので,おいそれと転職ということが想像できないのも事実です。そして,働いている障害者もまた非常に少ないようなんです。働きたいと思っている人はたくさんおられますし,能力も十二分にあると僕は思います。しかし,それらの能力が発揮されるためには周りの理解と条件が整わなければなりません。もちろん,障害者の方たちの努力も必要ですが,その努力が報われる形ができればよいですよね。

田尻講師:してみたい仕事はたくさんありましたが,(視覚障害という)現実にぶつかって,一時的に就職に対する希望がなくなったこともありました。三療(あんま・マッサージ・指圧師,はり師,きゅう師資格)を利用して医療機関に勤めたことがありましたが,最終的には満足できず,自分が大学で勉強した社会福祉の関係の仕事がしたくて,結局,今の京都ライトハウスの就職機会に恵まれました。現在は,人とのつながりを活かせる京都ライトハウスでの仕事に就けてよかったと思っています。

受講生B:駅構内で障害のある方が駅員に誘導されているのを見かけますが,予定を変更して途中下車する場合はどうされていますか?

田尻講師:予定どおりに行動した場合には,駅員間の連絡によって乗降を手伝ってくれますが,予定を変更して途中下車したときには対応が不十分になることもあると思います。障害者の旅行については,やっと連絡体制の中でバトンタッチされるようになっただけで,自由にその日の思いつきなどで電車を降りて,ふらっと見知らぬ土地へ行くことまでは無理があります。

山下講師:いきなり予定を変更するということはできるだけしませんが,どうしてもの時は駅員さんに言って何とかしてもらってますね。それも早めに言わないとだめですよ。駅員さんもあわてられますし。基本的に何でも早めの行動が必要なんですよね。しかし,エレベーターがない駅では車いすのまま階段を上り下りするリフトが設置されていることがあるんですけど,大抵の駅にはリフトはひとつしかなく,他の車いす使用者が先に利用されている場合は,その「早めの行動」も通用しないこともあります(苦笑)。

田尻講師:道を間違えたり,予期せぬことが起こったりすることがありますので,約束の時間よりも早めに出かけるようにしています。白杖などでの単独歩行では,人の援助が適切に得られれば駅構内での移動や切符の購入もスムーズですが,満員電車や急な事故などに巻き込まれたら,その緊急情報などが得られなくなり,たちまち視覚障害者は(周囲から)取り残されてしまう存在でもあります。だからこそちょっと用心して余裕を持った行動がより安全に移動するためには不可欠なのです。

森本先生:飲み屋についてのご意見はありますか?

山下講師:車いす使用者でも使えるトイレがないことが多いのでつらいですね。飲んでも出すなですからね(笑)。

田尻講師:お酒の適量を超えると,頭に浮かべる地図(メンタルマップ)がなくなりますので歩けなくなるのは当然です。適量なら案外大胆に歩けて快適な歩行を経験したことがあります。

山下講師:見えない状態で歩くのはかなりの集中力が必要ですもんね。お酒が入ればなおさらですよね。視覚を使えない分,道の感触や,段差,音の響きや匂いなどで歩いてるんですから。

田尻講師:頭の中の地図とは別に,音や匂い,風が体に当たる感覚を頼りにしています。雪が積もった朝などは,音が雪に吸収されたようになり歩きづらいです。

山下講師:匂いを頼りにしている場合で言えば「このたこ焼きの匂いを右に曲がって,天津甘栗の匂いを過ぎた左手」といった感じですよね。目印ならぬ,鼻印ですよね(笑)。

(最後に)

田尻講師:視覚に障害のある人にとって,皆さんが黙っていたらその存在に気づきません。存在がわかるように,まちで出会ったときや廊下ですれ違ったときなどは一声かけてほしいです。声を出しましょう。

山下講師:とにかく,皆さんの力が必要です。いろんなことを一緒になって考えてもらえるとうれしいです。

 


講義の様子1
講義の様子2

関連コンテンツ

キャンパスプラザ講義「実践ユニバーサルデザイン」について

お問い合わせ先

京都市 保健福祉局障害保健福祉推進室

電話:075-222-4161

ファックス:075-251-2940

フッターナビゲーション