奨励者インタビュー(平成26年度奨励者 森田玲氏)
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2024年6月11日
奨励者インタビュー(平成26年度奨励者 森田玲氏)
平成26年度の京都市芸術文化特別奨励者である篠笛(しのぶえ)奏者の森田玲(もりた・あきら)さんに、申請の動機や奨励金の使い道、申請を検討する方へのメッセージなどをお聞きしました。
申請のきっかけ
奨励者制度を知ったのは、市内の施設で手に取ったチラシでした。「奨励金300万円」の文字がまず目に入りました。50万円でも100万円でもなく、300万円。これだけまとまった金額であれば、思い切った活動ができるのではないかと感じました。
また、申請分野が非常に幅広く、あらゆるジャンルが対象となっていたことも魅力でした。過去の奨励者を見てみると、浄瑠璃、映画、ピアノ、声楽の方がいらっしゃいました。他の制度とは違い、「文化芸術」という幅広い枠組みで、自分の実力を試すことができるのではないかと思いました。私としては、「日本音楽」ではなく「文化芸術」という大きな枠組みで認定されることに、意義を見出しました。
私は大阪生まれですが、京都に魅せられ、京都大学の農学部に入学し、以来、京都に親しみを持ってきました。大阪で笛屋を始めて後、憧れの京都に戻り、京都市民になって十年以上が経ちました。京都には、都市域でありつつ、山や川などの自然が身近にあり、また、様々な時代の歴史文化が、京都盆地という小宇宙に凝縮されています。このような魅力的な環境の中で、文化芸術に接し、また、自分の活動内容も発信したいという想いから、京都に移り住みました。
この京都ブランドを味方に付けるためには、やはり、単に京都に住んでいる、京都に活動拠点を置いているというだけでは不十分で、何か公に認められるような実績の必要性を感じていました。ちょうど、このような問題意識を持っていた時に、奨励者制度の存在を知ったのです。
申請にあたって
能楽師の林宗一郎氏を誘いました。私と林氏とで新しい舞台を作るという、ありきたりのパターンではなく、篠笛や能の歴史的背景や源流を探求することをテーマに掲げました。
例えば、笛が用いられる各地の祭の在り方は、能の舞台に通じるものがあります。祭の中の賑やかな芸能を見る私の目と、洗練された能を見る林氏の目の両方を通して、複眼的に捉えることで、思索が深まるのではないかと考えました。そして、自らが携わっている芸能の立ち位置、座標のようなものも確認したいと考えました。それが、お互いのパフォーマンスに説得力を持たせることにも繋がると思ったのです。
申請のポイント
篠笛奏者と能楽師がコラボレーションをして新しい舞台を創造するという、予想されがちな内容ではなく、それぞれの活動の土台固めの意味も込めて、二人の背景にある祭や芸能の歴史文化と意味を掘り下げるという内容で申請をしました。このアプローチは、ストーリー性や意外性があって、審査員の先生方の目にも留まりやすいのではないか、と考えました。
また、申請書は、審査員の先生方が申請内容を具体的なイメージをもって理解できるものでないといけません。奨励者の対象が「文化芸術にかかわる全て」というくらい幅が広いため、審査員の先生方が、申請者の専門分野について、まったく知らないということは十分にあり得ます。
そこで、わかりやすく、また、興味を持ってもらうような文章を心掛けて、何度も推敲しました。専門用語には振り仮名を付けることはもちろんです。例えば、篠笛という、私にとっては生活そのものといっても過言ではない慣れ親しんだ言葉でも、この文字を初めて見る人は、「ささぶえ」「何ふえ」「??」と混乱することもあるでしょう。
また、一般的ではない言葉には、修飾的な説明を付けるようにしました。その上で、興味を持ってもらえるような内容、リズムの良い文章が望ましいでしょう。声に出して読む、家族や友人に読んでもらうことも有効です。
奨励期間中の活動
一年の奨励期間で、京都の祭をはじめ、四天王寺聖霊会(大阪府)、岸和田祭(大阪府)、春日若宮おん祭(奈良県)、伊勢大神楽(三重県)、壬生の花田植(広島県)、宇佐の放生会(大分県)、黒川能(山形県)など各地の祭を見聞し、その経験を、それぞれの公演に活かしました。また、奨励期間の次年度には、自主的に、奨励期間中の調査報告を兼ねた舞台を、京都芸術センターで行ないました。
奨励金は、宿泊・交通費、書籍購入費などに活用させていただきました。また、奨励期間の総括と、応援してくださっている京都市民の皆様に活動の成果を還元するために、調査に赴いた全国の祭の概要や考察などをまとめた報告書を作成し、図書館など京都市内の関係機関に配布しました。
資金面はもちろんですが、奨励者として、京都市や京都市民の皆さまに期待されているという責任感が、良い緊張感と励みにもなり、とても充実した一年となりました。この感覚は今でも続いています。
右:森田氏
左:林氏
奨励の成果
奨励期間中で得た知識や知見は、今でも、多くの場面で活かされています。演奏会では、篠笛の歴史文化や演目に対する解説に深みが出ました。篠笛の音色にも説得力が増したと実感しています。
また、フィールドに出向いて、文献を読んで、それを舞台に反映するというサイクルが、生活の中で定着しました。成果の一つが、奨励期間の調査を出発として、日本の祭を神事と神賑(かみにぎわい)という観点で捉えた『日本の祭と神賑』(創元社、2015年)の出版です。
多くの方にチャレンジを
認定されることで、奨励期間中の活動が充実することはもちろんですが、その後も、プロフィールや催しのチラシに「京都市芸術文化特別奨励者」という名称を記載することができ、良い緊張感と責任感を持って活動ができるようになります。これは、将来にわたって、自身の文化芸術活動に大きな影響を与えることでしょう。
多様な分野から多くの皆さんが申請されることもあって、狭き門には違いありません。ですから、必ずしも認定されるわけではありませんが、制度に応募すること自体が大きく成長するチャンスであり、意味のある作業であると考えています。申請書を作成する過程において、自分が携わっている芸術分野の成立過程や現状と課題、そして、自分のやりたいこと、やるべきことが、頭の中でまとまってきます。是非多くの方にチャレンジして欲しいです。
森田 玲(もりた・あきら)
昭和51年大阪生まれ。京都市在住。玲月流初代・篠笛奏者。株式会社篠笛文化研究社 代表、「なにわ大賞」特別賞、「文化庁芸術祭」新人賞、「京都市芸術文化特別奨励者(林宗一郎氏(能楽師)とのグループで認定)」。『日本の祭と神賑』『日本だんじり文化論』創元社、『日本の音 篠笛事始め』(篠笛文化研究社)、京都大学農学部森林科学科卒、関西学院大学大学院「島村恭則研究室・民俗学」所属
(令和5年8月作成。肩書等は当時)
お問い合わせ先
京都市 文化市民局文化芸術都市推進室文化芸術企画課
電話:075-222-3119、075-222-3128 (京都芸大担当)、075-222-4200(政策連携担当)
ファックス:075-213-3181