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京都市消防局

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平成28年10月号 ザ☆救急

ページ番号205667

2016年10月3日


 ある当務の日の朝,出動から帰隊すると消防電話が掛かってきました。それは,担当課長からの電話で,2~3の会話の後,

 「ところで,京都消防の原稿依頼があって…。」

 「えっ,まさか!」

 「書いてくれるか?」

 「えっ,私が…。特に書くことなんてないですが,いいんですか?」

 「経験も豊富やし,頼むわ。」

 「分かりました。」

ということで,引き受けた訳ですが,正直,何を書いたらいいのか見当も付かず,2週間ほど考えてみました。

 確かに,現場経験は嫌というほどしてきましたが,皆さんに伝えられるような特別な経験といわれると,なかなか思い浮かびません。それなりの経験を積み,失敗をする度に今度はこの経験を生かして失敗がないように活動をしようと思い,更に経験を積み重ねてきたつもりでしたが,「これは!」というのが思い浮かびません。

 それよりも,いつまでも記憶にあるのは,現場で聞いたり,言われたりした何気ない「ひとこと」です。現場で経験したことは,自分ができるようになると当たり前になるらしく,体が勝手に動くようになり,記憶が薄らいでいきます。ところが,言葉というのは,何気ない「ひとこと」でも,自分が関心を持った言葉であれば,いつまでも記憶に残っているものです。

 そんな私の記憶に残っている「ひとこと」の1つは,ある救急現場で隊長に言われたものです。

 それは,救急隊員になって5年目ぐらいの頃にあった,あるCPA事案の現場での出来事です。隊長が先行し,もう1人の隊員と,現場までストレッチャーと資器材を持って行こうとした際に,「早く,しかもできるだけ近くに」という思いから玄関前まで搬送しようとした際,門から玄関までが近かったので通路がレンガ敷きであったのを見逃し,ストレッチャーが転倒しそうになりました。その様子を,玄関を入ったところで,傷病者の観察と処置を行っていた隊長が見ていて,

 「慌てなくてもいいぞ。」

と「ひとこと」。私は,その言葉を聞いた途端に冷静になり,その後の活動を落ち着いて行ったことを今でも覚えています。

 それ以来,現場活動を行うとき,私はこの言葉を思い出し,周りの状況を確認し,冷静で迅速な活動ができるようにと心掛けています。また,この頃までは,私は隊長等からの指示がないと動けないような隊員だったのですが,この後ぐらいから,自分なりに考えて行動し,時には隊長に助言等を行い,自分に自信が持てるようになりました。

 ほかにも,色々な「ひとこと」がありましたが,もう1つ,紹介します。

 これは,どちらかというと笑い話になってしまうような言葉ですが,これも救急隊員になって同じような頃の話です。傷病者を病院に収容し,帰隊途上,消防指令センターから

 「○○で,はっぽう事故があり,負傷者があるので指令します。」

と無線連絡がありました。救急車内で,「発報事故で負傷者?」と不思議に思っていたところ,その後の無線情報で「発砲事件」であることが判明したという事案でした。消防でよくいう「はっぽう」は「発報」で,消防用設備の自動火災報知設備が誤発報することですから…。「人の話はよく聞け。」と言われますが,本当にそうだなと反省した現場でした。

 このように,多分,誰にでも記憶に残っている「ひとこと(言葉)」はあると思います。「ひとこと」が教訓になるかどうかは,その言葉を受けた側の受け取め方次第だと思いますが,その何気ない「ひとこと」が,受けた人の教訓になるような,そんな「ひとこと」が掛けられるよう,私は今後も活動を行っていきたいと思います。


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電話:075-682-0119

ファックス:075-671-1195