京都市交通事業審議会-中間報告(全文)
ページ番号7121
2012年4月11日
規制緩和実施下における市バス事業経営のあり方について(中間報告)
平成14年9月24日
京都市長 桝 本 賴兼 様
京都市交通事業審議会
会長 飯 田 恭 敬
規制緩和実施下における市バス事業経営のあり方について(中間報告)
本審議会は,平成14年6月24日市長から諮問のあった事項のうち,「1.市バス事業の果たすべき役割」について別紙のとおり報告する。
なお,「2.規制緩和への対応策」としての以下3点については引き続き調査検討していくことを申し添える。
- 「生活交通」(企業性を発揮しても赤字となる系統)の確保方策やサービス水準など,そのあり方
- 利用促進を図るための課題の抽出と解決の方向性
- 運営コスト削減の手法など,企業としての経済性を発揮する方策
目 次
- はじめに
- 1. 交通事業の現状 -市バス事業を中心として-
- (1)交通事業の沿革と市バスの位置づけ
- (2)市バス利用者の動向
- (3)市バスのサービスの現状
- (4)走行環境改善・定時性確保の取組
- (5)経営健全化の取組
- 2. 市営交通をとりまく時代潮流の変化
- (1)人口・経済の動向 -成熟型社会への転換-
- (2)少子・高齢化の進展 -高齢社会の到来-
- (3)環境問題への対応 -持続可能な「環境共生型都市」の構築-
- (4)乗合バス事業における規制緩和 -競争原理の導入と内部補助のしくみからの転換-
- 3. 市バス事業の今後の課題
- (1)公共交通サービスの提供を通じた都市活動の維持
- (2)市民のニーズに応じたモビリティの確保
- (3)京都市の目標とするまちづくりへの貢献
- (4)高齢者や移動制約者への対応
- (5)環境負荷の軽減
- 4. 市バスの果たすべき役割
- (1)公共交通優先型の交通体系の形成
- (2)市民生活や都市活動の支援
- (3)快適に観光できるサービスの提供
- (4)高齢者の社会活動参加の支援・促進
- (5)移動制約者への移動手段の提供における先導的役割
- (6)地球環境保全への寄与と先導的役割
- (7)「まちづくり」と一体となった交通サービスの提供
- (8)市民や利用者の声を反映させた事業の展開
- (9)市バスと地下鉄が一体となったネットワーク機能の発揮
- (10)「生活交通」(企業性を発揮しても赤字になる路線)の維持
- 5. 今後の検討内容と検討を進めるうえでの方向性
-規制緩和実施下における具体的な事業改善のための対応策について-- (1)生活交通のあり方
- (2)利用促進を図るための課題の抽出と解決の方向性
- (3)企業としての経済性を発揮する方策
- おわりに ~市バス事業がその役割をよりよく果たすために~
はじめに
鉄道(地下鉄,私鉄)および路線バス(市バス,民営バス)を中心に形成された京都市内の公共交通ネットワークは,市民生活や経済活動を支え,京都市の発展に貢献してきた。しかし,日常生活における自家用車利用の浸透,少子化や大学の郊外移転に伴う通学交通需要の減少などが原因となっていわゆるバス離れが進行し,バス利用者が減少している。今後は,少子化の進展により将来人口が減少局面を迎え,交通需要そのものが減少してバス利用者のさらなる減少が見込まれる。
一方で,高齢者人口が増加してくると,高齢者の移動におけるバスの役割が重要性を増してくると考えられ,バスサービスの改善が求められる。加えて,平成14年2月の改正道路運送法の施行に伴い,乗合バス事業への新規参入が自由化され,新規事業参入に対する既存バスネットワーク機能の維持や,これまで内部補助で維持されてきた不採算路線の運行に関する問題など,新たな検討課題が生じている。
こうしたなかで,交通局では,平成11年に「京都市交通事業経営健全化プログラム21」が策定され,人件費の削減などの経営改善計画が実施され,さらに,このような社会経済状況の変化を踏まえ新たな財政再建計画が検討されているが,市営交通事業は依然として厳しい財政状況が続くものと考えられる。
今後の公共交通を取り巻く環境がこれまで以上に厳しさを増すと考えられるなかで,市バス事業の健全化を図っていくためには,利用者の立場に立ったサービスの改善,企業の経済性を発揮した経営改善への一層の取組を行うことに加え,これを最後の機会と捉えて,従来の枠組みを超えた抜本的な対策を行い,市民の理解と協力を得ていくことが重要な課題であると認識される。
こうした問題認識のもとで,この中間報告では,市バス事業の現状と課題について整理した上,諮問内容の一つである「市バス事業の果たすべき役割」について提示するとともに,最終提言に向けた今後の検討の方向を示す。
1. 交通事業の現状 -市バス事業を中心として-
- 市バスは,明治45年に開業した市電を補完する交通機関として昭和3年に事業を開始し,その後,市街地の拡大にあわせ,順次路線の拡大が図られてきた。
- 市街地の外延的拡大やモータリゼーションが進展するなかで,昭和30年代後半から順次市電が廃止され,市内の公共交通の中心が次第にバスに移行していった。
- 昭和53年に市電が全廃された後,昭和56年に地下鉄が開業し,その後,烏丸線の延伸や東西線の整備など,市内の基幹的な公共交通機関として地下鉄の拡充が図られる一方で,市バスは,広範に広がる市街地において,地下鉄と連携を図りながらネットワークを形成し,都市構造の骨格を構成している。
- 市バスの利用者は,昭和41年には1日平均342千人であった。その後,地下鉄開業前年の昭和55年に598千人とピークに達し,平成12年には336千人に減少している。
- 市電が廃止される過程では,市電利用者が市バスに転換して市バス利用者が増加したのに対し,その後は,地下鉄の開業や延伸に伴って市バス利用者が地下鉄に転換し,市バス利用者が減少した。このように,市電の廃止や地下鉄の整備などに伴う交通機関の分担関係の変化が市バス利用者の増減の一つの要素となっている。
- そこで,市電や地下鉄を合わせた市営交通全体の輸送人員をみると,昭和41年には899千人を輸送していたが,地下鉄の開業した昭和56年には661千人,平成12年には641千人となっている。この間,他の交通機関を含めた京都市域の輸送人員は増加しており,それに占める市営交通の割合は,昭和41年の49%から昭和56年には31%,平成12年には26%に低下している。
- このように,交通需要が増加しているにもかかわらず,市営交通のシェアが低下しているのは,第一に,運転免許取得率の上昇や自動車保有の進展などにより,従来は鉄道やバスが利用されていた日常的な交通に自動車が利用されるようになったこと,第二に,少子化の進展や大学の市外移転に伴う通学交通の減少,週休二日制の普及や近年の景気低迷による通勤交通の減少など,公共交通利用の多い通勤・通学交通が減少したことが考えられる。
- 加えて,種々の規制に守られて,市内中心部で独占的に市バス事業を行ってきた経緯などから,市バスサービスの提供に対し,事業者の立場を重視しがちであったことも否めない。
- 公共交通利用が減少し自動車利用が過度に進展すると,地球環境への負荷を増大させるほか,稠密な市街地が広がる京都市内では,限られた道路空間の効率的な利用という側面からも望ましくない。
- 市営交通は市域内の公共交通機関の輸送人員の54%を占め,その中で市バスは民営を含む路線バスの輸送人員の85%を占めるなど,市バスは市内交通の中核的な役割を担っている。このため,市バスの利用促進を図ることがこうした問題に対応する上で重要な要素となる。
- 現在,民営に一元化された山科・醍醐地区等を除き,市バスの路線は,京都市の市街地のほぼ全域でネットワークを形成している。地下鉄やJR・私鉄,民営バスを合わせると,バス路線から500m以内または鉄道駅から半径1km以内の区域に市街地の大部分が含まれている。
- 市バスの系統は,地下鉄の開業や延伸などを機会に,再編成や見直しが随時行われてきたほか,利用者の少ない系統でも最低限の運行回数を確保するなどの考え方に基づいて運行回数などが設定されている。しかし,系統や区間,時間帯などによって日常的な混雑の発生が見られること,定時性が確保されていないことなどの問題が生じている。
- 運賃は,周辺地域を除き均一制が採用されており,昼間割引,乗継割引,環境定期券制度などの割引制度が実施されている。加えて,一日乗車券・二日乗車券の発行,市バス専用一日乗車券の発行と値下げなどの取組も行われ,観光客の市バス・地下鉄利用や,利用者に対する利便性の向上などに寄与している。
- また,市域共通バス回数券の導入(昭和51年)や「スルッとKANSAI」の導入(平成12年)などにより,他の鉄道・バス会社との共通利用の促進が図られている。
- 車両の低床化や低公害化については,民営事業者と比較して高い水準にあり,その他にも停留所施設の整備,バスロケーションシステムの導入,都心部における100円循環バスの運行など,サービス向上のための取組が実施されている。
- こうした取組は評価に値すると考えられ,サービスの一層の充実が望まれる。しかし,利用者の立場からみると,利用者ニーズに的確に対応した系統やダイヤの設定,市バスと地下鉄の乗継運賃の設定方法の改善ならびに乗継システムのわかりやすさの向上など,サービスの改善余地も少なからず残されている。
- バスの走行環境を改善し,バスの定時性の向上を図るため,市内の主要なバス路線の一部にバス等専用レーンやバス優先信号機が設置されているほか,平成13年度からは,公共車両優先システムが導入され,順次拡大されている。
- その効果を高めるため,自家用車等の違法駐停車防止やバス等専用レーンの遵守について,京都府警など関係機関が協力して啓発,指導に取組んでいる。
- 一方,市バスの運行ダイヤについても,定時運行の確保を目指して,時間帯によって異なる交通事情に合わせた区間時分の見直しなどが行われているが,十分な改善効果を上げるに至っていない。
- これら違法駐車防止や交通規則遵守に関する市民理解の促進など,定時性確保への取組は十分でなく,依然としてバスの定時性や円滑な運行は十分に確保されていないのが現状である。
- 市営交通事業の経営健全化を目指して,平成8年度以降,「京都市自動車運送事業の今後の展望について」および「京都市交通事業経営健全化プログラム21」が京都市交通局によって策定されており,これらに基づき,全職員の給与等の5%以上のカット,新たな給料表の導入などによる給与制度の見直し,ノルマアップによる職員数の削減など人件費の削減を中心とした取組がなされている。
- また,横大路営業所では,「管理の受委託」などによる経営健全化が実行され,経費の削減が図られたとされている。
- しかし,走行キロ当たりの経費は,大都市の公営バス事業者のなかでは中位であるが,京阪神ブロックの民営バス事業者平均の約1.6倍となるなど,民間バス事業者との比較において,いまだ高コスト水準となっている。
- その背景には,車両の改善等に対して民間バス事業者を上回る水準の取組がなされていることも考えられるが,基本的には給与制度や勤務制度が高コスト構造であることが挙げられ,収支の改善を図るため,現在,新たな経営健全化のための計画が検討されている。
2. 市営交通をとりまく時代潮流の変化
- 出生率の低下により,わが国の人口は数年後をピークに減少に転じると予測されている。
- 京都市の夜間人口は昭和60年をピーク(147.9万人)にわずかながら減少に転じ,京都市基本計画によると,平成37年(2025年)には131万人まで減少するという見通しが示されている。
- 今後は,人口や経済規模の拡大が見込めない「成熟型社会」に転換していくと考えられ,交通需要がさらに減少し,市バスの利用者数にも少なからぬ影響を及ぼすことが見込まれる。
- 少子化の進展に伴い,京都市においても中学生,高校生,大学生の数が,平成2年から平成12年の10年間に約20%程度減少するなど,通学交通の減少がみられる。
- 少子化の傾向は今後も続くと予想され,通学交通の減少とそれに伴う市バス利用者のさらなる減少が見込まれる。
- 一方,高齢化の進展に伴って高齢者人口が急速に増加している。平成12年の国勢調査によると,京都市では人口の17.4%が65歳以上の高齢者となっている。
- 高齢者は他の年齢階層に比べてバス利用機会が多く,特に敬老乗車証の支給される70歳以上では市バスの利用頻度が高く,通院や買い物などの日常生活にも市バスが利用されている。
- 今後は,団塊世代が高齢者になるなど,高齢者人口の一層の増加とそれに伴うバス利用者の増加が見込まれ,バリアフリー化の促進など,高齢者に配慮したバスサービスの改善などが一層重要性を増してくる。
- 自動車交通の増加に伴うCO2の排出が地球温暖化の原因の一つとなるなど,地球環境への負荷の軽減が重要な課題となっている。京都市は平成9年の「地球温暖化防止京都会議」(COP3)の開催都市でもあり,また同年に策定された「京都市地球温暖化対策地域推進計画」では,京都市におけるCO2排出量を,平成22年までに平成2年の90%に抑制することが目標に掲げられている。
- しかし,現状では,CO2排出量はこの目標を上回る水準で推移しており,公共交通の利用促進や自動車交通の適正な利用が求められている。
- バスや鉄道などの公共交通機関は,旅客1人を輸送する際のCO2排出量やエネルギー消費量が自動車に比べてはるかに少なく,環境負荷の軽減のために,その積極的利用が求められている。
-競争原理の導入と内部補助のしくみからの転換-
- 平成14年2月の道路運送法の改正により,乗合バス事業への参入規制が,従来の需給調整を前提とした免許制から,輸送の安全確保等の資格要件をチェックする許可制に移行したほか,運賃についても届出による上限認可制に,また,既存路線からの退出についても事前届出制に移行した。
- 規制緩和の実施に伴い,適度な競争のもとで,運行頻度の増加や運賃の低廉化,あるいはその他のサービスの多様化などにより,利用者の便益が拡大することが期待される一方,地域における円滑な交通の確保や交通機関相互の連携が阻害されるなどの問題が生じる可能性もある。
- 市バス事業では,黒字路線の収益で赤字路線の運行を維持する,いわゆる内部補助のしくみが,路線全体の経営に寄与してきた。しかし,規制緩和に伴い乗合バス事業への新規参入が容易になった現在,従来のように赤字路線の運行を黒字路線の収益で維持しようとすると,運賃が割高になるなど,新規参入する事業者との競争条件が不利になることが想定され,その結果,新規参入が促されて内部補助が一層難しくなり,それが波及してバス路線の現状ネットワークを維持することが困難になるなどの問題発生が懸念される。
3. 市バス事業の今後の課題
(1) 公共交通サービスの提供を通じた都市活動の維持
- 市バスは,通勤・通学はもとより,日常生活や業務活動の交通手段として,あるいは年間4000万人を超える観光客の市内での主要な移動手段として,市民生活や都市活動を支えてきた。
- 今後,少子化や人口減少などにより需要の増加が見込まれず,経営環境が厳しくなる中で,引き続き公共交通サービスの提供を通じて市民生活の円滑化や都市活動の維持に貢献していくことは市バスに与えられた基本的な使命であり,重要な課題であると認識される。
- 市バスは,市域の市街地の大部分においてネットワークを形成し,市民のモビリティの確保を図ってきた。
- しかし,これまでは事業者の立場を重視しがちであったことも否めず,今後は,利用者の立場にたったバスサービスを提供し,利用者ニーズに見合ったモビリティを高めていくことが重要な課題となる。
- また,規制緩和の実施に伴う競争の激化などにより,不採算路線の維持が厳しくなるなどの変化が予測されるが,これまでに構築してきたストックを有効に活用しながら運営の効率化を図り,市民生活に必要なモビリティを確保していくことが課題になる。
- 市バスは,公共施設へのアクセスや洛西ニュータウンなどの大規模な開発地域における交通基盤あるいは産業・商業を支える交通機関のひとつとして,まちづくりにも貢献してきた。今後は,「歩いて暮らせるまちづくり」がまちづくりの目標として掲げられるなかで,市バスはその実現に貢献することが求められる。
- また,観光が中心的な産業の一つである京都市において,市バスは地下鉄とともに市内における観光客の移動手段として機能してきた。今後も,「5000万人観光都市・京都」の実現に向け,市バス・地下鉄のネットワークを中心とした公共交通サービスの充実が求められる。
- このように,公共交通サービスの提供を通じ,京都市の目標とするまちづくりの実現に貢献することが課題である。
- 若い世代のバス離れが進展する一方,市バスは高齢者が身近に利用できる移動手段として,高齢者層における市バス利用が相対的に高い比率となっている。そのなかで,70歳以上を対象とした敬老乗車証制度は,高齢者の社会活動への参加の促進等の点で,重要な役割を果たしている。また,市バス事業では,リフト付バスやノンステップバスの導入等により,移動制約者の利用にも配慮がなされてきた。
- 今後,京都市においてもさらなる高齢化の進展により,高齢のバス利用者が一層増加することが見込まれる。このため,高齢者の利用ニーズに応じたサービスを向上させることが課題になる。
- また,全ての人がその地域社会において困難を感じることなく普通の生活を営むことのできるようノーマライゼーションを進めていく中で,移動制約者の移動を一層円滑化していくことが重要になる。
- 地球環境問題の深刻化に対し,運輸部門でのCO2削減が求められており,自動車への過度の依存から脱却し,公共交通優先型の交通体系を築くことの重要性が増している。
- 市バス事業においては,自動車からの利用転換を図るうえで,より一層の利便性の向上に取組むとともにバス車両自体の低公害化を図り,環境負荷の軽減に努めることが課題である。
4. 市バスの果たすべき役割
(1) 公共交通優先型の交通体系の形成
- 21世紀に入り成熟型社会へ転換していく中で,持続可能な循環型社会を構築していくためには,自動車交通への依存度を軽減するとともに,公共交通優先にしていくことが必要である。
- そのなかで,市街地の大部分でネットワークを形成している市バスは,移動のための主たる交通手段として,また,地下鉄をはじめ鉄道駅へのアクセス交通手段として,重要な役割を果たしていくことが求められる。
- 高密度の市街地が広範に広がる京都市では,通勤・通学をはじめ,日常生活や業務活動に伴う交通需要が市域の一円に広がるため,バス交通によって対応する必要があり,市バスは市民生活や都市活動を支える重要かつ基本的な役割を果たすべきである。
- そのためには,乗継ぎ施設等のハード面はもとより,運賃やダイヤ,乗継ぎシステムなどのソフト面においても市バスと地下鉄の一体性を高め,誰もが利用しやすい公共交通サービスを提供していくことが重要である。
- 京都市では,社寺等の観光施設が広範囲に分布しており,観光交通の需要は市域全体にわたって多様に分布する。これらの状況からも,市域の全体にネットワークを有する市バスは,観光客の移動手段として適している。
- 京都市交通局では,観光客が容易に市バスを利用できるよう,一日乗車券や二日乗車券の発行,観光拠点を巡る急行バスの運行などサービスの向上が図られてきた。
- しかし,市バスのネットワークは複雑であり,観光客には地理や交通機関利用に不案内な人が多いため,観光客の利用に対してさらなる配慮が必要であると考えられる。
- そのため,観光客が快適に市内を周遊できるよう,市バス・地下鉄はもとより他の交通機関を含めた情報提供や案内の充実,観光用の乗車券の企画・開発など,利用のシームレス化(わかりやすく,乗継ぎしやすい方向への改善)を進めるしくみを充実させることが求められる。
- 高齢化の進展により,高齢者の社会活動への参加機会が増大すると考えられる。
- これに対し,市バスは高齢者の日常生活の足として気軽に使われることを通じて,高齢者の社会参加を促進し,高齢者が生きがいある豊かな生活を送ることができるよう支援していくことが求められる。
- 京都市交通局では,民間事業者に先駆けてリフトバスやノンステップバスなどの車両の導入を計画的に推進している。
- 人権の尊重が求められ,ノーマライゼーションが進む中で,こうした移動制約者への交通手段の提供について,今後とも先導的な役割を果たすことが求められる。
- 地球環境保全の観点から,天然ガスバスやアイドリングストップバスなど,低公害車などが積極的に導入されてきた。
- さらに低公害化を推進し,先導的な役割を果たすとともに,公共交通の利用促進を通じて,地球環境保全に寄与することが求められている。
- 市バスは,都市開発における社会基盤整備の一翼を担うとともに,都市政策や福祉政策,環境対策などの行政施策と連携して,総合的な「まちづくり」や都市の活性化を支援してきた。
- 都市間競争が激化し,特色あるまちづくりを戦略的に進めていくことが求められているなかで,今後も市バスは,京都市基本計画に示される「歩いて暮らせるまちづくり」を実現するための主要な交通手段としての役割を果たすなど,公営事業であることの特性を生かし,京都市の政策と緊密な連携を図って積極的な事業運営を行うことが求められる。
- 経営を重視しがちな民間事業者と比べ,市民や利用者の声を事業に反映させたり,市民との協力体制をとるのが容易であることが市営事業の特徴である。
- したがって,今後の市バス事業においては,従前にも増して市民や利用者の声を反映させた事業を展開することが求められる。
- 京都市では,明治45年の市電の開業以来,市内の主な公共交通サービスが市営事業として展開されてきた。
- その結果,市街地のほぼ全域にわたって市バス・地下鉄のネットワークが形成され,活発に展開される様々な都市活動を支えているほか,採算の悪い路線についても市営事業としての維持がなされるなど,市民のモビリティの確保が図られている。
- 今後も,京都市の都市交通に大きなウェイトを持つ市バスと地下鉄の既存ストックを最大限活用して,現在にも増して利便性が高く,全市的一体性を保持できる公共交通ネットワーク(ハード面および運賃制度などのソフト面)を戦略的に構築し,より利用しやすい公共交通サービスの提供が求められる。
- これまで,企業性を発揮しても赤字になる路線(ここでは,「生活交通」と称す。)についても,一定水準の市民生活を維持する観点から,市バスによる運営が行われてきた。
- 今後は規制緩和に伴い,こうした「生活交通」の維持が難しくなることが見込まれるが,市民のモビリティを確保する観点から,新たに交通空白地域を生むことなく,生活交通を維持することが求められる。
- [1]民間事業者に比べて割高な人件費の削減や市民ニーズに迅速に対応する体制の構築に取組むこと。
- [2]「市バスの果たすべき役割」を具体的かつ確実に遂行するとともに,その結果を市民に対して説明する責任を果たしていくこと。
- [3]これまでにない大きな環境変化の中で,従来の手法は通用しない場面もあり,積極的に環境条件の変化に対応していくこと。
5. 今後の検討内容と検討を進めるうえでの方向性
(1) 生活交通のあり方
- 一定水準のモビリティを確保する視点から,これまで市バス事業では,赤字となる路線についても内部補助などにより,その運営を行ってきた。市民のモビリティを確保するためには,こうした赤字路線についても引き続き維持していくことが望まれる。
- その際,現状では赤字であるが,民間事業者なみの経費で運営することにより,黒字が見込まれる路線については,経費の縮減や運営方法の改善などによる取組により,維持することが考えられる。
- しかし,規制緩和のもとで,内部補助によって生活交通を確保しようとすると,他の事業者との競争が不利になり,ネットワーク全体の維持が困難になるなどの問題が生じることが考えられる。
- このため,生活交通を維持していくに当たっては,現行の路線バス事業を継続することを基本としつつ,今後,人件費の縮減に努めるとともに,サービス水準の設定や公的負担,受益者・地元負担のあり方についても検討し,生活交通の存続やその運営に関する新しいシステムを構築することも必要と考えられる。
- また,それらの検討に当たっては,京都市が目標とする,歩いて楽しい「歩くまち・京都」の実現をはじめ,市内の交通体系における位置づけを明確にしていく必要がある。
- 市バスをはじめとする公共交通の利用促進を図るためには,モータリゼーションの進展の中で公共交通機関の利便性が相対的に低下してきたという事実を踏まえ,マイカーにも勝るとも劣らない公共交通の利便性を確保していくことが必要である。
- そのためには,利用者のニーズを的確に把握するとともに,利用者のニーズに応じた系統やバスダイヤの設定が重要であるほか,乗継ぎ利便性の向上など,市バスと地下鉄との連携の強化を図ることが重要と考えられる。運賃についても,市バス相互または市バスと地下鉄の乗継ぎ運賃の設定や,そのわかりやすい仕組み作りなどを行う必要がある。
- また,走行環境改善や公共交通優先の交通規制あるいは,TDM(交通需要管理)施策など,各種行政施策との連携を図り,京都市全体で取組を進めることで,自家用車利用に対する公共交通の優位性を高めることが重要である。
- これを実践していくためには,利用者ニーズを的確に把握するとともに,利用者の立場に立った利便性の向上策について検討しなければならない。
- その際,市民や利用者の声を反映させやすいという公営事業の特徴を生かし,ドライバーをはじめ市民の理解と協力のもとで,市民とのパートナーシップを図りながら事業運営を行うことが不可欠である。
- 市バス事業を公営企業として健全に運営していくためには,都市交通政策の観点からの交通計画とそれら計画に基づく事業運営としての交通事業を区分し,その役割分担を明らかにすることが重要である。
- それにより,計画段階から将来のまちづくりに対応し,市民のニーズに対応した運営を行うことに加え,企業の経済原理で運営すべき領域と行政サービスの一環として運営する領域を区分して,財政構造の明確化を図ることが可能となる。
- また,利用者の立場にたったサービスを提供して利用促進を図るとともに,コストの削減に努めることが必要である。コスト削減については,バス事業が労働集約型事業であるという特質に基づき,人件費の削減に取組むことが不可欠である。
- ついては,事業運営を抜本的に見直す必要があるが,経営に責任を負う事業者として,今回の諮問を市営交通事業再生のための最後の機会と捉え,不退転の覚悟で取組むことを交通局に強く求めるものである。
- 特に,現在,交通局において,今後の市バスの役割を果たすための前提として新たな経営健全化のための計画を策定中ということであるので,その実施に当たっては,現在一部の営業所で既に導入されている「管理の受委託」など効果の認められる手法について,その効果を精査するとともに実施上の課題を整理し,その拡充を図ることに加え,給与制度や勤務制度などについても,抜本的に見直していくことを強く要請するものである。
- また,人件費の削減などによる収支改善を図ることはもとより,それを実施する職員の意識改革を徹底し,市民・利用者の立場に立った組織改革に取組むことが不可欠である。
おわりに ~市バス事業がその役割をよりよく果たすために~
市バス事業の改善を図っていくためには,市民や利用者の理解と協力が不可欠であることは先に記したとおりである。さらに,付け加えるならば,事業者の努力や取組姿勢を市民にわかりやすく説明することを通じて,事業者の努力に対する市民の理解と協力 → 市バスを利用しようとする意識の醸成 → 利用者の増加 → 経営の改善・サービスの向上 → 市バスに対する市民意識の高揚 といった好循環の構造を創り出し,市民とともに市バス事業を活性化していくことが重要である。
これらのためには,情報を広く市民と共有し,その理解を深めていくという点から,事業を評価するための新たな行政手法を導入することが必要である。具体的には,事業運営上のしくみとして,経営やサービス水準に対する目標を設定し,それを経年的にチェックして市民に公表する,といった事業サイクルの構築が重要であり,今後,審議会としても検討を深めていく必要があると考えている。
このことが,市バス事業がその役割をよりよく果たしていくことを担保することとなり,交通局の事業運営スタイルを改善することにつながるものであると考えている。
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