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京都市消防局

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平成28年7月号 あの日あの頃

ページ番号201565

2016年7月1日


 長い消防人生で災害現場は数々経験しましたが,全てを覚えている訳ではありません(60歳も間近かになり,忘れているのかも…)。その中で,私の現場活動の考え方に大きな影響を与えた現場を,いくつか紹介します。

 現場経験がない新人(懐かしいなぁ)の頃,木造2階建ての2階部分が燃え,屋根も焼け落ちた火災原因調査での出来事です。「おい,誰か屋根のはりに照明を固定してくれ。」と言う上司の声が聞こえたので,私は反射的に「行きまーす。」と答え,さっそうと照明器具を持って屋根に上り,はりに照明器具を固定しました。「さぁ,降りよう。」としたところ,周りのはりは焼け細り,今にも折れそうで動くことができません。先輩の隊員がはしごを掛け,屋根上であたふたしている私を救出してくれました。顔が太陽のように赤くなりました。

 「あぁ,勢いで行動するということは,自分や周りの隊員に危険を及ぼすことになる。」と,そのとき,脳みそに叩き込みました。


 月日が流れ,それは突然やってきました。寒さが厳しい,冬の中層建物火災のときです。

 耐火構造4階建の建物の構造はチョット変わっていて,筒形の建物で中心部分に階段が設置され,各階は階段を取り巻くように廊下があり,無窓で,部屋の扉が廊下に面した構造でした。火点の部屋は2階。灯油に燃え移った様子で,黒煙が部屋の窓から噴出していました。

 私は,隣家の屋根から3階ベランダ越しに部屋に入り,扉を開け,廊下に出ましたが濃煙で一寸先も見えません。このとき,この建物構造を知るすべもなく,私は廊下は続いているものと思い込んでいました。前方にあるはずの壁に向かって左足から一歩踏み出し,次に右足を出したところ…床がありません。(階段でした。)濃煙の中,体勢を立て直すこともできず,勢い付いた体は階下に向かって落ちて行き,勢いに合わせるように必死で足を右,左と出しましたが追い付きません。「あぁ,落ちた。」と観念した自分がいました。

 4,5歩くらい足を動かしたでしょうか? 面体とヘルメットに目から火花が出るほどの衝撃が走りました。階段の踊り場の壁に激突したのです。幸い大したけがもなく,何もなかったように活動は終了しましたが,思い込みと濃煙の恐ろしさを痛感した次第で,このときも,私は脳みそに叩き込みました。


 しばらく空気の抜けた風船のような状態が続きましたが,空気も充填され,また膨らんだ頃,今度は耐火構造4階建の火災がありました。私は後着隊として現場に到着。火災階は2階で,道路に面しており,白色の煙が漂い,その時点では人的情報は不明でした。先着隊がベランダで活動を開始しており,我が隊は,火点室の扉の前に部署,扉は施錠されているがベランダからの活動は可能との活動方針で待機していると,ベランダからの進入は困難な状況との情報が入り,急きょ,扉を破壊して,進入することになりました。

 活動空間を作るべくエンジンカッターで扉を切断し,手を入れて鍵を開錠したところ,「ん?! チェーンロックが掛かっている。」そうです,中に人がいたのです。チェーンロックを切断し,面体を着けて屋内進入しようと扉を開けると,部屋の中には薄い煙が漂い,大量の空のペットボトルが腰のあたりまで積まれていました。これが,ベランダからの進入を妨害していた元凶でした。

 ペットボトルを排除しながら,更に進入して右側の扉を開けると,便器にうなだれた要救助者が…。意識はなく,上半身は裸の状態で,皮膚は熱傷のため赤味を帯びています。直ちに救出しようとしますが,上半身に手掛かりはなく,ズボンのベルトを持ちながら,進入隊員と2人で要救助者の上半身を抱きかかえ,室外に救出し,廊下にいた別の隊員に託しました。

 新人の頃,ベテランの隊員から叩き込まれた「人は確実に『いない』と分かるまで『いる』と思え。」を痛感した現場でした。


 この年になるまで消防隊員で活動できたのは,皆さんのお陰だと,感謝の気持ちでいっぱいです。この感謝を胸に刻み込み,筆を置きたいと思います。


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