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京都市消防局

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平成28年11月号 あの日あの頃

ページ番号206770

2016年11月1日



 早いもので私の消防人生もあと1年半となりました。今までは尊敬する上司の方や先輩たちを見送っていましたが,いつの間にか私もそんな年齢に近付きつつあります。先日,過去の災害現場活動の資料を整理していたら,懐かしいノートが出てきましたのでいくつか事例を紹介します。


 今から30年近く前の私が救助隊員となり3年目の夏のことです。U区の川の中州でキャンプをしていた家族が,夕方から物凄い豪雨で川が増水し,中州に取り残されたとの通報で出動しました。

  現場は,山奥の渓流で,日も暮れてようやく到着するとゴーっという地響きを立て流れる川の向こうに,水没した中州で助けを求める家族の姿が見えました。

 辺りは暗く投光器で照らすと,もやがかかって,蒸し暑くて異様な雰囲気でした。

 今なら,「急流救助」の活動要領がありますが,当時はそんなものはありません。救命索発射銃を使いたかったのですが,立木が邪魔になって断念し,結局,隊長が激流を泳いで渡り,ロープを展張し,救助ボートで往復して家族を全員無事に救出しました。

 最初に川を渡った隊長は,斜めに横断したにも関わらず,20m以上も流され,2番目に川を渡った私は,川底を音をたてて流れる岩石の音に恐怖を感じました。

 その後の疲労感は相当なもので,今から思えばよく無事に救出できたものだと思います。


  消防士長に昇任して救助隊の副隊長になって2年目の年末に,S区で深夜に民家火災が発生しました。先着の消防隊に続き現場到着すると二階から炎と黒煙が噴出していました。

 聞き込みのため先行した私は,正面から二階へ2つ折りはしごを架けて登りかけている消防隊長を見つけました。すぐに声を掛け「大丈夫ですか,そこから中へ入るのですか。」,するとその隊長は「誰かいる。」と言って窓の中へ上半身を乗り出し,内部を確認しました。

 私は,救助隊長に直ぐに「802発見」と報告し,救出活動に加わりました。はしごを登り,二人で何とか窓枠に引き上げて,私が抱えて降ろそうとしたところに後着の隊員が来てくれたので,地上へ救出することができました。

 最初の男性を救出した際に,何かに触れた感じがあったので,もう一度内部確認するともう一人男性が倒れていました。「あと一人いるぞ。」と叫び,消防隊長に代わって上に上がってきたもう一人の副隊長と二人で持ち上げようとしましたが,要救助者は重くて,パジャマ姿でしたので服が掴みにくく苦労しましたが,何とか窓の外へ出したところ,当時の大隊長(今の指揮隊長)が人混みの中から走り出してきて「俺に任せろ。」と数名の隊員たちと要救助者を受け取ってくれました。活動後,チタン製の2つ折りはしごを確認すると曲がっていました。

 強烈な熱気と激しい黒煙の中で救出した2名の男性は,ともに90キロを超える体格であったそうです。残念ながら二人目の要救助者であった息子さんは亡くなられたそうです。

 就寝中に火災に気付き,窓際まで逃げて窓に手が掛かったところで,濃煙熱気に巻きこまれてしまったのでしょう。先着の消防隊長は,冬なのに窓が少し開いていることに気が付き,不審に思い,はしごを架けて中を確認したところ要救助者を発見したとのことで,わずかな変化を見逃さない優れた方でした。


 

 

   救助隊長となってからのことです。F区の畑内で高齢男性が小型の耕運機に巻き込まれた事故がありました。 現場に到着した我々を待っていたのは,想像を絶する状況でした。

 畑内で高齢男性があぐらをかくような感じで座っており,その上に耕運機が上下反対で覆い被さっていました。そして,耕運機の鎌状の刃が右胸部に根本近くまで刺さっていました。

 さらに,大腿部にも貫通する刃が2本もあり,上半身と下半身が刃のため右方向へ捻じれた状態でした。それでも要救助者の意識は,ほぼ清明で,「痛い。」と苦痛を訴えておられました。

 どこから手をつけるべきか,どうすればいいのか。必死で部下たちと要救助者の状態を観察し,活動方針を決定しました。

 まず,安全管理として,耕運機のエンジンを停止させ,素手でエンジンと地面を触れてアースを行い静電気を除去,消火器と近くにあった水道ホースで消火準備をしました。

 そして,救助方法を順位決定です。

 まず,要救助者に刺さっている3本の刃のうち,致命傷になりかねない胸部に刺さっている刃を切断し,上半身を解放する。

 切断する際に,振動を抑えるためにセーバーソーを使用する。

 最後に,残りの刺さっている2本の刃については,要救助者と耕運機の刃の取付け部に分解工具が入らないため,回転軸そのものを本体から取り外し,刃がそのまま刺さった状態で病院へ搬送するよう判断しました。

 矢継ぎ早に活動順位の決定をし,救助活動に着手しました。

 胸部に刺さった刃の切断には,潤滑油を切断面に塗布し,また身体に刺さった刃を両手でしっかり保持し,セーバーソーの振動が要救助者に伝わらないように配慮し,胸部の刃を切断,その後大腿部に刺さっている残りの2本の刃が取り付けられている回転軸を取り外し,要救助者は病院へ搬送されました。

 その後,要救助者は搬送された病院で,7時間に及ぶ大手術の末に無事に回復され,29日後にご自分で歩いて退院されたとのことです。

  今までに数多くの災害現場に出動してきました。幸いなことに軽い打撲や擦り傷はあったものの負傷せずに,また隊員たちも負傷することなくやってこれました。これはみんなの高い意識のお蔭であると感謝しています。

 そんな中で,災害現場活動において最も重要なものは「情報」であると考えています。「情報」と言っても大きく分けて五感で感じることと,聞き込みによって教えてもらうことがあり,それらをふるいにかけて自分で判断すること。これが肝心なのではないかと考えています。

 消防の業務も阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件で大きく変わりました。これからも変わっていくでしょう,しかし,「客観的な事実に基づく合理的な判断」という概念は,これからも変わることがないのではと考えています。

 ありがとうございました。


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