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京都市消防局

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平成29年3月号 ザ☆救急

ページ番号214821

2017年3月1日



 私にこの原稿の依頼があったのは昨年の秋頃で,ちょうど運動会シーズンでした。

 昨年はリオオリンピックが開催されたこともあり,私自身も張切って町内の運動会に参加しておりました。リオオリンピックで私が最も印象的であったのは,4×100メートルリレーです。日本チームが銀メダルを獲得したことは皆さん御承知のことかと思います。この結果のすごいところは,個人種目の100メートル走では,他の外国人選手に太刀打ちできません。しかし,一人ひとりの力では及ばないことであってもバトンパスの技術とチームワークでコンマ数秒という時間を短縮し,うまくバトンをつないだ結果であります。これらは,我々救急隊のCPA(心肺停止)現場に通じるのではないでしょうか。

 私が救急隊として勤務して8年目になります。これまで,多くの様々な救急現場に出動しました。しかし,CPAの現場で社会復帰された方はたったの2人だけでした。循環機能は回復しても脳死状態であったり,重い後遺症が残ってしまったりという傷病者や救命できなかったという現場がほとんどです。

 この社会復帰された2人の方には,助かるべくして助かったある共通した理由がありました。


 私がF消防署で勤務していたときのことです。急病事案で,場所は消防署からすぐ近くのバイク屋でした。消防署から数百メートルの場所であり,指令センターからの無線情報で「高齢男性CPAの模様。現在,口頭指導実施中」との内容でした。

 あれこれと考えている間もなく現場到着し,まず目に入ったのは若い男性が倒れている高齢男性に対して心臓マッサージ(胸骨圧迫)をされている光景でした。状況はというと,若い男性の父親が仕事中に突然苦しみ出して倒れたというものでした。倒れている男性の顔色は真っ青で死戦期(しせんき)呼吸(あえぎ呼吸とも言われ,実は呼吸をしていない),すぐさまAEDを装着すると心室細動,いわゆるVF波形(心臓機能が完全に失われている状態で,緊急対応が必要な状態)であり,除細動のため電気ショックを現場で2回実施。バックマスク(鼻口腔に空気を送り込む器具)による人工呼吸は良好,心臓マッサージを継続し,すぐに救急車内へ向け搬送を開始。幸いなことに直近の救命センターに病院を決定し,病院へ向け出発できました。救急車内でも依然心電図波形はVF波形であったため,電気ショックと心臓マッサージを繰り返していると,5回目の観察時であったと記憶していますが,心電図波形が心室頻(しんしつひん)拍(ぱく)(突然脈が速くなり,しばらくすると止まる)へと変化し,すぐさま総頸(そうけい)動脈(首付近を通る動脈)を確認すると拍動を感じました。橈(とう)骨(こつ)動脈(肘から手首に掛けて通る動脈)を確認したところ拍動が不十分であったため,心臓マッサージを継続していると,なんと傷病者本人の手が動き出し,心臓マッサージをする手を払いのけようとされました。呼吸もマスク換気をしていると何やら抵抗を感じ始めて,観察すると自発呼吸が始まっており,補助呼吸へと切り替えました。

 その後,無事に病院へ到着。指令から病院到着まで15分足らずではありましたが,無我夢中で活動をしていたせいか,あっという間のことで,帰隊してから落ち着いて現場活動を振り返るまで正直ほとんど記憶はありませんでした。

 それから,病院での二次救命処置と集中治療が施されて,1箇月後には元気に退院されたそうです。

 社会復帰されたもう1人の傷病者の方もほとんど同じ状況で,居酒屋から帰宅途中のサラリーマンが路上で突然苦しみだして倒れたというCPA現場でした。偶然通りかかった看護師さんが心肺停止と判断し,すばやい通報と心臓マッサージが行われて,救急隊そして病院へと救命のバトンリレーが迅速につながった事例であり,このサラリーマンの方も無事に社会復帰され,後に消防署でバイスタンダー(居合わせた人)である看護師さんと再会されました。


 私はこの二つの現場を経験し,改めて「救命の連鎖」の重要性を知りました。

 バイスタンダーによる素早い心停止の認識と通報,そして一次救命処置(心肺蘇生とAED)。続く救急隊が必要な処置をしながら速やかに傷病者を病院に搬送して,医師による高度な救命処置に「命のバトン」をうまく繋ぐ。まさに400メートルリレーで日本チームが銀メダルを獲得したように,一人一人の力では及ばなくてもうまく「バトン」をつなぐことで,命を救うことができるのです。

 これからも一人でも多くの命を救えるように,救急現場はもとより,救命講習の普及や救命講習時に「救命の連鎖」の重要性を呼び掛けていき,「リレーの走者の一人」として命のバトンをつなげていきます。


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