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京都市消防局

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平成28年3月号 ザ☆消防

ページ番号193821

2016年3月1日


 消防生活も早いもので,まもなく20年を迎えようとしています。その大半を救助隊,消防隊として過ごしてきましたが,災害現場は常に難しく,なかなか満足のいく活動はできないものだなと,日々,反省と訓練を繰り返しています。災害現場への出動を数多くしてきた中で,今でも,私の訓練や災害現場での基本と言いますか,原点となっている忘れられない現場の話をしたいと思います。

 それは,私がN部救助隊の救助隊員として勤務していたときのことです。N部救助隊と言えば,交通事故に始まり,機械や水難等の救助出動や管内,管外への火災出動も多く,駆け出しの救助隊員として経験を積むにはうってつけのところでした。そこで,救助隊員として4,5年が経過し,数々の災害現場を経験して私は,「どんな災害でもそれなりにこなせる」と自信満々になっていました。

 そんなある夏,私は交通事故現場に出動しました。旧消防学校での救助訓練を終えて帰署する道中,F区で起きた事故でした。当隊は最先着で現場に到着。事故の状況は,信号待ちをしていた軽自動車の後ろに,普通乗用車が,ブレーキの故障で減速することなく軽自動車に衝突。そのまま勢い余って普通乗用車が軽自動車の上に乗り上げ,押し潰している状態で,軽自動車内に運転者が1名,閉じ込められていました。隊長の指示で,上に乗り上げている普通乗用車をけん引して移動するべく,すぐにフロントウィンチを準備し,設定し,普通乗用車を移動させました。その後,隊長から大型油圧救助器具のスプレッダーとカッターを準備するよう指示があったので,設定して先輩隊員に手渡し,私はエンジンポンプの操作を行いました。そのとき,自分では,「フロントウィンチの設定や操作は完璧にできた。スプレッダーとカッターもミスなく設定したし,後は要救助者が救出されて,自分の経験値がまた上がるなぁ。」と思いながら活動していました。

 ところが,先輩隊員が押し潰された軽自動車の天井を広げようと,スプレッダーを使用した瞬間,スプレッダーと油圧ホースの結合部付近からものすごい勢いで作動油が大量に噴出したのです。私は,すぐに,自分の結合にミスがあったのだとわかりました。設定中,油圧ホースを結合する際にカプラーを差し込んだ後,きちんと結合できているかを確認するため,抜き差し確認をするのが基本です。火災現場でのホース延長時にも必ず行う基本と同じです。しかし,私はその当時,「早く設定して早く救出して当たり前。自分はそんなミスはせえへん!外れるわけないやろ。」と自分の技術を過信し,抜き差し確認をしていなかったのです。

 その光景を目の当たりにし,私は頭が真っ白になってしまいました。活動自体は,当隊のスプレッダーが使用不能になったため,増援要請で来てくれたT部救助隊の活動で何とか無事に終息させることができましたが,私にとっては,終生,忘れることができない悔いが残る現場となってしまいました。

 結局,いくら,技術や知識があると思っていても,アバウトな思いで現場活動を行っていては,「早く設定できた。」,「うまく救出できた。」と自己満足しているだけで,何にも良い活動ができていないのだと思い知らされました。基本が確実にできた上での応用,野球で言うなれば,キャッチボールもできないのにいきなり試合に出ても無理なのと同じで,初心に立ち返り,基本を習熟しなくてはならないと,考えを改めさせられました。

 この現場活動は,いつまでも忘れることができない恥ずかしくて悔しい現場であり,私の訓練や現場活動での原点になっています。現在,山科消防署の第1消防隊長として,自隊の隊員にも,事あるごとにこの話を聞かせて基本の大切さを指導しています。 今後も,この失敗を忘れることなく,基本を大切に,基本を疎かにしない隊員を育てるとともに,現場活動を的確に実施していきたいと思います。


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