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京都市消防局

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平成28年1月号 ザ☆救急

ページ番号192117

2016年1月4日


 「ザ・救急」の記事を書くよう,課長から依頼されたときは,まさか自分が投稿するとは夢にも思っていなかったので,とてもびっくりしました。しかし,これまでを振り返るせっかくの機会だと考え,自分が経験した中で,特に印象に残り,教訓となった現場活動について書かせていただこうと思います。

 救急隊員になって,まだ半年ほどしか経っていない頃の話です。「若い男性。息が苦しく,しんどい模様。」という指令センターからの情報で自隊は出動しました。今思えば,指令センター員も詳しい情報が得られていないような印象がありました。しかし,私はこの指令を聞いて,「若い男性だし,風邪か何かでしんどいだけで,たいした事案ではないのかな?」と勝手に思い込んでいました。

 現場に到着すると,下着姿の大柄な男性が部屋の中で不穏な様子で立っており,「しんどい。しんどい。」と言いながら歩き回っていました。部屋の中を見回すと物品が散乱しており,活動スペースもない状態でした。とにかく落ち着いてもらわなければバイタル測定も搬送もできないため,私は応対に配慮しながら,活動を実施したのですが,全く思うようにいきませんでした。「さて,どうしたものか…。」と考えていると,その男性の不穏な状態は更に激しくなり,そのままベッドに倒れ込んで動かなくなってしまいました。一瞬,何が起きたのかわからなくなっていた私でしたが,すぐに隊長が意識レベル,呼吸,循環を確認したところ,CPA(心肺停止)状態でした。まさか若い男性が目の前でCPAになるとは全く想像していなかった私は,隊長に指示されるまま,無我夢中でCPR(心肺蘇生法)を実施し,気が付けば病院へ到着していました。

 病院で告げられた病名は「肺塞栓症」でした。肺に血液を送る血管が詰まる病気です。どれだけCPRを実施しても酸素化された血液が循環しないということです。結果,残念ながら,この方の命を救うことはできませんでした。

 後日,行われた症例検討会で,担当の医師から,「あの現場で救急隊にできることは,迅速に搬送することくらいしかないのでは?」との話でしたが,目の前でCPAになった方を助けられなかった悔しさを,私は今でも忘れることができません。その方は,突然,呼吸が苦しくなり,必死で119番通報し,私たちに助けを求めたに違いありません。通報内容が分かりにくかったのは,詳細に状態を伝えることができないほど苦しかったからだと思います。

 私はこの現場を経験して,自分の仕事がどれだけ命と深くかかわっているのか思い知り,更に先入観の怖さを知りました。「もしかすると…」というような「想定」を行うことは大切ですが,まだ接触もしていない段階で「きっとこうだろう。」という「思込み」は,臨機応変な対応が必要不可欠な現場活動には邪魔なだけで,命取りになると感じました。どのような現場であっても,あらゆる可能性を想定し,どのような容態変化が起きても臨機応変に対応できるよう,1つ1つの現場活動を大切にして訓練を実施し,日々精進していきたいです。

 また,私は,昨年3月の救急救命士国家試験に合格してから,もうすぐ1年になります。まだまだ知識も技術も未熟ですが,自分の知っていることは訓練や現場を通して後輩にどんどん伝え,隊で共有していこうと考えています。いつ,どんなときでも,重症の傷病者や活動に苦慮する現場に遭遇すれば,迅速に対応し,最善の活動ができるよう精進していきたいと思います。後輩や自分の成長だけでなく,隊の活動の質を確実に向上させるべく,市民のためにこれからも努力を重ねていきたいです。


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