■平成19年度実践UD第5回講義の様子(水野哲雄先生)
ページ番号34078
2016年4月14日
「実践ユニバーサルデザイン」第5回講義の様子
第5回講義
6月23日(土曜日)
講師
水野哲雄氏(京都造形芸術大学,こども芸術学科教授)
テーマ
こども,芸術,ユニバーサルデザイン
講義の概要
今回の講義は「こども」,「芸術」と「ユニバーサルデザイン」についての講義でした。
まずこの3つの関連性についての先生の考え方を以下のように説明されました。
「こどもや芸術は人間にとってどちらも存在や認識の根っこを対象としており,根源的であり,成長・変化・変容といった「生きること」と直接に結びついている。ユニバーサルデザインという普遍性は,それらの大切さや愛おしさ,美しさといった気持ちやこころを指しており,それをどのように「かたち」として社会に根付かせるかがデザインの課題といえるからである。」
次に,「ユニバーサルデザインと身体について」ということで,2006年に国際ユニバーサルデザイン会議京都コーナーで開催した「親と子のエコ&ユニバーサルデザインのためのワークショップ」の報告を題材に「こどもという人間のありよう自体がユニバーサルな容態である。」と説明されました。
次に,受講生に対して簡単なワークショップを行われました。その概要は以下の通りです。
(1)身につけていたり,鞄の中のものを5つ取り出す。
(2)それらを,机の上のA4サイズの台紙に並べる。
(3)並べるときに,その並べる順番や,なぜそこに置いたかを考えてみる。
(4)またそれらをなぜ持っているのかを考え直してみる。
(5)古いものから新しいものへの時間の流れを考えてみる。
(6)まだ持っている必要のあるもの,まもなく廃棄されるものなども考えてみる。
(7)最後に,台紙を顔に見立てて,5つのもので顔を表現してみる。
(8)その顔に見合った言葉を書いてみる。
このワークショップの意図は以下のように説明されました。
「モノとの関わりが多様な側面や次元を持つこと。関わるということが,現実レベルから空想レベルまで実に多様にうごめくと同時に,気持ちもそれにつれて応答するように変化する。更に言葉という意識を向けることで,感覚と意識の違いやそのかかわりに気づくことができる。感覚や意識が捉えるものの差異や共同化は,相互に刺激しあい,補足,拘束させながらひとまとまりのものを生み出す。ユニバーサルデザインにとって自己と他者,包み込んでいる環境との関わりは,もっとも具体的なベースとなる。」
最後に「ユニバーサルデザインの課題」として以下のように説明されました。
「先ほどのワークショップのかたちづくりは,個々のものがそれぞれの特徴を生かしながらどのような関係性を見つけられるかという視点の気づきである。ユニバーサルデザインの課題は,モノで解決しようとするプロダクトデザインの解決ではなく,どう付き合うかというコミュニケーションを媒介するメディアのひとつに過ぎない。障害のある方,子ども,お年寄りなどすべての方が,それぞれの個性を持った存在として,それぞれのコミュニケーションをどのようにつくっていくかが解をもたらす。芸術はこのコミュニケートを進めていく力がある。感覚的な気づきはともすれば消えやすいはかないものである。芸術はそれらのはかないfragileな断片を気づかせることができる。また,感覚的な「かたち」から「きもち」を受け止めることができる。」
ユニバーサルデザインを学ばれているみなさんに,すべての赤ちゃんが健やかで,豊かで,自分らしい成長を遂げて行くためにどのようなことができそうかをかんがえていただきたい。そのために,赤ちゃんの毎日や,赤ちゃんとの毎日がどのようなものかを紹介してみたい」ということで,ご自分の育児の経験を通じて,赤ちゃんの特性について説明をされました。
赤ちゃんとの毎日についての概要は以下の通りです。
・生後1ヶ月は昼と夜の区別がなく,眠ったり起きたりを短い時間で繰り返す。
・養育者も同じリズムで対応(搾乳,おむつ交換等)をせざるを得ない。
・洗濯物の増加や,買い物の増加,入浴,遊び,寝かしつけ等の家事の量も増加する。
・生活のリズムは赤ちゃんに合わせる必要があるため,個人的な時間が制約されがちになる。
・赤ちゃんを通じた新たな人間関係が生じる。
このように「様々な点で養育者の生活に変化をもたらすものである。」と説明されました。
更に「育児に当たっては,一人または夫婦二人で受け止めることは大変な面があり,喜びや希望に満ちていると同時に,不安や心配が同居している。様々なよからぬ状況が重なれば,時には最悪の事態もある。」と指摘されました。
更に,これらを踏まえ,ユニバーサルデザインへの期待を以下のようにまとめられました。
「ユニバーサルデザインは「すべての
ひとのためのよりよさ」を追求する優しい分野であると思う。どんなデザインが必要かは赤ちゃんに聞いていただきたい。その声を聞くために,あかちゃんにしっかりと出会い,機会をつくってでも,その日常生活に接していただきたい。また,育児に従事する方々とも出会い,意見をしっかりと聞いてほしい。そうすることで,実感を伴って様々な回答が得られると思う。ユニバーサルデザインがより豊かで誰にでも優しい人間観や社会観,価値観を具体化し,その過程を通じて,更なる創造を進めていただくことを心より期待している。」
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