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審議会提言

ページ番号4045

2007年11月8日

「京都市都心部のまちなみ保全・再生に係る審議会」提言

 平成14年5月14日

 

1 審議会設置に至る背景
2 審議会における議論
3 都心部のまちなみのあり方
4 望ましいまちなみの実現に向けた方策
(1)地域まちづくり活動の重要性
(2)地域のまちなみ資源が大切に継承されるために
 ① 町家や文化財の継承
 ② 町家や文化財の継承に向けた支援
 ③ 環境負荷の少ないまちづくり
(3)土地利用の転換や建物の更新に際して調和が図られるために
 ① 地域コミュニティとの調和
 ② 周辺環境との調和
 ③ 都市景観との調和
 ④ 中心的な商業地域であることとの調和
5 都心の再生に向けて
(1)具体化にあたって
(2)直ちに実施に向けた検討を行うべき方策
(3)将来に向けて

1 審議会設置に至る背景

(京都都心部の現状と課題)

 京都の都心部では,町家,点在する社寺や近代建築,街区の内部に確保された緑などが,京都らしいといわれる固有の都市空間を形成してきた。また,そこでは,町や学区を単位とした地域コミュニティに住まう人々が,いきいきとした交流を通じて,祭りなどの生活文化や都市型産業を今日に至るまで支え,伝えてきた。こうしたものは,京都都心の大切なまちなみ資源である。
 しかし,近年の地域経済不振による低未利用地の発生と地価の下落を背景にした旺盛な共同住宅建設は,その空間構成を急速に変貌させつつある。一方で,グローバルな都市間競争の時代にあって,歴史や文化といった地域の個性がいかに大切であるかが,むしろ再認識されつつある。
 今日,固有の都市空間を活かしながら,より魅力ある都市づくりに取り組むことが,京都に求められている。


 

(京都市におけるこれまでの取組と本審議会の役割)

 京都市は,平成5年に策定した新京都市基本計画において,都心部を中心とする歴史的市街地を「調和を基調とする都心再生地域」に位置づけた。そして平成10年には,都心再生の先導地区である職住共存地区の整備ガイドプランを策定している。
 整備ガイドプランでは,住民が広く地域の将来像を共有し,それを都市計画に定めること(地域協働型地区計画)を,都心再生に向けた取組の中心に位置づけている。確かにこうしたものが,実際に多くの地域で決定されていく状況になれば,地域の課題は解決に向かい,都心としての再生も実現するであろう。
 しかし,これまでの経過を見る限り,地域協働型地区計画はその策定までに長い時間と相当な労力を要する。今日の状況を踏まえるならば,都心の再生に向けて,早急に有効な方策を講じることが不可欠であることは自明であろう。
 本審議会には,それを明らかにすることが求められている。京都都心のまちなみのあり方を明らかにし,その実現に向けた更なる方策を示すことが求められている。

2 審議会における議論

 本審議会ではこれまで,町家,都市景観,居住環境,まちの活性化,及び地域の協調・協働といった面から議論を深めてきた。その中から主なものを次に掲げておく。
(町家)
・町家は,個人の資産という以上に,京都都心部のアイデンティティの1つである。
・一方で現実には,建築規制や経済的な負担が,その保全や再生にあたっての障害になっている。
・空き家を活用しようにも誰に相談すべきかわからないのが実態である。
(都市景観)
・道路斜線の緩和規定によって,町家が連担する街区の中にセットバックしたボリュームの大きなものが建つことが問題である。
・電柱や電線も都市景観の大きな要素であり,地中化などの配慮が望まれる。
・文化財や歴史的意匠建造物などを,まちなみの定点として積極的に保存することが望まれる。
・特に文化財については,その周辺環境を含めた保全を図ることが必要である。
(居住環境)
・共用廊下の容積率不算入など,近年の建築規制緩和により共同住宅が肥大化していることが問題である。
・その結果,共同住宅同士が居住環境を侵しあう,或いは街区内部に空間を持つという構造が崩れることで,全体の環境水準が低下してしまう。
(建築規制の強化)
・都市景観や居住環境に関する課題を解決するために,建築規制を強化することが必要である。
・一方でそれは,担保価値の下落などにより,経済活動に悪影響を及ぼす可能性もある。
(まちの活性化)
・都心の問題を議論するうえでは,職の部分を欠かすことはできない。
・建物の低層部に,まちににぎわいを与える施設や地域の文化を反映したような施設を誘導することが望まれる。
(地域の協調・協働)
・もともと住んでいた人と新しく入ってきた人,或いは町家の居住者とマンションの居住者が共生できるような仕組みをつくっていくことが重要である。
・ 町や元学区といった地域コミュニティを活かして,細かい単位の環境管理のシステムを作っていくことで,より望ましいまちなみが実現する。
  
 本審議会では,こういった議論を経て,京都の都心部におけるまちなみのあり方,及びその実現に向けた方策を以下のように取りまとめた。

3 都心部のまちなみのあり方

 町家やそこに育まれた生活文化,そして数多くの文化財といった地域のまちなみ資源が大切に継承される。一方で,土地利用の転換や建物の更新に際しては,地域のまちなみ資源との調和が図られる。その結果として,都心としてのにぎわいが維持され,将来に亘っても持続可能なまちなみが形成されていく。こうしたまちなみのあり方が望まれる。

4 望ましいまちなみの実現に向けた方策

(1)地域まちづくり活動の重要性
 ここで「まちなみ」とは,建物の表層の形態や意匠のことだけではなく,そこに営まれている人々の生活の投影を指している。「持続可能なまちなみの形成」とは,残すべきものは大切に継承しながらも,緩やかな変化を許容することで,時代に応じた都心のにぎわいと歴史的な都市空間が共存し続ける様子を指している。
 そうであれば,望ましい「まちなみ」が実現する前提として,地域のコミュニティがいきいきとしていなければならない。そのためには,地域の自主的なまちづくり活動がより活性化することが重要であり,京都市には,それを積極的に支援していくことが求められる。

(2) 地域のまちなみ資源が大切に継承されるために
 これまでの審議会や市民シンポジウムを通じて明らかにされた地域のまちなみ資源とは,町家や文化財といった特色ある建築物やそれらが形成する景観,居住環境に配慮した空間,更にそこに住み働く人々の交流といったものまでを含む広い意味のものであった。そうしたものの価値が広く共有され,大切に継承されていくことが重要である。
① 町家や文化財の継承
 京都市では,町家に関する相談窓口を設置する等,その継承に向けた取組を進めており,今後は更にそれを強化していくことが求められる。しかしその一方で,今日いまだ,町家は既存不適格建築物である。現行制度上非常に困難であることは理解するが,本審議会としては,町家に継続して住まう,活用する,或いは新たに良質な木造建築を建築することが,京都の都心にとって大変に重要であると認めるが故に,防災面に対する十分な配慮を前提としつつ,それを可能にする新たな仕組みの構築や技術の開発を,京都市に強く求めたい。
 また,京都の都心部には数多くの文化財があり,それは市民全体の貴重な財産であるとともに,地域の環境に潤いを与える存在でもある。それを将来に亘って継承していくことは,後世に対する私たちの責務である。文化財の価値はその単体だけが生み出すものではない。今後文化財の継承にあたっては,周辺環境を含めた保全が検討されるべきである。具体的な手法については,文化財保護条例に基づく文化財環境保全地区の指定,或いは都市計画法や自主条例によることも含め,幅広い検討が必要である。

② 町家や文化財の継承に向けた支援
 町家や文化財といった地域のまちなみ資源の維持・改修には,相当な手間や資金が必要である。一方で,京都の都心に建設されている高層マンションは,それらの恩恵を享受している。
 したがって,高層マンションの建設に対して地域のまちなみ資源を維持・改修するための負担を求めることは,効果的かつ合理的であり,広い理解が得られるものと考えられる。現在京都市では,自主財源の確保に向けた税制のあり方が検討されているところである。高層マンションの建設に対する法定外目的税についても,その一環として,是非とも検討していただきたい。

③ 環境負荷の少ないまちづくり
 歴史的に形成されてきた街区内部における空地の連担は,採光や通風の確保によって,高密な都心居住に対して安定した居住性を提供してきた。また,その中に庭というかたちで確保された緑は,都市活動が環境に与える負荷を軽減させる役割を果たしてきた。持続可能なまちなみの形成を目指す上では,こういったものを積極的に評価し,地区計画などにより,それを継承していくとともに,新たな緑の創出も望まれる。

(3)土地利用の転換や建物の更新に際して調和が図られるために
 京都の都心は,単なる歴史的な遺産として捉えられるべきでない。この地域はこれまでも,そしてこれからも都市活動の中心的役割を担うべき地域であり,時間の流れに沿った緩やかなまちなみの変化は受け入れるべきである。その上で,新しいものに求められるのが,地域のまちなみ資源との調和である。
① 地域コミュニティとの調和
 京都の都心部には町や元学区を単位とした住民間のいきいきとした交流がある。土地利用の転換や建物の更新にあたって最も大切なことは,新たにそこに住み働く人々が,その中に,自然に受け入れられていくことである。
 そのためには,建築主や事業者が,地域との十分な協議を経ながら,個々の事業を進めていくことが望まれる。しかし現実には,そのようなことが一般的に行われているとは言い難いため,今後,一定の建築行為に対して,それぞれの地域の思いが伝えられ,地域コミュニティとの調和が促進されるような仕組を検討すべきである。

② 周辺環境との調和
 地域コミュニティとの調和が図られる一方で,都市計画・建築行政に責任を持つ京都市には,それを後押しするような,更新にあたっての基準づくりが望まれる。そのためには,現行の都市計画内容を尊重しつつ,一定以上の高度利用に対しては,周辺環境への配慮を義務付けるような仕組を,独自に構築すべきである。
 職住共存地区においては,これまでどおり31mを上限としつつ,一定の高さを超えるような高度利用に対しては,採光や通風といった周辺の環境に対する配慮ができるような基準を設けるべきである。
 その際,一定の高さについては,審議会においても様々な議論があったが,当面,行政による早急な対応と一定の効果が見込まれ,かつ広い理解が得られやすいと考えられることから,20mに設定して検討すべきである。

③ 都市景観との調和
 職住共存地区においては,町家が形成してきた趣ある景観の継承に配慮した更新がなされる必要がある。そのために,美観地区の指定と斜線規制緩和の見直しを行うべきである。
 美観地区制度は,市街地景観の整備を目的として,京都市が独自の条例で定める制度であり,優れた景観の形成に役立っている。今後はこれを都心部にも適用させることで,積極的な景観整備を進めていくことが望まれる。
 また,京都の都心部には間口が狭く奥行きが長い敷地が多く,建物のセットバックによる斜線規制緩和の適用が受けやすい状況にある。その結果,通り景観の連続性が損なわれ,街区内部の空間が建て詰まるという状況が生じていることから,高度地区の変更などにより,これを見直すことが必要である。

④ 中心的な商業地域であることとの調和
 全国的な規制緩和の流れを受けて,近年新たに建設される共同住宅は,それまでの空間構成の秩序から大きく逸脱しがちである。そこで,商業・業務ビル,あるいは低層部分に店舗などを併設して都心のにぎわいを継承する共同住宅については,これまでどおりの容積率を認めつつ,住居専用の共同住宅については,特別用途地区の指定などにより容積率を引き下げるべきである。
 その際,住居専用の共同住宅に認められる容積率については,審議会においても様々な議論があったが,当面,行政による早急な対応と一定の効果が見込まれ,かつ広い理解が得られやすいと考えられることから,300%に設定して検討すべきである。
 また,幹線道路沿道地区においては,大都市における商業・業務の中心地であることとも調和が図られる必要がある。そういった視点から,今後,例えば低層階に店舗などの設置を義務づけるなど,適切な規制・誘導策を検討すべきである。

5 都心の再生に向けて

(1)具体化にあたって
 ここまで示したそれぞれの方策を具体化していくうえでは,地域に対する説明責任を果たさなければならない。そのためには,住民の理解を得るための十分な取組とともに,次のような配慮が不可欠である。
① 現に存在する建築物のうち,新たな規制内容に合わないものについては,そこに住まう住民が建て替え後もそこに住み続けられるために,現在の居住スペースが確保されるような措置が必要である。ただし,現在の形態そのものを再現するというのでなく,より地域との共生が図られるよう,幅広い協議の中で建て替え後のあり方が検討される必要がある。
② 新たな規制が,結果として外部からの投資を拒むものであってはならない。そのためには,その内容を透明なものにしておく必要がある。特に,周辺環境への配慮がなされており一定の高さを超えることが認められるという基準,あるいは,にぎわいを継承し400%の容積率が認められるという基準については,客観的かつ数値的に明示することが求められる。
③ 職住共存地区と幹線道路沿道地区の境界付近のについても何らかの対策が必要である。都心の地域活動は「両側町」を単位に営まれており,通りをはさんだ住民の生活や事業は相互に関係が深い。また,道路幅の関係から実際に利用できる容積率は400%に満たない地域も多い。住民の理解を前提にして,幹線道路沿道地区のうち,職住共存地区に近い部分の規制内容を職住共存地区に配慮したものとすることも検討すべきである。

 また,再生を図るべき京都の都心とは本来,今回検討の対象とした都心部よりも広く,概ねJR東海道線以北の歴史的市街地全域を指している。今後は,そういった地域においても,より望ましいまちなみのあり方を検討していくことが望まれる。

(2) 直ちに実施に向けた検討を行うべき方策
 今回提言した方策の中には,その具体的な内容についてさらに議論を深めるべきものもあるが,今日の都心部の状況を踏まえ,現段階で本審議会としての結論に達したものを示すことが必要であると判断した。少なくとも,既存の都市計画制度で対応可能なもの,具体的には,前章4 望ましいまちなみの実現に向けた方策中,(3)②及び③に掲げた高度地区の変更及び美観地区の指定,同④に掲げた特別用途地区の指定については,直ちに実施に向けた検討を行うべきである。
 その際,これらの方策が都心の再生に結びつくためには,前章(1)に掲げたとおり,地域の自主的なまちづくり活動がより活性化することが前提となることについては,ここで改めて指摘しておきたい。

(3)将来に向けて
 都市の再生が我が国の大きな課題であるといわれている。全国的には,それに向けた様々な土地利用に係る規制の緩和が行われているところである。京都においても,都市の再生は大きな課題である。しかし,京都の都心部においては,そのための手法が他都市と異なって然るべきである。それは京都というまちの個性に由来する。本審議会は,この提言に示した土地利用に係る規制の適切な見直しが,京都の都心再生にむしろ不可欠であると考える。当面設定すべきとした高さや容積率の基準(これまでどおりの手続きで建築できる高さや住居専用の共同住宅に認められる容積率)についても,地域まちづくりの状況などを見つつ,再度見直すことも視野に入れておく必要がある。
 既存の都市計画制度で対応可能なもの以外についても,残された課題として,引き続き検討していく必要がある。冒頭指摘したとおり,京都には,その固有の都市空間を活かした魅力ある都市づくりが求められており,各々の方策が,それに向けた重要なものを含むと考えるからである。京都市には,自治立法権の拡大など,昨今の社会状況の変化を捉えて,早急かつ着実に,都心の再生に取り組まれることを期待したい。

お問い合わせ先

京都市 都市計画局まち再生・創造推進室

電話:075-222-3503

ファックス:075-222-3478

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