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サキョウ見聞録 その4 花脊八桝の登り窯(はなせやますののぼりがま)

ページ番号330338

2024年10月15日

花背八桝の登り窯


「登り窯の火は 人智を超える世界との対峙

 予測できないものの中に 驚くようなものが生まれる」

 

 左京区の北部山間地域の花脊にある旧八桝小学校の跡地に、陶芸家の近藤高弘外部サイトへリンクします先生による登り窯「念々洞・鹿龍窯(ろくりゅうがま)」が誕生しました。

 登り窯は、炉内を間仕切りし、傾斜状にすることで、薪をくべて燃焼した熱を利用して大量のやきものを焼成する窯。

 京都市教育委員会を通じて旧八桝小学校の跡地活用事業として提案され、伝統文化、産業の振興や地域活性化といった京都市の政策に沿うことから、校庭に造営されることとなったこの登り窯、日本にもうほとんどいない登り窯づくりの職人さん、大工の棟梁、地元花脊の建設事業者さんの手によって完成しました。煉瓦と土でできた独特のフォルム。


 「鹿龍窯」の鹿はシカ、つまり山を表し、龍は水を表すのだそうです。山紫水明の花背の登り窯ということで、花脊の猟師さんが獲った大鹿の角が掲げられていました。

 6月23日に行われた火入れ式には、100名を超える方たちが、それこそ海を越えて、山を越えて、集まられていました。近藤氏の手によって火が点けられ、これから3日間、燃やし続けるのだそうです。


近藤高弘先生による火入れ

 午後からは、地域の住民のみなさんも自由に見ることができる時間となっていて、多くの方が興味深そうに眺めておられました。私も息子を連れて再訪。

そして翌日

 近所に住む私は、昨日火入れされた登り窯がどのようになっているのかが気になりましたので、朝から鹿龍窯に向かいました。


 窯の火は燃え続けていました。窯に薪をくべていた方に伺うと、夜を徹して5分に1回くらい薪を足していたとのこと。これから1200℃まで温度を上げていくのだそうです。

 燃やしているのはアカマツの薪。アカマツでないとそこまで温度が上がらないのだそうで、薪を入れると煙突からブワーッと黒い煙が上がり、窯の中の温度が少し温度が下がるが、だんだん温度が上がり、煙は無色透明になっていく。

 花脊は湿度も高いので、薪が湿り気を帯びることがありますが、そのくすぶりもまたやきものに表情をつくる重要な要素とのことでした。


 建屋の外に黒いお茶碗がいくつか置かれていたので、近藤先生にお尋ねすると、これは「引き出し黒」と言って、釉薬をかけた陶器を高温で焼き、釉薬の金属分が溶けたところで窯から引き出して急速冷却することによって、黒い色が出るのだそうで、朝の7時から一つずつ取り出しているが、窯の温度がよく、いい色が出ているとのことでした。


 実際にお茶碗を取り出すところを見せてくださいました。


登り窯の焚口周辺はすさまじい熱気。取り出すのにも技術がいります。


 登り窯に薪をくべる燃焼室である胴木間(どうぎま)に入れているお茶碗を取り出します。

 窯はものすごい高温なので、火が落ち着いたタイミングで、長い挟み棒のような道具でつかみ、取り出す。赤く輝く高温のお茶碗を水の中に入れて急速冷却。


燃え盛る窯の中から取り出した赤く輝くお茶碗を水につける。


近藤高弘先生

 冷えるにつれてみるみるうちに黒くなっていくお茶碗。水に入れない場合もあるそうですが、確かに1000℃以上から急に28℃くらいの外気にさらしただけでも急速冷却には違いないと納得しました。

 茶碗に挟み棒で挟んだ跡がありましたが、これこそが引き出し黒を窯から引き出した証拠であると。

窯出し


 3日間焚き続けた窯の火を落とし、温度が100℃まで下がったとのことで、7月1日に、登り窯の一の間、二の間で焼かれていた作品を取り出されていました。

 続々と取り出されていく器たち。これだけの作品を作って、一気に焼く。登り窯に一度火を入れて焼くのは、数か月がかりのお仕事なのだそうです。

 取り出された器は、窯の中の温度の加減で、釉薬の溶け具合などが変わり、一つとして同じものがない。お茶碗から大きな壺まで納められていました。



 取り出されたお湯呑みには、側面に左を向いた小鹿、雲(龍=水を表す)、底にはシカの角が描かれていました。近藤先生によると、初窯で焼く際には、左を向いた馬を描いた作品を焼くのが縁起が良いというが、鹿龍窯の周囲にはシカが多いので、小鹿と雲を描くことで、シカが水で遊んでいることを表現したそうです。小鹿、つまり生まれたばかりの窯が、大きなシカに育つようにと。


 この窯について、今日作品を取り出すまではこの窯の「質」が分からず、不安だったが、十分な「質」やポテンシャルを持っていることが分かり安心した、ガスや電気ではない、薪ならではのゆらぎを感じることができた、と近藤先生。

 花脊はすばらしい自然と空気がある場所で、京都の文化であるやきものを花背で焼けるのはうれしいこと。品のあるもの、花脊らしいものを作っていきたいし、若い後継者をつくっていきたい。花脊から文化を発信していく。花脊でならできると思っている。

 10年では足りない、20年は元気でやっていきたい、と。

 

 少しずつ人口が減っている左京区の北部山間地域。

 それでも豊かな自然のあるこの地域に、近藤先生のように新しい希望を見出して来られる方、その熱意がきっかけになって足を運ばれる方がいらっしゃいます。

 この登り窯ができたことで、どのような新しい展開がうまれていくのか、そして花脊の風景がどのように変わっていくのか、とても楽しみです。

この記事を書いた人

矢野裕史(左京区役所 企画・山間地域振興課長)

左京区北部の花背在住の、左京区民歴20ウン年の自称左京ファン。冬は花背の山でシカを獲ったりしてます。


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