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京都市消防局

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平成27年6月号 わが社の防火防災自慢

ページ番号182589

2015年6月1日



 原稿を書いているこの時期,病院の周りはもみじの若葉で鮮やかな黄緑色に彩られます。個人的には,桜の花よりこのやさしい緑が気に入っています。私が勤務する医療法人三幸会 北山病院は,左京区岩倉の自然豊かな山の麓に位置しています。この岩倉は「日本のゲール」と呼ばれ,日本の精神科医療発祥の地とされていますが,心の病との関係はさらに古く,救いを求めて大雲寺にお参りする方々を宿泊させた「茶屋」の歴史は,寛政8年(1796年)にまで遡ることができます。その中の一つ,文化12年(1815年)に開業した若狭屋という茶屋(後の城守保養所)の各室を病室にし,昭和29年8月に北山病院は開設されました。当初の病床数は37床でありましたが,現在は448床の精神病床に介護老人保健施設100床を併設する規模となっています。傾斜地である敷地内には,病棟のある建物が4棟あり,山の麓に位置するという点で防災上の心配事を日々抱えている状況です。



 皆様も感じておられると思いますが,ここ数年,降り始めから短時間に大量の雨が降ることが多くなっているように思います。山肌にしみ込む間もなく,一気に谷筋に雨水が集まります。10年以上前になりますが,滝に打たれて心の病を治療したと言われている病院敷地内の「不動の滝」が,瞬く間に茶色い水で覆われ,柵に谷筋の枝や落ち葉が詰まり,あふれてしまったため,最も低いところにある建物の1階の一部が床上浸水してしまうことがありました。

 その後しばらくは,こまめに谷筋の枝や落ち葉を撤去することで対応できていたのですが,ここ数年は,山肌からそれらを運んでくるほどの大量の雨のため,日頃のこまめな掃除に加えて,緊急時に短時間で複数の職員を召集し,枝や落ち葉を撤去する必要性を感じるようになりました。

 そこで,平成23年度から「大雨土砂災害行動計画」を策定し,更新を重ね,運用しています。「病院周辺がどのような状況になったら自分は何をするのか」を各職員が一目で分かるように,A4用紙1枚にまとめた初期対応の行動計画です。計画上で役割が定められた職員・各部署の所属長に説明し,全ての職員に更新の都度,周知してもらいます。この行動計画を使った訓練は必要ありません。なぜなら,毎年,以下のような実際に運用する場面に複数回,遭遇するからです。

 行動計画上,夜間の集中豪雨の場合は,気象庁から「大雨警報」が発令され,普段は水がほとんどない谷筋に山の水が流れ込み,「不動の滝」が増水すると「警戒レベル2」の状態となります。365日昼夜関係なく,初期対応に当たる事務職員から事務長に連絡が入ります。私はこの時点で,病院の様子を確認しに行き,「きょうと危機管理WEB」や「気象庁高解像度降水ナウキャスト」などを見ながら,今後の雨の状況を予測します。必要に応じて,行動計画上定めてある近隣に住む職員を一次召集し,複数で警戒に当たります。

 さらに雨が降り続き,土砂災害警戒情報が出されると「警戒レベル3」の状況となり,災害対策本部を設置します。災害対策本部メンバーを召集し,15名ほどの職員で敷地の周りの山が崩れないか,警戒します。必要に応じて,病棟内・病棟間の建物内垂直避難を行うことを想定していますが,幸い,今までは避難を行うまでの経験はありません。




 病院という組織は,医師・看護師・薬剤師・作業療法士・管理栄養士等のプロ集団で構成されています。それぞれ責任を持って診療に当たる方々ですから,診療以外の管理運営上の場面で,時として意見が噛み合わないこともあります。同じ事柄でも立場が違えばいくつもの見方がありますから,当然のことです。病院はまとまりにくい要素をもった組織でもあると思います。

 しかし,大雨土砂災害行動計画を運用するようになってから,管理運営上の場面でも組織のまとまりが良くなったと感じます。おそらく,緊急時の指揮命令系統が院長をトップとする普段の管理運営体制とほぼ同じものですので,普段の管理運営上の指示命令も素早く全職員に伝わるようになったからではないかと思っています。また,各職員の意識も自分の役割を普段から意識して業務に当たるようになっていると思います。「職種の垣根を越え,力を合わせて,目の前の危機に立ち向かう」,「常に今の自分の役割を意識し,行動する」ことが大雨土砂災害行動計画のありがたい効果となりました。

 地震による災害ではどうでしょう? 大雨による災害に関しては,事前にある程度予測できることから対応可能な面が多いのですが,地震による災害はそうはいきません。当院でも「地震災害時行動計画」を策定し,初期対応を周知していますが,実際に避難直前まで運用したことはありません。こちらは定期的な訓練が必要です。しかし,予測できない地震災害の場面でも,大雨土砂災害行動計画の運用で鍛えられた防災意識を持つ職員が複数いることが病院の宝となることは間違いありません。「予測できない・計画どおりにいかない」。このようなときにこそ,心強い仲間たちだと思います。


 昨年,実際にあった職員の防災意識を実感したエピソードを紹介して,結びにしたいと思います。

 ある夏の深夜,私は事務当直から「警戒レベル2」の緊急連絡を受け,病院に行き,「きょうと危機管理WEB」を見ていると,災害対策本部メンバーの看護職員が心配して病院に電話をしてきました。事務当直が聞いた内容は,「お滝の様子はどうか? 京都府からの防災メールを見たが,左京区に土砂災害警戒情報が出ている。なぜ,対策本部を設置する連絡がないのか? 事務長は何をしているのか?」というものでした。すぐ電話を代わり,理由を説明しました。やりとりはこんな感じです。

 「きょうと危機管理WEBを開いて,下の方にある土砂災害警戒情報をクリックしてくれへんか。京都・亀岡をクリックすると,左京区の岩倉周辺はまだ大丈夫やろ。だいたい大原の北の方から赤くなることが多いんや。」

 「本当ですね。岩倉周辺は赤くなっていません。良かったです。失礼しました。」

 「とんでもない。電話してくれてありがとう。召集するかもしれへんし,今のうち休んでおいてや。」

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