サキョウ見聞録 その8 花脊の三本杉
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2024年12月3日
花脊の三本杉をご存じでしょうか?
京都市左京区花脊(はなせ)にある「花脊の三本杉」は、日本一背の高い木です。
この木は三本杉という名前のとおり、3本の杉の木が根元部分でくっついてそれぞれが天に向かって伸びているという珍しい形をしていて、しかもそのうちの2本の高さが日本第1位、第2位で、もう1本が第5位という。
「花脊に住んでるのに三本杉を見たことないやなんて、あんた、もぐりやろ」と言われてはや1年半。。。
そんな三本杉は大悲山峰定寺(だいひざんぶじょうじ)の御神木として古くから信仰を集めている巨大樹。その足元まで行ってみましょう!
花脊の三本杉へ
ところどころ民家などが点在するぐねぐね道を抜けて、
有名な「美山荘」の前に。美山荘は120年もの歴史のある摘草料理の名店です。
大悲山峰定寺、そして三本杉はこの奥。
橋の向こうは大悲山峰定寺の仁王門。峰定寺は平安時代末期の1154年の創建。仁王門をくぐって400段余の石段を上った先にある本堂は、1350年頃に建てられた懸崖造りの仏堂です。断崖に臨んで建てられた清水寺の舞台のようなつくり。懸崖造りの建築としては日本最古と言われているそうです。
700年近く前にそのような建物が建てられたことに驚くばかりですが、写真に収めることはできません。
年に数度の峰定寺の入山可能日に、ぜひみなさまの目でご覧ください。
三本杉を目指して、大悲山峰定寺から山の方に上がっていく。今年は11月になっても暖かく、まだ紅葉とはいえない木々の色づき加減。
左の広場は9月17日に日本全国から100名を超える山伏が集い、峰定寺の本尊開帳採燈大護摩供(ほんぞんかいちょうさいとうおおごまぐ)が行われる場所です。
本尊開帳採燈大護摩供の写真。
護摩炊きから立ち上る煙が幻想的な雰囲気を醸し出しています。
そして杉木立の中を進んでいく。11月にしては暖かいがたまにまじるピリッとした冷たい空気に、木漏れ日のおかげで、なんともさわやかな朝の散歩。しっとりと水分を含んだ大気がみずみずしい気がします。
三本杉に続く林道への分岐。三本杉まであと0.7㎞。私たちは右に曲がって林道を三本杉に向かう。ではまっすぐ左に進んだら何があるのか。それは最後のお楽しみ。
先ほどの分岐からあと0.7㎞といいつつ、ほんとに0.7㎞なんかいな?というくらい長く感じる林道を登っていきます。
途中、根元から1メートルくらいの高さまで皮がはがれた木を見ました。「熊剥ぎ」といって、ツキノワグマが皮をはいで、皮の内側を食べてしまうのだそうです。形成層という、木が成長していくもととなる組織を削り取ってしまうので、熊剥ぎにあった木は成長できなくなり、枯れていきます。もちろん売り物にならなくなるので、林業被害です。
熊剥ぎがあるということは、近くをクマがうろついている可能性があるということです。おひとりで三本杉を目指すときは、クマの出没にご注意ください!
そして見えてきた巨大樹。これが三本杉なのか。写真下部に写っている人の大きさと比較してもとんでもない高さが分かります。
峰定寺の御神木、三本杉。
幹に注連縄が巻かれています。この写真では二本に見えますが、右の杉の後ろに三本目が隠れています。
樹齢は1000年~1200年と言われており、江戸時代中期の文献に既に「大木にして又類稀なり」と記されているくらいの巨大樹。
そびえたつ。
根元がくっついています。案内してくださった地元の方によると、これが一つの根っこから3本の杉が生えてきたのか、別々に生えた3本の杉がくっついたのかは分からないのだそうです。どちらが正しいのか、見てきた人はいないですからね~。
大きさへの感覚がおかしくなってしまいそうな高さ。
平成29年に林野庁が実施した調査において、東幹(写真右)が日本第一位の62.3m、北西幹(写真中央)が第二位の60.7m、西幹(写真左)が第五位の57.2mであることが判明したのだそうです。幹の外周はなんと6m以上!
高さはずっと35mくらいかな?と思われていたのが、レーザー等で測定して初めて実際の高さが分かったのだそう。巨大な木の高さを測るのは難しいのですね!
見上げて撮ったらこんな感じ。だんだん頭の中がバグってきた気がします。
周囲を山に守られた谷底にあるという特殊な立地によって、台風や雷から守られてきた、まさに奇跡の杉なんですね。私のような神仏にほとんど関心がない者にとっても、不思議な力があるように感じてしまうような、巨大樹でした。
分岐の先に見たものは(おまけ)
三本杉への旅は、いかがでしたか?ここから先は「おまけ」です。
さて、先ほどの林道との分岐まで戻ってきました。
分岐の真ん中の道なきところに、「右 三本杉」と彫られた石碑があります。奥に木造の鳥居があるのが見えますでしょうか。
私たちが三本杉に向けて歩いた林道ができるまでは、谷をつたうこの道が三本杉へのルートだったのだそうです。
そして、分岐を三本杉に向かう林道に向かわずに進んだ先に見えてくるのがこの景色。
樹木が伐採されて、生々しく山肌がむき出しになっています。
この大悲山国有林は、数十年前に、植林した樹木の未来の売却益を還元する内容の投資を募り、伐期になった現在、国によって伐採されているのだそうです。この景色は、峰定寺の本堂から真正面に見えます。
その時々の事情があってなされていることで、誰かがどうこうということではないと思います。が、樹木を全部伐採することで、土壌が弱り、雨などの際に土砂崩れなどが発生しやすくなりますし、せっかく植物が生えてきても、まだ新芽の段階でシカに食べられてしまう、という状況も想像されます。
山で起こっていることはいつかふもとの都市部にも影響を及ぼします。青空と木漏れ日の下で、ため息をつきました。
この記事を書いた人
矢野裕史(左京区役所 企画・山間地域振興課長)
左京区北部の花背在住の、左京区民歴20ウン年の自称左京ファン。冬は花背の山でシカを獲ったりしてます。