スマートフォン表示用の情報をスキップ

京都市消防局

言語選択を表示する

検索を表示する

スマートフォン表示用の情報をスキップ

平成28年8月号 あの日あの頃

ページ番号202853

2016年8月1日



  この原稿が「Web京都消防」8月号に掲載されて皆様がお読みになっている頃には,私は58才となり,消防職員として残り2年と7箇月を迎えることになっています。今はこの原稿を依頼されたことで,これまでの35年間を振り返る機会をいただいたことに感謝しながら,自宅のパソコンに向かっています。

 奇しくも現在,私は,拝命した左京消防署で勤務しています。今回の異動が決まったとき,当時の情景がフラッシュバックし,不思議な気持ちとなりました。現在の庁舎は改築され,当時の面影はありませんが,周囲には当時のままの建物や公園などもあり,何も分からず必死になって走り続けていた23才の自分の姿が見えるようです。

 当時と現在で消防の世界は大きく違っており,同じところを探す方が難しいくらいです。その話は,毎号,この欄で先輩方がたくさん紹介されていますので,私は深夜の消防署=待機室の思い出について書きたいと思います。


 現在の消防署は,出張所も含めて全て個室化されていますが,当時は,どこも仕切りのない大部屋で全員が仮眠をとっていました。そこではいろんな「人間模様」が繰り広げられていました。

 当時は受付勤務があったので,仮眠中にその時間がくると起こされます。起こされたときは,もちろん一度で起き,静かに受付へ向かうのですが,昼間の訓練などで疲れていたときには,辛いこともありました。当時の左京消防署は1階のガレージの後ろに待機室があり(現在と同じ位置です),大部屋の2段ベッドで全員が寝ていました。この2段ベッドが弱々しい木造で,寝返りを打ったらミシミシ音がして,下で寝ている先輩に怒られるのです。ベッドのはしごも音を立てずに下りなくてはなりません。緊張しながらはしごを下りると,今度は床です。木造の古い床はなかなかのくせもので,不用意に歩くとこちらはギシギシと音を立てました。しかし,慣れてくると音の出る場所が分かって,そこを大股でまたいだりして,音を立てないようにしていました。

 1時間の受付勤務が終わると,今度は次の勤務の人を起こしに行きます。もちろん,私にとっては全員が先輩です。

 「○○さん,受付勤務の時間です。」「・・・。」

 薄暗い部屋で先輩の顔がはっきり見えません。もし間違って起こしていたら,怒られます。意を決してもう一度,

 「○○さん,勤務です。」「うぅ~ん。お前,引き続き,勤務に就いとけ。」「…はい。」

 ほかに発する言葉は見つかりませんでした。

 また,同僚の消防士の受付勤務の間に,いたずら好きの先輩が訓練人形をそのベッドに寝かせました。勤務が終わって仮眠を取ろうと自分のベッドに戻ってきた同僚は,誰かが自分のベッドに寝ていると勘違いし,右往左往していました。こんな情景を笑いをこらえながら,ベッドの手すりの隙間から見ていたこともありました。             

 このようにして消防署の夜は更けていったのです。

 いびきをかく先輩もおられました。私の父もいびきをよくかいていたのでそれほどびっくりしなかったのですが,当時の左京消防署にはモンスターがいたのです。深夜に,言葉では言い表せられない恐ろしい音がするのです。明らかにいびきではありませんでした。それもますます激しくなります。そのうち,ベッドのきしむ音までしてくるのです。起き上って周りを見渡しますが,小さな電球だけの待機室に変わったところはありません。先輩方は平然と休んでおられます。

 翌朝,恐る恐る先輩に訪ねてみました。

 「あれは○○の歯ぎしりや。」

 私は23才になるまで,ほとんど,歯ぎしりというものを経験したことがなく,非常に驚いたのですが,あれほどのモンスター級は58才の今日まで,未だにほかで経験したことはありません。


 あれもこれも,今となっては懐かしい思い出です。

 私は多分,今日も残りの月日をどのように生かし,自分の消防職員としての締め括りをどのように迎えるか,そして,以後の人生をどのように生きていくかに悩んでいることでしょう。


  • 目次

お問い合わせ先

京都市 消防局消防学校教育管理課

電話:075-682-0119

ファックス:075-671-1195