平成29年4月号 予防タイムズ・リターンズ
ページ番号216016
2017年4月3日
後輩:先輩!さっき査察に行った工場に,火薬のようなものが大量に貯蔵されていたんですよ。危ないと思ったんです
けど,危険物でもないし,何も指導できないですよね。
先輩:君,勉強が足りないぞ。国の法改正で,これまで京都府が行っていた火薬類取締法に関する事務が京都市に権
限移譲されて,平成29年4月から我々消防局の職員が事務を行うことになったんだ。もし勝手に火薬が貯蔵されて
いたなら,すぐに指導しなくてはならないぞ!
後輩:そ,そうだったんですか。もう一度行って指導してきます。
先輩:慌てるな。現場に行く前に,火薬類取締法の概要を説明しておこう。
先輩:君は,そもそも火薬類というものが何か知っているかな?
後輩:火薬ですから,銃の弾とか花火とかでしょうか。
先輩:おっ,知らないわりにはどちらも正解だ。法令用語で,銃の弾は実包,花火は煙火と呼ばれている。
火薬類については,法令で大きく3つに分類されているんだ。火薬,爆薬そして火工品だ。火薬は推進的爆発の用
途として,煙火の打上げ等に使われている。爆薬は爆発的用途として,砕石場や工事現場で行われる発破等に利
用されている。最後の火工品は,火薬や爆薬を使用して製造した製品をいうぞ。君が挙げた実包や煙火も火工品の
仲間なんだ。
後輩:そうなんですね。京都市内では,どのような火薬類に出くわす機会が多いんでしょうか?
先輩:そうだな,例えば煙火を見る機会は多いだろう。花火大会で打ち上げる花火玉,運動会の「よーい,どん!」で使用
する競技用紙雷管,車両に積載している発炎筒,スーパー等で売られているおもちゃ花火も,がん具煙火という煙火
の仲間だ。
警察署や射撃場に査察に行けば,実包を見る機会もあるだろう。
後輩:ダイナマイトみたいな爆薬を見ることはないんですか?
先輩:ダイナマイトは最近使われなくなったが,硝安油剤爆薬(ANFO)や含水爆薬は,京都市内の採石場でも使用されて
いるぞ。爆薬は,火薬庫という専用の建物に貯蔵されているんだ。
後輩:火薬庫ですか!京都市内に火薬庫があるなんて初めて知りました。
先輩:そうだろうな。次に,火薬類の規制について順を追って説明していこう。
先輩:火薬類取締法の目的は,火薬類の製造,販売,貯蔵,譲渡・譲受,消費,廃棄その他の取扱いを規制することで,
火薬類による災害を防止し,公共の安全を確保することなんだ。
火薬類が生まれてから消えるまで,まさにゆりかごから墓場までの全てを規制する厳しい法律といえる。
後輩:やはり,厳しい規制が課されているんですね。
先輩:そうだ。製造から廃棄まで,原則許可がないとできない仕組みになっている。火薬類を所有する者の取扱いによって
は,テロ等の犯罪に使用することも可能であるし,一度災害が発生すると広く一般の公衆に対しても甚大な被害が及
ぶ可能性がある。主管行政庁の責任は重大だ。
後輩:そうですね。
先輩:ちなみに,火薬類取締法では,火薬類の運搬についても規制しているんだが,そちらは都道府県公安委員会が窓口
となっているから,あまり気にしなくても大丈夫だぞ。
後輩:分かりました。僕は消防法に基づく指導に慣れてしまっていますが,何か気をつける点はありますか?
先輩:良い質問だな。火薬類取締法の目的の一つとして,盗難防止という考え方があるぞ。火薬類を貯蔵する火薬庫等の
施設には盗難防止設備の設置が義務付けられているんだ。
後輩:盗難防止設備ですか!?消防法にはなかった世界ですね。具体的にはどのような設備があるんですか?
先輩:例えば,火薬庫の出入口を二重扉にしたり,開口部に金網を張ったり,自動警報装置を設けたりするんだ。悪い奴が
侵入しようとしても,すぐに関係者が駆けつけられるから安心だ。
さらに,火薬類の出納状況を記載する帳簿の備え付けも義務付けられているぞ。火薬類を扱う事業所からの不正流
出を防ぐのが目的だ。
後輩:いかにも取締法って感じですね。
先輩:もう一つ大事なポイントがあるぞ。それは施設に対する許可だけでなく,行為に対する許可があるという点だ。これは
消防法の危険物に対する許可と大きく異なる点だ。
施設に対する許可の代表例は火薬類を貯蔵する火薬庫の設置許可が挙げられる。行為に対する許可の代表例は,
花火大会等の煙火の打上げ,つまり消費の許可だ。
後輩:形に残らないものに許可を出すというのは新鮮ですね!
先輩:そうだな。煙火を一定数量以上打ち上げる場合,「許可が必要な行為」に該当し,事前に申請してもらう必要があるぞ。
申請手数料は,一律7,900円だ。手数料の額については,新たに京都市消防関係手数料条例で定められたから確認し
ておいてくれ。
後輩:わかりました。確認しておきます。
先輩:煙火を打ち上げる場合には,守るべき基準がいくつかあるんだが,イメージしやすいものに安全距離の確保がある。
例えば,宝ヶ池で実施されているイベントでは,直径9cmの3号玉が打ち上げられていて,周囲80m以上離したところに
観客席を設けているんだ。
後輩:万が一花火玉が頭に落ちてくることを考えたら,できるだけ離れて観たほうが良さそうですね。
先輩:そうだな。打ち上げた花火玉が上空で爆発せず,そのまま落ちてきたものを黒玉と言うんだ。覚えておくといいぞ。
後輩:花火業界には専門用語がたくさんありそうですね。後輩:火薬類が危ないことは分かりましたが,事故はどれくらい発生しているんですか?
先輩:消防士としては一番気になるところだな。平成27年(1月~12月)には,全国で61件の事故が発生しているぞ。死者
0名,負傷者43名だ。重傷者が4名で,内3名が煙火の消費中に,1名が発破中に発生した事故で負傷している。
件数こそ少ないが,ひとたび事故が起きれば大事故に繋がるから注意が必要だ。
後輩:京都市内で事故はないんですか?
先輩:幸いなことに,平成19年を最後に,京都市内での事故は報告されていない。
後輩:そのときの事故はどのようなものだったんでしょうか?
先輩:その年は全部で4件の事故が報告されているが,いずれも不発弾等が見つかって,それを警察官に届け出たもの
らしいぞ。
後輩:不発弾を発見しても事故扱いになるんですか!?
先輩:そうなんだ。火薬類取締法に係る事故については,法律で定義されているんだが,ざっくり言うと,火薬類について
災害が発生したときと,火薬類や許可証等を無くしたか,盗まれたときなんだ。
後輩:不発弾が見つかるということは,誰かがそれを無くした,ということですね。
先輩:さすが理解が早いな。持ち主不明の火薬類が発見されたら,まずは警察官に届け出る必要がある。そして警察官
から我々消防に連絡が入ることになっているんだ。
火薬類取締法の事務は,このような形で警察官と連携する場面があるから覚えておくように。
後輩:少し緊張してきました。
先輩:おっと!ちょっと話が長くなりすぎたな。ところで,問題の査察対象物の名前はなんだ?
後輩:京都香辛料工業です。
先輩:・・・。君が見た火薬とやらはコショウではないだろうな。
後輩:・・・。
先輩:まあよい。とにかく現場を見に行くぞ!
後輩:はい!
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