スマートフォン表示用の情報をスキップ

京都市消防局

言語選択を表示する

検索を表示する

スマートフォン表示用の情報をスキップ

積載型静電気拡散性オイルパンの開発について

ページ番号182933

2015年7月1日



 車両からの燃料の流出事故に出動したときのことです。私は,倉庫に保管していた燃焼実験用の金属製オイルパンを救助工作車に積載し,現場へ急行しました。

 燃焼実験用の金属製オイルパンはサイズが大きいため,収納ボックスに入れることができず,救助工作車の屋根に積載し,落下防止のため固定しなければなりませんでした。

 現場に到着し,事故を起こした車両から流れ出している燃料の拡散を防止するため,オイルパンを車両の下に差し込む必要がありました。しかし,このオイルパンは金属製で重く,事故車両の下での取り回しが非常に困難でした。さらに,オイルパンは金属製であるため,引きずったり,車両の金属部分に接触することにより火花発生の危険があり,二次災害を防止するために慎重な活動を余儀なくされました。

 このような事案は消防職員の多くが経験しています。しかし,「仕方がない」と考えるのではなく,より迅速に対応し,より安全に活動するために何かいい方法はないものかという素朴な疑問を部隊で検討したことが,本研究のきっかけとなりました。


 従来のオイルパンは,1.車両に常時積載できない,2.取扱いが困難,3.火花発生のリスクという3つの問題点があります。そこで,本研究では次の性能を有するものを目標に,試作品を作成することとしました。

 ⑴ 常時積載できる

 積載品の多い緊急車両にも常時積載できるものとするため,積載時はサイズダウンできること。さらに,車両にコンパクトに収納された状態から迅速に展開し,使用できること。

 ⑵ 取扱いが容易

 軽量で,車両下部といった狭い場所においても取り扱いやすく,流出物が漏れにくい形状のものであること。

 ⑶ 火花が発生しない

 国際電気標準化会議(IEC)によると,表面抵抗値が1×105≦Rs<1×1011Ωの場合,帯電しにくく,かつ,電荷を緩やかに拡散させる材料(静電気拡散性材料)としています。そこで,新型のオイルパンについては,静電気拡散性を有する素材を用いて製作すること。


 外側に折り畳み式コンテナを用いるとともに,内側には,漏水防止のためにシートを折り畳んだ状態で収納し,迅速にオイルパン状に展開できるものを試作しました。



 「2 課題等」で設定した目標性能について,次のとおり検証した結果,すべての項目において課題をクリアしました。

 ⑴ 積載性

 積載の可否は,車両ごとに仕様が異なるため,一概には判断できませんが,積載器材が非常に多い,現状の救助工作車に積載したところ,場所を選ぶことなく,すべての積載箇所に収納が可能でした。


 したがって,新型のオイルパンは,当局のあらゆる緊急車両に常時積載可能と考えられます。さらに,収納時は非常にコンパクトであるため,複数の試作オイルパンの積載が可能であります。多量の流出物への対応及び複数個所からの流出事案にも対応することができます。

 ⑵ 取扱性

 試作品の重量は3.9kgと従来のものに比べて約1/2以下の重さとなっています。軽量であることから,使用者が屈んだ状態で車両下部に抜き差しする作業も容易に行うことができます。


 内側に漏水防止シートを使用しているため,抜き差しする際の流出物の液面の動揺を軽減することができます。

 新型のオイルパンは,あらゆる面において,従来のオイルパンより格段に取扱いやすさが向上しています。

 ⑶ 火花発生のリスク

 ア 通電による火花発生について

 試作品は,可動域の一部を除き,非金属製の静電気拡散性の素材を使用しているため,静電気を帯電した人体やバッテリー等が接触した場合であっても,急激な放電は起こりにくいものとなっています。

 イ 静電気の発生について

 検証実験では,オイルパンに約10ℓのガソリンを満たした状態で横に10cm程度ゆらす作業を50回繰り返して,静電気の発生を測定しました。


 実験の結果,静電気測定計は0.01kVを示しており,ほぼ帯電していないことがわかりました。

 従来型の金属(ステンレス製)オイルパン及び絶縁性のポリプロピレンコンテナ及びポリエチレンシートを用いて,比較実験をした結果を表1「ガソリンとオイルパンによる静電気発生実験」にまとめています。

 比較実験からも,新型のオイルパンは,火花発生のリスクを限りなくゼロにしたものといえます。



 問題意識を持って日々の業務に取り組むことで,様々な問題が浮かんできます。本試作品は,まだ,耐久性などに検証の余地が残るものの,従来のオイルパンで生じていた問題を解決し,迅速で確実な現場対応が可能になると考えられます。今後も「もっとよい方法は? もっと安全にするためにはどうすればよいのか?」という姿勢を大切にしていきたいと思います。

 ※ 当研究は,京都市消防局から「平成27年度消防防災科学技術賞」に応募しています。応募に当たり,平成26年度に開催した第55回 消防研究発表会時より更に研究が進められ,メンバーも一部変更しています。

  • 目次

お問い合わせ先

京都市 消防局消防学校教育管理課

電話:075-682-0119

ファックス:075-671-1195