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「ユニバーサル上映をつくろう」(HTML版)

ページ番号61325

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2016年4月14日

目次

序章 ユニバーサル上映とは何か

 ユニバーサル上映とは

 聞こえないということ見えないということ

 ユニバーサル上映ができるまでの流れ 

 とにかくやってみよう

第一章 日本語字幕のつけ方

 台詞と物音を文字に書き起こしする

 字幕カードづくり

  1登場人物の固有名詞 

  2読みやすさの工夫

  3パーティーなどたくさんの人が話す場面

  4音楽の表現方法

  5音の表現方法(オノマトペ

 〈コラム 手話と字幕〉

第二章 音声ガイドのつけ方 

 情景を言葉で説明するための台本づくり

  1登場人物の固有名詞

  2登場人物の描写の仕方

  3主語が先か 述語が先か

  4主観的な表現の功罪

  5場面の転換点を説明する 

 〈コラム 言葉で描く情景〉

第三章 エンターテインメントの情報保障

 要約することの重要性

 説明を省略することの是非

 すべての楽しみをすべての人のもとへ

あとがき

制作協力

序章 ユニバーサル上映とは何か

ユニバーサル上映とは

 映画とは,美しい映像と迫力ある音響とが合わさって物語の魅力を際立たせる総合芸術です。ユニバーサル上映は,聞こえない人や聞こえにくい人(以下「聞こえない人」),見えない人や見えにくい人(以下「見えない人」)がこの総合芸術を楽しむことができるように,映画に日本語字幕と音声ガイドを付与したものです。日本語字幕は,聞こえない人たちが登場人物の台詞や物音を知ることに大きな力を貸してくれます。音声ガイドは,見えない人たちが登場人物の服装や物語の場面演出を想像することを支えてくれます。

 しかし,聞こえにくさや見えにくさは百者百様であり,日本語字幕や音声ガイドがあれば,すべての人が映画の内容を理解することができるかといえば,必ずしもそう単純なものではありません。また,そのつけ方も決まった形はありません。皆さんが,日本語字幕と音声ガイドをつけることに取り組むにつれ,様々な課題や疑問に直面することでしょう。

 本書は,日本語字幕と音声ガイドの作成,付与に多くの実績をもつボランティア団体(京都リップル)の協力を得て,少しでもユニバーサル上映が普及することを願い,その課題や疑問を克服するための方策をひとつの目安として示した解説書です。本書を参考として,皆さんが日本語字幕や音声ガイドの最適なつけ方を見つけてください。

 台詞や物音をできるかぎり言葉に置き換え,言葉に窮するような場面説明を乗り越えて風景を声に変えていくことで,映画を楽しめる人が増えればそれはすばらしいことです。そして,ユニバーサル上映を通じて,聞こえるとはどういうことか,見えるとはどういうことかを考え直す機会となり,あらためて映画の新しい楽しみ方を発見する一助となれば幸いです。

聞こえないということ見えないということ

 音の聞こえにかかわる部位に障害があり,音が聞こえなかったり,聞こえにくかったりすることを「聴覚障害」といいます。聴覚障害とひと口に言っても,聞こえにくさはさまざまです。聞き取れる音の中でもっとも小さい音の大きさを表す聴力レベルで聞こえにくさを表現したりすることがあります。ささやき声から救急車のサイレンまで音をどんどん大きくしていって,最初に聞こえ始めるところがその人の聴力レベルです。しかし,この聴力レベルが同じといっても,決して同じように聞こえているわけではありません。音が実際よりも小さく聞こえる伝音性難聴や,音が途切れたり高音だけが聞き取りにくかったりする感音性難聴と呼ばれるものもあります。感音性難聴では,音の歪みやひずみがひどい場合もあります。そもそも聴力レベルは主に裸耳の聴力で判断されますが,補聴器を利用する場合は訓練次第でその聞こえる範囲や聞き分け能力が大きく左右されます。聴力レベルなどはあくまでも一つの目安でしかなく,一人一人にしっかりと確かめなければ,聞こえにくさの程度を把握することはできません。

 視覚情報をまったく得ることのできない状態を盲といい,ある程度保有する視力の活用により日常生活はできるが拡大読書器や視覚補助具の支援を必要とする状態を弱視といいます。「視覚障害」には,大きく分けてこの二つの状態がありますが,実際にその線引きは難しく,弱視でもほとんど墨字(点字に対して紙に書かれたり印刷された文字を指す)を読めなかったり,墨字を読むことができる一方で視野範囲が非常に狭く,通常歩行に難を抱えたりする人もおられます。

参考文献

○鳥山由子 ・ 青柳まゆみ ・ 青松利明 ・ 石井裕志 (2005) 『視覚障害学生サポートガイドブック 進学・入試から卒業・就職までの実践的支援ノウハウ』 日本医療企画

○白沢麻弓 ・ 徳田克己 ・ 斎藤佐和 (2002) 『聴覚障害学生サポートガイドブック ともに学ぶための講義保障支援の進め方』 日本医療企画

ユニバーサル上映ができるまでの流れ

上映会の企画

主催者や映画会社などと相談して上映する映画,主に邦画を選びます。上映作品が決まったら,字幕のテキストづくり,音声ガイドの台本づくりをするスタッフのもとへ,上映する映画のDVDまたはVHSビデオを届けます。

文字起こしと場面説明

日本語字幕・音声ガイドづくりの協力者には年輩の人から学生まで幅広くおられます。しっとりした邦画や,台詞の多いアニメなど,得手不得手を考えて協力をお願いします。まず一通り映画を鑑賞した後,第一・二章にそって日本語字幕のテキスト・音声ガイド用の台本をつくります。

字幕テキストと音声台本の確認

集まったテキストを推敲し,誤字脱字がないことを確認します。日本語字幕は,字幕のテキストを基に,3行で1枚の字幕カードを作成し,実際に場面に合わせて表示してみます。場面転換のタイミングを示す音声ガイドが台詞にかぶらないよう慎重に何度も調整を行います。

ユニバーサル上映本番

機材設置,テストのため,上映時間よりも早くに会場入りします。機材を設置する前に,会場全体を見渡し,観客が見やすく,聞き取りやすいよう配慮し,準備します。

とにかくやってみよう

 「映画は好きなのですが,わたしに字幕や音声ガイドなんてお手伝いできるのでしょうか」

 そんな不安を抱かれる人は少なくありません。しかし,練習さえすればどなたでも必ずユニバーサル上映に関わっていくことができるようになると考えています。できる,できない,というよりもむしろ,重要なことは作品との相性です。しっとりとした邦画作品もあれば,アニメのように文字や擬音があふれる作品まで,多種多様にある映画作品の中から自分と世界観の近い作品を選ぶことがはじめの第一歩です。とくに一つのシーンにたくさんの人物やキャラクターが登場し,すきまなく話し続けたり,たくさんの物音が出てきたりするアニメ作品などは字幕や音声ガイドつけが難しいジャンルの一つです。アニメ作品をユニバーサル上映にする場合は,アニメ作品に親しんでいる世代の人が作業に加わることが効果的です。

 120分の作品であれば,前半と後半の2部に分けることも,3~4人で分担することもあります。最初に行う台詞の文字起こしは,DVDやVHSビデオなど,それぞれが慣れた機器を用いて作業をします。2部に分けたとしても,映画全体の流れを知る必要があるため,作品全体を通して鑑賞しておく必要があります。

 日本語字幕つけ,音声ガイドつけ,それぞれの原稿を作成してみると,多くの人がその面白さと同時に,さまざまな難しさも実感されているようです。そんな字幕つけと音声ガイドつけの面白さと難しさ,その醍醐味についてそれぞれ第一章,第二章に記しました。順番に読み進めていただいても結構ですし,どちらか関心のある章から読み進めていただいても構いません。それぞれの章は独立しています。

 字幕テキストは,パソコンのワープロソフトの文書ファイルとして集めます。誤字脱字など,テキストに誤植がないか確認したのち,字幕カードを表示するソフトを使って映画の進行と文字分量,ひらがなとカタカナのバランスなどを調整します。音声ガイドの台本は,パソコンでつくることもあれば,映画会社から受けとった台本に直接に書き加えて作成することもあります。担当者はそれぞれ草案を持ち寄って,言い回しや,分かりにくい説明がないかなど,調整を行います。文字の分量,バランス,タイミングなどを調整し,ユニバーサル上映本番に臨みます。

 それでは,映画のワンシーンを文字や声に表すことの面白さと難しさ,その醍醐味について具体例を挙げて次の章から解説します。

第一章 日本語字幕のつけ方

台詞と物音を文字に書き起こしする

 聞こえない人と一緒に映画を楽しむための日本語字幕つけについて説明します。

 最初にユニバーサル上映に必要な字幕カードの基礎情報となるテキスト原稿を作成します。これは映画制作会社が台本で提供してくれる場合もありますが,自分たちで作品を観て,文字に起こさなければならないこともあります。パソコン操作が得意な人は,映画を鑑賞しながら直接ワープロソフトやメモ帳ソフトを利用してテキスト情報を入力します。パソコン操作に不慣れな人は,テキスト情報の中に難しい漢字や言葉,アルファベットが使われていないかどうかを確認します。

 実際にユニバーサル上映として日本語字幕をつけるときには,パソコンの字幕つけソフトを用いますので,パソコンの利用は必須となります。

 字幕つけをする映画を,最初から最後まで一通り鑑賞しておくことも大切です。映画全体の流れが分かっていなければ,理解や説明が難しい場面があるためです。文字起こしをするにあたっては,原則として台詞については全文字幕にします。次に,物音や音楽をできるだけ文字に変換していきます。映画の最初から最後まで,ナレーターが解説するか,あるいは一人の登場人物が台詞を淡々と述べるものであれば,ただ音声を文字に置き換えるだけの作業で済むかもしれません。しかしそう単純なものではないのと同時に,この文字にすることの難しさこそが,字幕つけの醍醐味の一つでもあるのです。字幕カードづくりの説明後,次のような項目について,具体例を挙げながら説明していきます。

 1. 登場人物の固有名詞

 2. 読みやすさの工夫

 3. パーティーなどたくさんの人が話す場面

 4. 音楽の表現方法

 5. 音の表現方法(オノマトペ)

図:パソコンで書き起こし作業することが主流に

字幕カードづくり

 テキスト情報が完成したら,実際に映画本編の脇に字幕を表示するときに使う字幕カードという形式に変換します。図は字幕カードの具体例です。1枚のカードの字数は,読みやすく疲れない字幕,目でとらえられる適度な字数として,1行十五文字,3行に設定し,上映の際は,スクリーン右側に縦に出します。字幕は右から読み進めますので,読み終わればすぐに左隣りにある映像に目を移すことができ,目の動きが自然になるからです。120分の作品一つに,およそ1500枚のカードが必要になります。

 

字幕カード例

 1行目:発話者(一段下げる)

   山本

 2,3 行目:台詞など。句読点はなし。

  今日はいい天気だな

  昨日のことは覚えているのか?

 

 1行目には発話者を特定し,2,3行目に台詞を表します。このルールに従って,テキスト情報を順次,字幕カードにしていきます。そしてパソコンをプロジェクターにつなぎ,映画のスクリーン横,すぐ右隣に投影し,字幕ソフトを使って字幕カードを進めていきます。

 実際に映し出してみると,次のようなことに配慮しながら,行割やカード割の再調整をする必要があります。たとえば,

■たくさんの台詞が同時間に集中する場面

■文字が省かれすぎて映像だけからは連想しにくい場面

■スペースや行間,ひらがなと漢字のバランス

■台詞の助詞

などです。とくに台詞が集中する場面など文字が多すぎる場合には,文字数を削ったり,カードを減らしたりすることを考えなければなりません。その上で,映画の台詞や音楽のタイミングに合わせて,カードを進めていく練習が重要になります。

 ではまず,字幕カードに必要なテキスト情報を作品から取り出す場面で遭遇する,たくさんの疑問や難しさに対し,どのように工夫すればよいのかをご紹介します。

1 登場人物の固有名詞

 登場人物が画面に現れてから,その人の名前が分かるまでは,どのように説明をすればよいのでしょうか?

 基本的には,名前が分かるまでは「男」「女」といった表現になります。そして,会話の中で「●●さん」と呼びかけられたり,テロップが出るなどして,固有名詞が分かった時点からその名前を表示します。

 固有名詞が分かるまでに,二人以上の人物が場面に登場する場合は,たとえば「白無垢の女」あるいは「礼服の男」など,その装いなどを頼りに特定するような表現を選ぶこともあります。

 ただし,映画の進行上で重要な登場人物であり,固有名詞で表示するほうが分かりやすい場合には,最初から固有名詞で説明することもあります。

登場人物の名前は,台本がある場合はそれを見れば分かりますが,ない場合もあります。とくに難しい漢字や英語表記の名前などは,初登場の場面に出るテロップや,作品のエンドロールに出てくる役名を参考にします。

 台詞の中に出てくる人名や地名,特に古い時代の独特な言葉などは,あらかじめしっかりと調べておくことが必要です。映画配給会社の公式ホームページや,原作本などを入手して確認することも大切です。漢字や地名については,漢和辞典や地名辞典などで調べて正確に表記する必要があります。英語やドイツ語,フランス語なども可能な限り,辞書でスペルチェックをします。

 図:名前がまだ分からない登場人物の表現

2 読みやすさの工夫

 登場人物が使う方言や台詞に登場する難しい漢字などは,どのように表すのでしょうか?

 方言はそのまま表示します。少し読みにくくなりますが,映画監督はその登場人物に演出効果として方言のある台詞を用意しているのですから,そのままにすることが大事です。ひらがなばかりが続いて読みにくいときには,字幕カードづくりで工夫をします。なによりもぱっと見て意味が読み取れること,そして映画の雰囲気に合わせた字幕をつくることが大切です。

 漢字やひらがな,カタカナについては,場面によって使い分けることがあります。たとえば,「薔薇」や「葡萄」といった難解な漢字は避けて,「バラ」や「ブドウ」としたほうが,一般的には読みやすいと思われます。ただし,映画のタイトルに漢字で登場する場合や,雰囲気に合わせて漢字表現のほうが適切な場合には,適宜,漢字を選択します。外国人の名前などは英語表現よりもカタカナ表現のほうがよいでしょう。

 数字を表記する場合は工夫が必要です。二桁の数字であれば,半角英数字を二つならべて,「41」と記すこともあります。三桁以上の数字であれば,「1300メートル」,「3万5千人」,というように記すこともあります。日本語字幕が縦書きであることを踏まえて,とくにしっとりとした落ち着いた雰囲気の映画作品の場合には,漢数字の方が適切な場合もありますので,「百歳」や「百二歳」といった表記法を用います。

図:「薔薇」にすべきか「バラ」にすべきか

3 パーティーなどたくさんの人が話す場面

 ある場面で何人もの人が話し始めると,どこから文字にしてよいのか分かりません。

 一人の人物がずっと独りで話している場面や,二人の人物が交替で話している場面であれば,その発話を文字にすることはそう難しいことではありません。字幕カードの一行目に話者の名前をつけて,字幕を見るだけで区別できるように配慮します。

 しかし映画では,レストランでのパーティーで大勢の人がそれぞれ会話を楽しんでいるシーンや,二人の喧嘩を仲裁しようと第三者が割り込んでくるシーンなど,複数の人が同時に発話をする場面がたくさんあります。

図:パーティなどで3人が同時に話す場面

 大原則は,「映画を観賞している人の耳に,聞こえてくるのと同じように表示すること」です。複数の人が同時に発話をしても,そのすべてが同じように聞こえるわけではありません。カクテルパーティー効果といって,自分の目の前にいる人の発話や,発話の中に自分の名前があったりすると,その声だけが大きく聞こえたように耳に入ってきます。映画を観ている人の立場からすると,その場面でもっとも主題となる話題が大きく聞こえるように演出されているはずです。台詞の細分化や,表示するタイミングを工夫するなど,ここは腕の見せ所の一つでもあります。

 ほかにも,人が登場しない景色だけの場面で,背後からナレーションや主人公の声だけが聞こえてくることもあります。そのような場合には,「ナレーション」または「○○の声」と表示します。  

図:電車が走る場面で聞こえるナレーション

4 音楽の表現方法

 登場人物が歌を歌っている場面では,その歌詞も文字にしたほうがよいのでしょうか?

 映画にはたくさんの音楽が登場します。映画のイメージソング,場面を演出するためのバックグラウンドミュージック(BGM),そして登場人物の歌などさまざまです。音楽を表現する方法としては,次の四つがあります。

1. ♪題名 あるいは ♪にぎやかな音楽

2. 音楽:静かな雰囲気

3. ランランララ~♪チャララララ~♪ (リズム通りに表示)

4. 歌詞を書く

 特に意味のある場合は,「音楽:ギター演奏」「○○のメロディー(オルゴール)」と表記したり,歌詞が映画の進行と深く関わりがある場合には,歌詞を表示したりします。映画の雰囲気に合わせてどの表現方法がよいかを選ぶ必要があります。音楽の表現を入れたいという気持ちはありますが,聞こえている人がその字幕を見たときに,「いや,そんな風には聞こえない」と違和感をもつ表現になってしまう可能性があることもよく承知しておかなければなりません。なるべく,文字を見て想像できるような表現を目指しますが,主観的になりすぎないことが大切です。

 正解はないので,数名の聞こえない人の意見も聞きながら,音楽の表現方法を選ぶことが大事です。

図:熱唱する歌手の言葉を伝えるために

5 音の表現方法(オノマトペ)

 ガラスコップが落ちて割れる場面,登場人物がビンタをされた場面など,聞こえた音は聞こえたままに表現したほうがよいのでしょうか?

 聞こえない人への情報保障では,台詞のほかに上映中に流れるさまざまな音についても字幕化は徹底される必要があります。物音の表現のしかたは千差万別ですが,できるだけ物音を聞こえたまま表現するように心がけます。それはこのような擬音語,擬態語であるオノマトペを,私たちは文字として学ぶ機会が多いため,聞こえない人との間でも共有できるとされているからです。

 ガラスコップが落ちたシーンであれば,「ガシャーン(コップが割れた音)」,登場人物がビンタをされた場面であれば,「バシッ(ビンタされた音)」など,その場面が連想できるような音コトバを選ぶことが大事です。登場人物が,急に驚いた表情をしたとしても,ガラスコップが割れたことが説明されなければ,聞こえない人には何が起こったのかわからないかもしれません。

 聞こえない人も,小説やコミックなどを通して,文字で擬態語や擬音語に接しているため,アニメ作品などでは,「わぁーーー」「ワッ!」など工夫して,音の表現を楽しむこともできます。

 ただし,音の字幕表現にこだわりすぎると,字幕が多くなりすぎてしまい,読む人がついていけなくなってしまいます。ここでも映画の雰囲気に合わせた字幕をつくることが大切です。特にアニメ作品などは,このような擬音語や擬態語がたくさん使用されているため,雰囲気に合った字幕をうまくつけることができれば楽しんでもらえます。逆にしっとりした映画は,カタカナ表記の擬音語は邪魔になることが多いので気をつけなければなりません。正解はありませんので,何人かの聞こえない人に意見を聞きながら,適切な表現と分量を選び,完成形を目指します。

図:花瓶にボールが当たった瞬間の物音

a colum. 手話と字幕

 聞こえないといっても,生まれたときから聞こえない人,大人になってから聞こえにくくなった人など,その状況はさまざまです。得意とするコミュニケーション手段もまちまちで,口話法が得意な方や,手話を主に利用される方など、いろいろです。とくに幼くして聞こえにくくなった人の中には,日本語よりもむしろ手話を母語として育ってきた方もおられます。この母語手話と,日本語を手話に変換する日本語手話とでは,それぞれ語順や文法なども異なっています。

 そのため,たとえ字幕によって整然と日本語を並べたとしても,「分かりにくい」と評価をされてしまうこともあります。それは、日本人が外国語をそのまま外国語字幕で読むようなものだと考えれば分かりやすいかもしれません。母語手話を主に使用される人にとっては,日本語もまた第二言語のごとく意味のとりにくい情報の一つに挙がってしまうのです。

 もちろん,あらゆるコミュニケーション手段に精通し,そのすべてに適切な表現を持ちえたらすばらしいことですが,一朝一夕にはいきません。大切なことは,どのような説明を心がければ,多くの聞こえない人に伝わりやすいかを常に念頭に置き,そして可能な限り当事者の人たちの声を聞く機会を設けることです。

第二章 音声ガイドのつけ方

情景を言葉で説明するための台本づくり

 ここでは,見えない人と一緒に映画を楽しむ音声ガイドつけについて説明します。

 最初にユニバーサル上映に必要な音声ガイドの基礎情報となる台本を作成します。映画を一通り鑑賞した後,場面にどんどん説明を加えていきます。見えない人の立場に立ったとき,映像が頭の中に浮かんでくるように登場人物の特徴や位置関係などの場面説明ができれば理想的です。特に重要なことは,場面の移り変わりです。主人公が部屋の中から屋外へ飛び出した場面,レストランで談笑する男女が,一年前の湖でのデートを回想する場面などは,いずれも台詞や音楽を聞いているだけでは情景を理解することが難しい場面です。

 ただし,音声ガイドは絶対に実際の台詞に重なって発声されることがあってはいけません。したがって,台詞が多い場面は最初から音声ガイドを挿入する隙間に限りがあり,説明が少なくなってしまうことをよく承知しておかなければなりません。

 情景や状況を言葉にする作業では,助詞を省き,一〇文字から十五文字,主語と述語だけで端的に説明することが求められます。できるだけ短い言葉で的確に表現しなければ,映像が浮かびにくくなります。さらに動詞が続かないような工夫も必要です。

○ ソファーに腰かける男 コーヒーを飲む

× 男 ソファーに腰をかけて コーヒーを飲む

 大切なことは,映画全体を通してその表現が適切かどうかをよく考え,制作者の感性を大切にした音声ガイドを心がけるべきです。音声ガイドの台本が仕上がったら,担当者で集まってすり合わせを行います。

 上映当日に,音声ガイドの読み上げを担当する人は,映像にタイミングをしっかり合わせて声を出さなければなりません。淡々と,台詞より目立つことのないように注意します。しっとりした映画にはしっとりしたガイドを心がけ,映画の雰囲気を大切にします。文章が短いだけに,ごまかしは利きませんので,ナレーション技術の基本が大切になります。

図:端的な言葉で説明を

1 登場人物の固有名詞

 登場人物が画面に現れてから,その人の名前が分かるまではどのように説明をすればよいのでしょうか?

 基本的には,日本語字幕のときと同様,名前が分かるまでは「男」「女」といった表現になります。そして,会話の中で「●●さん」と呼びかけられたり,テロップが出るなどして,固有名詞が分かった時点でその名前で呼ぶことにします。

 まだ台詞を発していない登場人物が画面の中で重要な役割を果たす場合も多いため,音声ガイドでは,名前が判明する前に表現しなければならないことがあります。固有名詞が分かるまでに,二人以上の人物が登場する場合では,たとえば「スーツの男 話しはじめる」あるいは「部屋の奥 黙々と裁縫をつづける女」など,その場面での登場人物の位置関係や特徴を簡潔に説明しておくと,見えない人が頭の中で場面をイメージしやすくなります。ただし,映画の進行上で重要な登場人物であり,固有名詞で説明するほうが分かりやすいと場合には,最初から固有名詞で説明することもあります。

 映画には主役だけでなく,脇役もたくさん登場します。名前のないエキストラもいます。場面に映るすべての人を説明するわけにはいきませんので,登場人物の重要度も考慮します。このような場合,台詞の合間で解説できる時間の余裕も考えて,説明の要否を決めることもあります。

 ただ,登場した時点でその人物が重要かどうか判断がつかない場合もありますので,基本は見える人が見たままの印象を大事にして説明の要否を決めます。

図:台詞をまだ発していない登場人物の説明

2 登場人物の描写の仕方

 登場人物を説明するとき,位置情報(右側から男が・・・)で説明するのか,服装などの人物像(ベージュのコートの男・・・)で説明するのか,どちらがよいでしょうか?

 優先順位に決まりはありません。強いて言えば,より大切な情報が優先です。ある登場人物については,自動車から降りてくるという登場方法が重要な場合もあれば,黒いコートを着ているという服装が特徴的な場合もあります。携帯電話で話しているということも,説明が必要な場合があります。

 ただし,いずれも台詞と台詞の合間に,どれだけ説明できる時間的余裕があるかによって,加えることのできる情報の内容が変わります。時間的余裕がない場合は,登場人物の情報を前もって説明しておくこともあります。

 また,描写の仕方は,登場人物の位置関係にも関わってきます。「店の中で対面する二人」「路上で立ち話をする二人」,いずれも二人の登場人物の位置関係を指し示す表現ですが,その向きや距離が物語の展開に関係があるのかないのかによって,音声ガイドの内容が変わってきます。

図:「黒いコートの男」か 「携帯電話で話す男」か

3 主語が先か 述語が先か

 主語は最初に入れたほうがよいのでしょうか?

 後でもよいのでしょうか?

 必要に応じて適切な方を選びます。たとえば「コーヒーを混ぜるネクタイの男」あるいは「ネクタイの男 コーヒーを混ぜる」などのように,主語の位置によっては,聞いたときの印象が変わることがあります。台詞と台詞の間にどれだけ間があるか,そして二つ以上の動作が続くか続かないかなどで,主語の位置が決まってきます。同じ登場人物が続けて別の動作をするような場合などは,二度も主語を説明する必要はありません。

「コーヒーを混ぜる ネクタイの男」 「左手を上げ ウェイトレスに声をかける」

 また,登場人物の声が特徴的で,それまでに何度も登場しているなど,声を聞いて誰が言っているのかが明らかに分かる場合は,主語を省くこともあります。

 あくまでも見えない人の頭の中にイメージが描きやすいよう,不足する情報を補うという手順で判断をすればよいことになります。

図:次に続く説明によって変わる描写

4 主観的な表現の功罪

 人や物に対して,どこまで主観的な説明をつけてもよいのでしょうか?

 「高級ホテルのカフェ」,「爽やかな青年」,「美味しそうなケーキ」など,説明のときに主観的な表現をつけてしまいがちです。しかし,できるだけ主観的な表現は避け,事実をありのままに説明すべきです。音声ガイドは,常に個人的な感覚ではなく万人の感じ方を大事にしなければならないからです。とくに映画のつくり手(監督ほか制作者)の感性を大切に音声ガイドをつけるべきであり,脚本家や監督の意図が表れている台本のト書き(*)にできるだけ忠実に表現すべきです。

図:「いかにも高級そうな」との表現は適切か

 ただ,誰が観ても同じ結論になるであろう修飾語であれば,加えたほうがより映画の場面を説明できることもあります。たとえば高級ホテルのカフェで登場人物らが待ち合わせをするような場面であれば,「高級ホテルのカフェで待ち合わせる二人」などと表現することもあります。

 物に対する主観的な価値だけにとどまらず,それは登場人物の表情や感情の表現にも関わります。絵本を一緒に読む親子が登場する場面で,その子どもがなんとも表現しようのないほど嬉しそうな表情でいる場合,淡々と説明するよりはむしろ,「楽しそうに絵本を読む少年」としたほうが映画の雰囲気がよく伝わります。

 また,ある映画の音声ガイドつけで,ウェイトレスを見る男性たちの「嫌らしい感じ」を表現の中に出すために,台本にも掲載されていた「おやじ」という表現がそのまま音声ガイドとして使われたこともあります。

図:「楽しそうに絵本を読む」との表現は適切か

*ト書き 脚本で台詞の間に,俳優の演技,照明・音楽・効果などの演出を入れた文章のこと。

5 場面の転換点を説明する

 映画には登場人物の少年時代を回想する場面などがよくあります。どのように説明すればよいでしょうか?

 場面転換の際は必ず音声ガイドを入れます。二人の登場人物の会話の中で,急にカフェの場面から別の場面に転換していたとしても,見えない人はそのままカフェの中で会話が続いていると思ってしまいます。屋外なのか,屋内なのか,できるだけ簡潔に場面転換を表現しなければなりません。

 さらに,登場人物が過去を振り返るような回想シーンは,見えない人に説明するのが難しい場面の一つです。場所の違いだけでなく,同時に時間設定も変化するからです。回想シーンの多くの場合,「○年○月」や「一年後」といったテロップが表記されますので,これらを確実に読み上げることで,時間や場所の変化を説明することができます。場面が変わってすぐに台詞が始まることも多いので,音声ガイドを入れるタイミングに困ることもあります。どうしても音声ガイドを挿入する隙間がない場合には,場面転換の少し手前に,適切に言葉をさしはさむなど,ナレーションのテクニックが必要となります。

 また,誰の回想シーンであるのかも重要です。多くの場合は,その直前に話していた登場人物である可能性が高いので,それが会話の中から十分に連想可能であれば,わざわざ言葉にする必要はありません。

図:場面転換ごとにその場の説明が必要

a column. 言葉で描く情景

 ある映画のワンシーンで音声ガイドに初めて挑戦した人の表現がとても示唆的です。その方は,「新聞の間違い探しをする主人公」と表現をしました。この表現の誤りが分かるでしょうか。正解は,「新聞の間違い探しコーナーを楽しむ主人公」です。主人公は,新聞社のデスクのように誤字脱字をチェックしているわけではありません。これはわたしたちが知らず知らずのうちに省略したり,文法的に誤ったまま用いたりしている表現の一例です。この短い言葉で的確に表現することが,音声ガイドづくりの難しさでもあり,面白さでもあります。

 またこの例が示唆に富むと説明したことにはもう一つの理由があります。それは,そもそも見えない人がこれまでの経験の中で間違い探しゲームをしたことがあるかどうかです。見えない人がふだんの生活の中で接しないものを言葉で説明し,見えない人の頭の中にイメージを描いてもらうことは非常に困難です。絵画や風景,ジグソーパズルや塗り絵など,視覚情報を中心とする出来事の説明には,いろいろと苦心しなければなりません。映画がはじまる前に主な登場人物を知りたいという方にその登場人物の特徴を忠実に模した人形に触れていただくこともあります。

第三章 エンターテインメントの情報保障

要約することの重要性

 できるだけ聞こえた音のすべてを文字にして伝えたほうがよいというのは思い違いでしょうか?

 台詞については原則,すべて文字に置き換えます。しかし,複数の登場人物が同時に話して,お互いに話す内容が交差するような場合はそのかぎりではありません。また,物音については,できるだけ自然に聞こえたありのままを,忠実に文字にします。映画を観ていてまわりの皆がどっとふきだした瞬間,なぜ皆が笑っているのかが分からないと聞こえない人はどうしても疎外感を感じてしまうからです。しかし,すべての音を文字にするということは,かえってそれが押しつけになってしまう可能性があることも重々に承知しておかなければなりません。

 映画は目と耳に訴えかける総合芸術です。映画監督は,美しい映像と響きのよい音楽とを組み合わせてわたしたちを楽しませてくれます。しかし,登場人物の台詞から音楽,物音まですべてを文字になおすと,聞こえない人にとっては映像以外にもすべての文字情報を目で追わなければなりません。その膨大な文字情報に目を奪われて,肝心の映像を楽しむことができなくなってしまっては本末転倒です。

 「できるだけ聞こえた音のすべてを文字にして伝えたい」という気持ちはよく分かりますが,大事なことは聞こえない人にも映画を楽しんでいただくことです。全文字幕か要約字幕かは,映画の映像や音声の量をふまえて,映画全体の雰囲気や映画制作者の意図に配慮して判断するようにします。

説明を省略することの是非

 「説明を省略してしまうこと自体もバリアのはじまりだ。」と聞いたことがあります。そうなると,どうしてよいか分かりません。

 ある一つの場面を言葉で説明するとしても,そのすべてを言葉にすることはとてもできません。したがって,どうしても映画の進行上で重要なものから順に音声ガイドをつけていくことになります。もちろん,ここで何が重要で,何が重要でないかを理解するためには,映画全体を通して十分に物語を理解していなければなりません。ときにそれは映画配給会社の公式ホームページを参考にしたり,原作本を入手してその世界観を深く理解することが必要になることもあります。

 説明を省略することが,バリアのはじまりだというのも分かります。しかし,たくさんの字幕を読まされたり,音声ガイドを一度に聞かされたりしてしまうと,かえってその場面を想像できなくなってしまい,混乱させてしまう可能性があります。正確でたくさんの情報というのは,時と場合によってはかえって本質を隠してしまうことになります。

すべての楽しみをすべての人のもとへ

 聞こえない人にとっては音声による情報ができるだけ視覚的に,見えない人にとっては視覚的な情報ができるだけ音声で,それぞれ受け取れるに越したことはありません。障害による不便さは,生活環境にも大きく左右されますが,誰もが享受できるような情報保障がしっかりと整備されていれば,その影響を軽減させることができます。

 教育機関での講義保障や,公共放送における字幕放送,音声放送などが少しずつ整備されてきているのは望ましい傾向です。しかし日々の事件や出来事を伝えるニュースや教育番組に比べて,娯楽番組などの情報保障はまだ十分に整備されているとは言い切れない状況です。こういった日々の「楽しみ」に関わる情報までもが,誰でも好きなときに受け取れるようになることこそが,本当に住みよい社会につながります。

 ユニバーサル上映への関心の高まりは,こういった社会背景と無縁ではありません。映画鑑賞は一級の娯楽であり,文化でもあります。文化振興という点においても誰もが映画を楽しめるようになることは,きわめて重要な意味を持つこととなります。

あとがき

みんなが楽しめるバリアフリー上映

京都リップル代表 深田 麗美

 私達が言う「バリアフリー上映(*)」というのは,聞こえない人のために日本語字幕を,見えない人のために音声ガイドをつけた映画のことです。「目で聴く,耳で見る映画」と言えるかも知れません。障害のある人自身が楽しめる,家族友人も共に楽しめる,また障害を理解するための映画とも言えるでしょう。

聴覚障害のある人は声だけで話の内容を理解することは出来ません。映画やテレビは字幕がないと何を話しているのか全く分からないのです。京都リップルの字幕はスクリーンの右側に3行(1行目は名前のみ),縦に大きな文字で表示します。通常の映画鑑賞では,2時間ほど目を酷使するのですから,目の動きが右から左へと自然になるよう配慮しています。

 視覚障害のある人は,二人が向き合っている場面で見つめ合っているのか,にらみ合っているのか,登場人物の表情が分かりません。場面の移り変わりについていけず,内容が分からないこともあります。そのような時にこれらを声で説明し,補ってくれる音声ガイドがあると非常に分かりやすいのです。

 病気や事故で中途失聴,中途失明した人の中には,聞こえていた,見えていた時に好きだった映画鑑賞を諦めているという人が多く,耳の遠いお年寄りもバリアフリー上映を心待ちにして下さいます。社会福祉,映像学科等の学生さんも興味を持たれ,字幕は外国の人の日本語習得にも役立ちます。新しい視点で映画を楽しめ,映画を深く味わえるという一般のファンの人もいらっしゃいます。

 障害のない人とある人の間にバリアがあると感じることの多い毎日ですが,生活面でのバリアフリー化が進めば,心のバリアもなくなっていくのではないでしょうか。

 「リップル」というのは英語で「波紋」という意味です。京都は映画発祥の地であり,聾学校,盲学校が最初に出来た所でもあります。その京都から,バリアフリー上映が全国に波のように広がっていってほしいと心から願っています。

*日本語字幕と音声ガイドがついた映画上映は,「バリアフリー上映」として始まりました。京都市では,障害の有無や年齢に関わらず,できる限り多くの人が楽しむことができるという意味を込め,「ユニバーサル上映」と呼んでいます。

伝えたい思い

京都リップル 字幕・副音声班 班長 深田 美知子

 病弱だった娘の耳が聞こえないというショックを受けた日から25年以上の時が流れました。当初はそんなふうに考えもしなかったけれど,障害のある娘を持ったお陰で豊かな人生になりました。辛い日々も多くあった子育てを終えた後に,こんなに充実した毎日があるとは思ってもいませんでした。

 テレビに字幕がつき,ドラマを見て一緒に声を出して笑い合えた時,私の目からは涙がこぼれました。それまで寂しそうだった娘の気持ちを思うと,心から嬉しかったのです。共に楽しめるということが,こんなにも感動することなのだと。私はパソコンという便利なツールを使って字幕を作り始めました。一人の母親が娘のために始めた作業の延長にバリアフリー上映の活動があります。

 長男が生まれるまでフリー・アナウンサーをしていた私は,京都ライトハウス(視覚に障害のある方のための施設)で音訳のボランティアをしています。そこで,副音声があれば見えない方も映画を楽しめるということを知りました。今は「水を得た魚」の状態で,楽しい日々を過ごしています。

 情報弱者と言われる視覚・聴覚障がい者にとって,情報の保障があれば,日常生活の暮らしにくさはずいぶん軽減します。障害による不便さが取り除かれれば,不自由を感じることは少なくなるのです。物理的なバリアが低くなれば,自然に健常者との間にある心のバリアもなくなっていくと思うのです。

 副音声は目の代わり,字幕は耳の代わりです。見たまま聞いたままを素直に表現,表示することが大切です。主観を入れてはいけません。副音声のシナリオを作る作業には語彙の豊かさと言葉を紡ぐ感性が要求されます。これらは常に磨いておかなくてはなりません。

 見えない方,聞こえない方々と接する度に,五体満足で丈夫な身体に恵まれた私は,もっともっと頑張らなければ,サボってはいられないと,いつも励まされます。これからも自分に厳しく,メンバーの皆さんと一緒に,より良い字幕・副音声づくりに努めていきたいと思っています。

利用者の立場から

H・K

 私は難聴になって,「邦画はもう無理」と諦めかけていました。でも,日本語字幕つきで鑑賞できるように活動してくださっている京都リップルの存在を知り,大変感謝しています。縁の下の力持ち的な役目は並大抵の苦労ではないと察せられます。テレビで日ごろ制作に携わっておられる光景を垣間見る機会があり,熱心かつ丁寧に取り組んでくださっているのが伝わってきました。初めて日本語字幕つきで映画を鑑賞したときの,胸の弾んだあの感動を今も忘れてはいません。京都リップルの字幕は,難聴のメンバーがいるからこそ言葉の一語一句を大切にとらえ,日本語独特の素晴らしく微妙な表現に対し健聴者以上に敏感となっています。この要望を満たしてくれているのが日本語字幕といえます。活字を追ってゆくうちにまるで聞こえているかのような錯覚に陥っている時さえもあるほどです。今後,当然のこととして世間に浸透し,広まりゆくことを願ってやみません。

「ゲド戦記」 鮮烈な出会い!

M・H

 視覚障がい者にとって,「最新の映画を観たい!」でも,観ることが出来ない。視覚がなくてはシーンの展開が分からない。台詞無い場面は時間だけがいたずらに流れていく・・・

 私が初めてバリアフリー映画に触れることが出来たのは,アニメ「ゲド戦記」です。この映画は,息をつく間もなくシーンが流れ,回り,変わるため,とくに視覚や聴覚に障害をもつ者にとりましては,副音声ガイド無しでは,ちんぷんかんぷんな映画です。そんな中にあって,副音声ガイドの方は,台詞に重ならないように,絶妙なタイミングでシーンの説明をして下さっていました。映画の間,正しく画面を追うように,その方の声を追っていました。手話通訳なら30分に一度,通訳者が交替するところが,この副音声ガイドは,ずっと最後まで,ひとりの方でした。光が流れて回り込む様子,光に包まれるシーン,生まれたばかりの朝日の空と雲,海の色,心のスクリーンに,ふわぁーっと広がってゆきました。どのシーンも,この副音声ガイドさんのおかげで,心に自分で描くことが出来ました!今でもあのときの,あの場面,心に染みこんでいます。今後,もっともっと,文化,芸術の世界に,バリアフリーが浸透していってほしいと願っています。

制作協力

監修

 深田 美知子,深田 麗美 (京都リップル)

テキスト執筆

 塩瀬 隆之,水町 衣里,湯川 真朗 (京都大学インクルーシブデザインユニット)

装丁

 生駒 也須子,西村 吉彦 (京都大学インクルーシブデザインユニット)

イラスト

 大矢 智子 (京都大学インクルーシブデザインユニット)

 *この本に掲載されたイラストの著作権は作者である,大矢智子に属します。

協力団体 

 京都リップル

  http://kyoto-ripple.hp.infoseek.co.jp/                  

 京都大学インクルーシブデザインユニット

  http://www.incl-kyoto.sakura.ne.jp/

お問い合わせ先

京都市 保健福祉局障害保健福祉推進室

電話:075-222-4161

ファックス:075-251-2940

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