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インタビュー「音を聴く・耳を澄ます」小松正史

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2010年10月15日

 「きょうとシティグラフ2010」に掲載された,小松正史氏のインタビュー原稿を掲載しています。

京の街に広がる多彩な音風景と出会って感じて、深まる生の実感

先生は「音景観」を研究されているそうですが、それはどういったものでしょうか?

 朝起きたとき、家族がごはんをつくる音で朝の始まりを感じたりしますよね。このように、音をたよりに身近な環境を意識してとらえなおす。目に見える風景は「ランドスケープ」と言いますが、耳でとらえる風景を、我々は「サウンドスケープ」(音の風景/景観)と呼んでいます。

 例えば京都には、通りの両側に町家が並ぶ「両側町」という独特の町構成がありますね。そこでは家から出る生活音が対面的に行き交い、表では隣近所の話し声や足音が響き、通りをゆっくりと豆腐屋さんのラッパが行き過ぎていく…そういう風に、音の響きを感じて周りの環境をとらえれば、目には見えない空気感や人のつながりを感じることができて、生活はより楽しくなりますよ、という提案をさせていただいています。

古都・京都ならではの音景観というものはありますか?

 ハレの音、例えば祗園祭の辻廻しの時、山鉾の車輪に竹をはわせて曳くときにガガガッときしむ音が響く。疫病を鎮めるために始まった祭りの荒々しさを彷彿とさせる、京都らしい音だと思います。

 そして日常においては、大都市でありながら自然の音、なかでも水の音が豊かです。鴨川上流の雲ヶ畑付近では自然石や砂があって昔のままの川音が聴けますし、糺の森には山城原野から続く木の葉擦れの音も残っています。

 水音を生活空間の中にうまく取り込む、という先人たちの取組もユニークです。特に岡崎の無鄰菴の庭園や、北白川の詩仙堂の鹿脅しなどは、音の大きさや音が鳴るタイミングまでしっかりとデザインされています。京都は、三方を山に囲まれた盆地の中で、人びとの生活の中で出る音、街のざわめき、自然の響きなど極めて多様性に富んだ音が折り重なって、多層的に混在している場所なんです。

音の調査のほかに、新しく音環境を創るという仕事もされていますね。

 京都国際マンガミュージアムと、京都タワー展望室の、音環境のデザインをさせていただきました。音環境デザインを実施するには大きく分けて三段階があります。

 まずは「マイナスの音デザイン」。これは“嫌な音”を減らしていくことですね。マンガミュージアムの場合は、空調ダクトなどの機械音を人のいる場所からできるだけ除き、窓には車の騒音などを防ぐ遮音ガラスを使っています。

 次に「ゼロの音デザイン」。箱のデザインともいい、建物の内部空間そのものが持つ響きの調整です。ミュージアムでは、元龍池小学校の雰囲気が残る床面に木の素材を使うことで、ミシッという懐かしい足音が生まれる音空間ができています。

 そして最後に「プラスの音デザイン」。箱(建物空間)に音を付加する演出で、ミュージアムには刺激の少ない環境音楽として作曲したピアノ曲を40~50曲流しています。不特定多数の方が訪れる公共空間なので、意図的に出している音楽なのに自然にその場に溶け込んでしまう、不快感をできるだけ抱かれない音環境の演出を目指しました。館内に流して3年が経ちますが、たまに「音楽がいい」と気付いていただけるお客様もあって、うれしいですね。

 心地よい音環境づくりのヒントは自然の音にたくさんあります。良いと思った音を全身で感じて、音の知恵をストックしておく。良い音の記憶を積み重ねておくと、環境音楽を制作する際、大いに参考になる気がしますね。

音景観の研究者として、今後どのような活動をしていきたいですか?

 まず、身近な音の響きを感じ、おもしろい音を遊び心で発見することの魅力を知ってほしいですね。

 音には、生きていく実感を強める力があります。京都には心に癒しをもたらせる自然音や、伝統的な生活音などが、とても良いバランスで溶け合っている。そうした京都ならではの音を意識し、大切にしていくと、京都で暮らすということのすばらしさをより強く感じることができると思います。

 また、響きの良い音には人の心を解放させる力もあると思っています。今は多くの情報が溢れていて、例えば携帯電話などでいつもメディアによる情報の音につながっていないと不安に思う人が増えている。良い音には、そうした情報にまみれた日常から人の心を解き放ち、一息つかせる力があります。

 良い音の環境をつくっていくことは、五感に訴えかけるまちづくりにもつながる可能性があります。

 京都市が進めている新景観政策によって、今、京都らしいまちの景観づくりが確実に進んでいると感じます。更にその延長線上で、京都ならではの「音景観」というものを意識して大切にする、あるいは、京都らしい音環境を創造していく。

 古くからまちに受け継がれる音を生かして、良い音景観を形成していけば、京都という都市の品格をより高めることができる。そういう提案をしていければと思います。

小松正史氏プロフィール

音環境アドバイザー・作曲家・ピアニスト。昭和46(1971)年京都府生まれ。京都市立芸術大学大学院音楽研究科修了。大阪大学大学院工学研究科博士後期課程(環境工学専攻)修了。博士(工学)。音響生態学、五感環境学、環境心理学を専攻。環境音と協演するピアノ演奏や環境音楽・CD制作や環境系ワークショップを実践。京都国際マンガミュージアムや京都タワー展望室の音環境デザインも手がける。現在、京都精華大学人文学部准教授。著書に『京の音-音で体感、京の風景-』『サウンドスケープの技法-音風景とまちづくり』ほか。

小松正史ウェブサイト「猫松カワラ版」外部サイトへリンクします

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京都市 総合企画局市長公室広報担当

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