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京都市消防局

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最優秀賞 ◆ 消防の初心 ◆

ページ番号192979

2016年2月1日


 私は,人と話すのが得意ではありません。しかし,予防課・建築担当として仕事を任されている以上,そんな甘いことを言っている暇はありません。

 消防署の受付には,毎日のように建築の相談があります。そして,来られるのは,建築士の資格を持っていたり,その業界に,数十年も務めているような方々です。その相談に,予防経験およそ1年の私が,消防という立場から,話をしなければならないのです。法令や条例,京都市の運用基準と適合しているかといった相談のほかにも,利用者が避難しやすいように,消防隊が活動しやすいようにといった指導が必要になります。

 そんなことを,冷や汗混じりにやっていたある日,1件の相談の予約が入りました。

 それは,大規模な老人ホームを建築したいとのことでした。こんな大きな相談なら,上司が指導されるだろうと思っていたところ,「最近できるようになってきたし,最初から最後まで自分で指導をやってみるか。」と言われました。私は,思い掛けない言葉に,慌てて指導に必要となることをまとめ,また,その裏付けとなる根拠や理由を,必死に調べました。

 そして,いざ相談の日がやってきました。受付に座られた方は,今まで大きな老人ホームを何件も設計し,知識も経験も,私をはるかにしのぐような方でした。設計図面に目を落としても,今までの自分の経験がかすむぐらい,大きくて複雑な形をしているように感じました。

 しかし,物怖じしていては始まりません。建物の説明を聞き,設計図面を隅々まで確認し,そして,あらかじめ用意していた指導内容を,自分の言葉で伝えます。

 「バルコニーは2方向に避難ができるように,途切れさせずにつなげることはできませんか。」

 「車椅子の方も避難しやすいように,通路の幅を広げ,障害物をなくしてください。」

 「ここの扉は,避難には支障ないですが,消防隊が進入するときに,外側から小破壊などで鍵が開けられるようにしてください。」

 単に,「こうしてください」と言うだけでなく,「利用者のために」という,理由も一緒に付けることにより,初めは難しい顔をしていた設計の方も,最終的には納得してくださいました。

 その後も,設計の方は,何度も消防署へと足を運ばれ,私の指導のほとんどを取り入れてくださいました。そして,半年以上掛かって完成した図面は,より利用者が避難しやすい,より消防隊が活動しやすいものとなりました。私は自分で設計した訳ではありませんが,まるで我が子が誕生したような気持ちになりました。

 しかし,このように,利用者の安全のことを中心に考えてくださる設計の方ばかりだと良いのですが,実際のところ,そうではありません。私が,同じように指導しても,「法令では,そこまでのことは書かれていません。」と言われ,聞き入れてもらえないことも多くあり,正直,心が折れそうなこともあります。

 そんなとき,上司の言葉を思い出します。

 「迷ったら消防法第1条に戻れ。誰のための法律なのか。業者のためでなく,その建物を利用する人のために,どうしたら良いかを考えろ。」

 これは,指導の話だけではなく,市民に近いところで仕事をしている我々には,共通して言えることだと思います。

 「初心,忘るべからず」という言葉があります。安心して市民が暮らせる環境をつくることこそが「消防の初心」であると思います。私は,この言葉を心に刻み,歩んでいきます。

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