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門川市長記者会見(2008年7月30日)

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2023年4月12日

平成20年7月30日門川市長記者会見

「京都祇園祭の山鉾行事」が「ユネスコ無形文化遺産」登録に向けた国内提案候補に決定

門川市長

歴史と伝統のまち,芸術,文化のまち,あるいは宗教都市,様々な都市の特性を持つ京都市において,私は何といってもそれを支える地域力,人間力等が京都のまちを活力に満ちたものにしており,その象徴が,京都の祇園祭ではないかと感じております。
   この度,「京都祇園祭の山鉾行事」が,文化庁により,ユネスコの無形文化遺産登録の第1回国内候補に選ばれました。誠にうれしく,京都人として誇りに思うところであります。
   深見茂理事長共々に,会見させていただきます。

 既に世界文化遺産に登録されております「古都京都の文化財」とともに,国際的な歴史都市・京都の価値,都市格を一層高めることにもつながる大変意義深いことであり,147万京都市民とともに喜びたいと思います。
  千年の歴史を誇る祇園祭,しかしこの祇園祭は,過去には,1467年から77年の間に起った応仁の乱により山鉾がほとんど消失し,存亡の危機を迎えたことがありました。また,昭和18年から21年の戦時中・戦後の混乱期にも中止のやむなきに至ることもございましたが,その都度見事に復活してまいりました。

  近年では,昭和54年に綾傘鉾が,昭和56年には蟷螂山が,昭和60年には四条傘鉾が順次再興され,現在,32基の山鉾が巡行されるようになっております。このことは,正に町中(ちょうじゅう)と呼ばれる地域の皆様の熱意,心意気,さらには幅広い京都市民の皆様のご支援によるものにほかなりません。
  今なお,この伝統を大切に守り続けておられます深見理事長をはじめ,山鉾連合会の皆様,そして多くの市民の皆様,経済界の皆様,それらの方々に心から敬意を表します。
  このように祇園祭は,1200年を超える悠久の歴史,そして伝統が息づきながらも,147万人の人々がいきいきと暮らし,常に発展し続けるまち京都の象徴であり,市民の誇りであります。今回,祇園祭をユネスコ無形文化遺産登録の国内候補に選定いただきました,文化庁ほか関係者の皆様に対しまして感謝申し上げたいと思います。

  また私は,この祇園祭の山鉾行事は,京都はもとより,日本のあらゆる地域に根ざした伝統行事,祭りの象徴であり,それらを代表して世界無形文化遺産の候補になったと考えております。
  そういう意味で,規模の小さなものからあまり知られていないものまで,京都に伝わるあらゆる祭り,伝統行事,文化行事,つまりは,先人たちの願い,祈り,地域の力によって伝わってきたものを全て大切にし,次の世代に伝えていく。そうした契機にしてまいりたいと考えています。
  「京都祇園祭の山鉾行事」のユネスコ無形文化遺産登録を大きな契機として,京都が有する優れた文化力,地域力,人間力を世界に発信していきたいと思っています。

  そのため,京都市では,本年5月の肉付補正予算に「祇園祭」世界無形文化遺産登録準備費として2900万円を計上するなど,総額4200万円の費用をかけて,ユネスコへの提案書提出に必要な祭りの映像記録などを山鉾連合会の皆様,保存会の皆様と作成してまいりました。
  引き続き,山鉾連合会はじめ関係の皆様方と緊密に連携して,「京都祇園祭の山鉾行事」が,ユネスコ無形文化遺産に登録されるように,全力を傾注してまいりたい。そのように思っております。
   私からは,以上です。

深見理事長

私は,何よりもまず,京都市長に御礼を申し上げねばならないと思います。

ユネスコ無形文化遺産への登録申請を受けようというこの企画は,数年も前から温めてきたものでございます。

具体的には,祇園祭は千年を超える歴史を持っているがために,非常にその資料や文献が膨大であり,文化庁の要請に応え得るような資料を整備するために,多くの費用と時間が掛かります。これにつきましては,とりわけ京都市からの補助金を頂戴しますとともに,京都市の専門家の助力を借りまして,昨年の3月から着手しました。

しかしながら,文化庁の決定が,国際機関の募集要項の決定が遅れたこともあって,遅々として進まず,今年に入りましても未だその目途がつかない中にありましたが,京都市におかれましては,2900万円という資料収集整備のための予算を,祇園祭が国家の候補として選定されるかどうかも明確でないにも関わらず,先取りして御決定されました。いざ決定という時に,まずほぼ遺漏なく準備に掛かれる状態になりましたことは,ひとえに京都市のお陰であると思います。

先ほどお話がありましたように,祇園祭というのは京都の祭りであるのみならず,これは歴史的にも証明されていることですが,千年以上前に京都でこのような祇園祭の風流が始まったときに,見学に来た全国の人々が非常な感銘を受けて,自分たちのまちでもこれに似た祭りをしようではないかというところから,今日のような祭りの形態が全国で広まったとされております。私はかねてから,もし祭りという民俗行事から世界無形文化遺産が選ばれるのならば,「祇園祭がまず第一号の候補として指定されなければならない。」という自信は持っていました。しかしながら,長い歴史があるだけに準備に多大な手数と費用が掛かるということで,心配していましたが,この一年半,京都市のお陰を持ちまして,準備することができました。

私が,祇園祭を世界無形文化遺産登録に,何としても立候補したいと思いましたのは,既に,本年の「くじ取り式」でも申し上げましたが,現在でこそ祇園祭は各方面の御支持や御支援を仰いで絢爛豪華に巡行致しておりますが,祭りは歴史的に見ますと何らかの政治的,あるいは社会的な変動が襲ってきますとあっという間にその激流に飲み込まれるものであるからです。これは産業などとは違うところです。

一番の典型が,東京の祭り,江戸の祭りです。江戸というまちは,「祭礼の都」とさえ称された非常に祭りの盛んなまちで,三社(さんじゃ)や神田の辺りを含めますと全部で50を超える屋台や山車(だし)が存在致しました。ところが今日それらは,ことごとく消滅しており,残っていますのは神輿(みこし)の祭りだけです。

その理由としましては,まず,東京都は首都として発展するための都市整備,近代化,それに伴う架空配線や市電の敷設などにとりまして,山車や屋台は邪魔になるということで排除されたことが一つ。それからもう一つは,江戸の祭りは喧嘩祭と称されて,簡単に言えば,徳川幕府の祭りです。そして,詳細は存じませんが,屋台や山車は江戸城に参入することが許されていた。つまり,徳川の将軍に御挨拶することが許されていたということです。明治政府には徳川幕府の影響力を極力排除しようという方針がございましたから,江戸の祭りは排除された。社会的・政治的に大きな変動が襲ってくると,祭りというものはあっという間に消えてしまうという証拠です。

これを振り返って,京都の歴史に当てはめますと,ここ100年の間に,2回,類似の危機がございました。その一つが約100年前,これも東京と同じで,架空配線や市電の敷設などを原因とするいわば「道路障害が生じたから,山鉾巡行は中止していただきたい。」という命令が,文書では残ってはいないのですが,どうも口頭で京都府知事から,明治天皇がお隠れになった明治45年に出ているのです。これは社会的大変動の一つの例です。これにつきましては,地元の新聞を中心とする反対キャンペーンが京都市民の間で起りましたことにより,事なきを得ました。そこが東京と違うところで,私は,もし京都に首都が残っていれば,恐らく官僚の勢力は祇園祭を抹殺していただろうと思うのですが,幸か不幸か,それからは免れることができました。

もう一つは,先ほどもお話がありましたが,祇園祭が4年間ほど中止になりました敗戦の前後です。このときは,「国家神道(こっかしんとう)」というものを占領軍が禁止致しました。八坂神社のお祭である祇園祭の山鉾も,いずれ没収されるのではないかという心配が当時の市民達の間に起こり,密かに集まっては,どのように懸装品を隠そうとか,今ある町家をどのように処分すればよいかを真剣に考えておりました。これがいわば政治的苦難であります。これも幸いなことに,いわば民俗と神社とは直接関係のない,市民の行事であるということで昭和22年にかろうじて復活した訳であります。

このように,ここ100年を見ましても,東京の祭りと同じように,祭りというものは,政治的・社会的危機に瀕しますと,あっというまに流される恐れがあります。こういったことを阻止するためには常に祇園祭のステータスを高めておく必要があります。その方法の 一つとして,この「京都祇園祭の山鉾行事」が,ユネスコの無形文化遺産に申請することが許され,もしもこれが成功致しますと,国際的な監視下に入ることができます。日本は国際的な力に弱いですから,国際的な人々の注視を浴び,それによって日本は祇園祭を保護し,支持・支援する義務を負うことになる。これがどの程度の実効力が上がるかは問題でなく,国際的にステータスを高めることによって,将来,何らかの政治的・社会的な変動があっても祇園祭が踏みとどまることのできる一本の柱に,支柱にしたいものだと,これが,私が最初に考えておりましたことでございます。それに加えまして,先ほど市長が話されましたように,京都の活性化,京都の市民力・文化力のますますの高揚,そういうものの一助になれば,非常に幸いで,私どももその方向で努力しなければならないと考えております。

門川市長

理事長の百年,千年単位の祭りを守っていかなくてはならない町衆の心意気みたいなものを改めて感じます。少し補足いたしますと,祇園祭にはいろんな起源が伝わっております。1100年を超える昔,当時日本に66の国がありました。都市化が少しずつ進むにつれ,疫病が流行りだしましたので,66の国の数の鉾を建てて,疫病退散を祈願しました。

 京都の町衆が日本全国の国々の平安を祈って立ち上がられた。今で言いますと,祇園祭は世界の平和を祈る祭りであり,京都の町衆の行動であります。

 疫病から人々を守ろうということを祈って立ち上がったものです。

今日,新型のSARSや鳥インフルエンザなどの問題が,新たに発生しており,同時に生物学的な病だけではなく,社会病理現象である環境破壊をはじめ格差の問題などの大きな問題が人々の中に,また社会の中に生じております。

 そうした現在の病あるいは社会病理現象の解消を祈りつつ,町衆が立ち上がり,人々の平安のために,幸せのために行動しようというエネルギーが,祇園祭にあるのではないかと感じています。祭りというものはそもそも,それに象徴されているのではないか。地域のコミュニティーを大切に,人々が絆を強めて行動する。祭りの意義は非常に大きいと思っていますし,祇園祭の伝統というものは,その象徴ではないかと思います。

 共々にそうしたことを大切にしていきたいと改めて感じております。

 

質疑応答(要旨)

(国内提案候補に選ばれた感想と今後の意気込み)

記者

「京都祇園祭の山鉾行事」が提案候補に選ばれた感想は。また,今後の意気込みは。

市長

 祭りという行事は,それぞれの地域において,「うちの祭りが一番立派だ。うちの祭りが,一番伝統がある。」と,そういう心意気でつながってきているものであり,第一号を決めるということは,文化庁もなかなかたいへんであったと思います。ただ,私どもは内容的に,第一号は京都の祇園祭の山鉾行事をおいて他にないと確信して,山鉾連合会をはじめ多くの皆さんとともに,着実な準備を進めてまいりました。文化庁において候補に決定していただいたことを,非常にありがたく思っています。世界文化遺産の登録には難しい条件があるようですが,まずこの世界無形文化遺産は,我が国の候補に決定していただくことが最も大事であり,心から喜んでおります。

今,京都が,全国から,世界から大変に注目され,この5年間で外国人宿泊観光客数は2倍を超えています。こうした時期に,更に飛躍する大きな材料を与えていただいたと思っています。それと同時に,147万人の京都市民,子どもたちが,有名な素晴らしい祭りであるこの祇園祭の深み,ほんまもんの姿をしっかりと知っていただいているのかと思う。祇園祭の山鉾巡行そのものを見たことがあまりない京都の子どもたちもいますので,この機会にまずは,祇園祭の素晴らしさ,その精神を伝えていくための様々な取組を具体的に進めていきたい。そして,今後相談させていただきますが,先ほど深見理事長から話がありましたように,全国はもとより世界に発信していく具体的な仕組みを作っていきたいと考えています。

理事長

市長が仰いましたとおり,祇園祭は,絢爛豪華であるわりには,その地区以外の京都市民にはあまり関心がなく,御覧になる方が少ないということは,事実であります。これは,祇園祭が歴史的に,特に戦国時代以降,町中(ちょうじゅう)と呼ばれる旦那衆が山鉾を所有しており,その一握りの旦那衆がお金を出し,囃子方,曳(ひき)手,舁(かき)手,音頭取りなどを雇い入れ,請け負わせてやっていました。つまり,請負制であって,「祭りをやりますからみんな来てください」という参加型ではないわけです。そこに,非常に封建的,閉鎖的ともいえる組織の性格がございます。これがいろいろな点で影響しているのですが,その組織のおかげで千年続いてきています。 これが参加型の祭りの場合,御堂筋パレードにも見られるように,10年以上もてば良い方で,大体5,6年でポシャってしまう。祇園祭は,何があっても祭りを運営するという一握りの人間が,どんなに貧弱なものになっても維持していこうという決意で,連綿と伝え,そしてそこから請け負った人たちが,実際に祭りをやってまいりました。

したがいまして,祇園祭を運営しているのは,私が責任者である祇園祭山鉾連合会というより,いわば32箇町の山鉾の独立した組織であります。近辺のいろいろな地方の祭りを御覧いただきましたらおわかりになると思いますが,祭りの本部は,例えば市役所や町役場といったところに大体あるものです。そして会長は,市長とか町長がやっておられる。これが,地方の多くの祭りにおける普通の形態です。祇園祭はそうではなく,財団法人祇園祭山鉾連合会が主催しているという形を取っております。例えば,京都市が何らかの形で協力をくださるということになり,「そうですか。では,私どもは財団法人祇園祭山鉾連合会を解散して,市長を会長に。」となったときには,祇園祭はすでに崩壊していると思うのです。あるいは,32箇町が山鉾連合会の私に,「もう我々は何も考えないし,言われたとおりにするから,祭りの仕方を決めろ。」と言い出したら,32箇町も崩壊の角に立っているのです。32箇町の山鉾の保存会それぞれは皆,「祇園祭は俺がやっているのだ。」という意気込みでやってくれています。それを束ねる山鉾連合会というのは,いわばもうサンドバックみたいなもので,32箇町から殴り倒され,「あれもいかん,これもいかん,じゃあまあそう言わずにこうやってくれ。」と,皆さんの意見を聴きながら調整し,和解を求め,今日巡行しています。このような姿は,文化財としてユネスコに申請するに当たって,特に強調したいし,決して崩してはならないと思うわけです。先ほど市長がどのような協同の取組ができるか模索しようと仰られたのは,おそらくそのへんに御配慮いただいてのことであって,京都市から,「こうしなさい,ああしなさい。」といったようなことは言わないという意味で仰られたのだと思います。

私どもは,今回候補になりましたことに気を緩めることなく,そして,独立自営の精神に立って,今後も進んでいきたいと考えております。候補になったことによって,こちらの態度が変わるということは何らございません。ただ,更に気を引き締めて,各界の御意見や御助言を仰ぎながら進めていきたいと思っている次第です

(無形文化遺産認定に向けた京都市の予算について)

記者

今年度は2900万円を投じて様々な資料を作成されるということだが,この具体的な資料の中身,どういったことを今のところ考えているか。

この資料の作成を巡って文化庁のほうから具体的に京都市に対してこれこれこういうものを作って欲しいというような指示・連絡があったか。

市長

文化庁と緊密な連携の下,映像や歴史資料等を作成していくこととしております。鉾の目方を量るなど,今までにない取組もしております。

理事長

先程申しましたように,祇園祭の資料は,文献,映像,その他非常に膨大なものになります。例えば,過去百年間の祇園祭について,地元の新聞社の掲載記事を収集するだけで数十万円かかり,祇園祭の古い写真を集めて,整理するだけでも何十万円というお金がかかります。さらに,各山鉾町の飾り付けや,宵山三日間,あるいは鉾が立ってから以降の行事などを映像や記録として収集するため,複数のクルーが,カメラや撮影機を用い,資料班を結成して,ここ一年半にわたって作業をしていただきました。一部献身的なボランティアの方もおられますが,こうした作業にもまた費用がかかります。それから,京都府,京都市のいろんな所に残存しております祇園祭に関する資料についても,全て収集しなければなりません。これらにも費用がかかります。

また,各山鉾の構造や使用している木材,幅,長さの測定を専門家が行う,これも資料収集の中に入っています。この資料収集の中で唯一欠けていたのが,重量でした。山鉾の重量測定は奇をてらったものという非難があります。しかし,唯一欠けていた資料ということに加え,鉾は約12トン,山は約1.2トンと伝承されていたので,それが果たして本当なのかを知る必要がありました。例えば,道路の陥没といった事態が起こった時に,一体何トンある特殊車両(山鉾)を動かしていたのかと,訴訟などに問われたときに返答が出来ないということは,大変な損失になります。文化財として重量を知りたい,ということと併せ,防衛的な意味においても知っておきたいということです。もう一つ,郭巨山が約1.2トンと言われていたのが,実際はその半分位しかなかった。郭巨山の車輪は,おそらく1.2トンという伝承に基づいて作られたと思います。それが実際にはその半分位の重さであることが判れば,45年程経過した古い車輪を新調する際に,もっと洒落た,新しい材料を使用した軽い車輪に交換でき,補修においても有効となります。このような点からも,重量測定を行った次第です。

まとめると,各山鉾の構造の測定,映像資料の収集,新聞記事の収集,宵山における各山鉾行事の資料収集,各町内の宵山飾りの実態調査に,各方面の学者やボランティア,学生さんが大量に動員されました。そうしたことに費用がかかったということです。

(観光への影響について)

記者

 効果が現れるとすれば,やはり観光ではないかと思うが,観光にどういった効果が現れるのか,その見通しについてお聞きしたい。

市長 

京都市への観光客数は,5000万人構想を今年達成できるものと確信しております。そこで,数を追い求めていく観光,見る観光から,触れる観光へ,ほんまもんを知り,感じていただく観光への大きな転機にしていきたいと考えています。

京都市役所でも,7月16・17日,浴衣で出勤しようという取組をしましたが,祇園祭に象徴される京都の伝統を,京都の人間が感じ,触れて,更にそれを発信することにより,全国の方々に影響を与え,和の文化を大切にしていくような,例えば,お茶,お花,着物や清水焼,あるいは様々な織物などを深く知っていただく機会にしていきたいと思っています。

市長記者会見資料

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