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京都市消防局

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平成28年度 消防職員意見発表会 優秀賞

ページ番号213758

2017年2月1日


 「僕は消防士になる!」

 私は物心がついたころから消防士になることが夢でした。なぜなら,市民を守るために体を張って果敢に火の中に飛び込んでいく消防士に憧れていたからです。

 その思いを持ち続けていた中学生のとき,私の家はろうそくの火の消し忘れにより,全焼してしまいました。出火時,家族は全員外出していたので,無事でした。しかし,大切なものを全て失ってしまった喪失感と絶望感は今でも消えることはありません。 

 このとき,私は「将来,消防士になったら,自分の力でこんなに悲しい思いをする人を一人でも減らしたい!」と以前よりさらに強く決意したことを覚えています。

 私は高校を卒業してすぐに消防士になりました。この頃,私の中で消防士とは,災害現場で活躍する姿しか頭になく,日々訓練に励み,実際に火災現場で炎に立ち向かい,あるときには助けを求める要救助者の下へ向かうこともありました。 

 こうしたことを積み重ねていくなかで,私たちが訓練などにより現場活動能力を練磨することで被害は軽減できる!悲しみや苦しみを軽減できる!という思いの反面,火災自体が起こらなければ,誰も悲しんだり苦しんだりすることはない!そうあるために消防士の私自身,「具体的に何ができるだろう」と考えるようになりました。

 そんなある日のことです。私は隊長と2人で高齢男性宅へ防火指導に行きました。チャイムを押すと男性が出てきて,家の土間まで入れてもらえました。

 私がいつもどおり,パンフレットに沿って防火指導をしていると,火鉢があることに気が付きました。

 その火鉢の中には豆炭が燃やしてあり,横の机の上には封筒が崩れ落ちそうなほどに積んでありました。

 私は男性に「豆炭を使っておられるのですね。火事には気を付けてください。」と指導しました。すると男性は怒って「昔からこれで暖をとってるんや!火事になったこともないし,お前に言われる筋合いはないわ!」と言われてしまいました。

 私は目の前に火災の危険を認めながらも,言葉足らずの指導のため,相手にその危険性を十分に伝えることができませんでした。 

 そこで隊長が私に代わり,

「確かに今のところ,あなたの家で火事は起きていません。しかし,火事はどの家でも起こる可能性があります。その可能性を少しでも減らしていくために,豆炭を使う際には,周りに燃える物を置かないでください。火鉢の上に落ちたら火事になる恐れがあります。また,使用中は目を離さないでください。長時間火種が残るため,お休み前や外出時には火を消してください。」と男性に火災の危険性を丁寧に指導しました。

 すると,男性は,「確かに言わはるとおりやな。気を付けます。」と返事をしてくださいました。

 このとき,まさに「火災の芽を摘むということはこういうことである。」と気付くことができました。 

 言うのは簡単ですが,納得を得るのは難しい!

 しかし,ちょっとした気遣いや言葉遣いで,こんなにも伝わり方が違うものか,ということを痛感しました。 

 「火災予防」とは,火災を予め防ぐと書きます。

 市民に対して我々ができることは,災害現場で活動するのみでなく,地域に足を運び市民に顔を見せ,それぞれの生活環境に合わせた指導を行い,火災を「予め防ぐ!」という意識を高めてもらうことだと思います。

 これからの消防人生において,私は「予め防ぐ!」という言葉を原点に,火災を1件でも減らすことのできる,防火指導力,いわゆる伝える力を身に着けることを決意します。

 私が経験した喪失感と絶望感を感じる人を一人でも減らすために!

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電話:075-682-0119

ファックス:075-671-1195