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京都市消防局

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平成28年7月号 ザ☆消防

ページ番号201158

2016年7月1日



  昨年,父親似の“べっぴん“な女の子が誕生し,3人の子どもに恵まれ,現在,公私共に充実した日々を過ごしております。

 私は,20歳のときに京都市消防局に入りました。気が付けば消防人生もまもなく20年を迎えることになります。その大半が消防隊で勤務しているため,自分でも思い返す現場が多いと思っていましたが,私が経験したこれまでの火災現場の印象をかき消すほどの,壮絶な現場がありました。

 当時,私は,消防司令補に昇任して2年目を迎えたところで,指揮隊員として,その現場へ出動しました。この現場には多くの消防隊員が出動しました。隊員,運転員,隊長,指揮隊長,また,指令センター員等々,当然それぞれ一人一人の目に映った景色や胸に残るものが違うことを踏まえ,自分の立場から,その現場で経験した教訓についてお話します。


 「何やこれは!まだ中に人がいるのや!早く消せよ,早く助けてやってくれ!」消防隊が現場到着してから20分くらい過ぎたところで,激しく取り乱した状態で近所に住んでいる身内の方が駆け付けてきました。そして,警察官の制止を振り切らんばかりに,燃えている建物に向かっていきました。

 指揮隊員である私の仕事の一つに,関係者から必要な情報を聞き出し,現場活動に生かすというものがあります。ひとまず身内の方を引き止めたものの,正直,私も焦っており,的確な行動を取ることが難しかったのです。取り乱している関係者の方に,どのように言葉を掛けるべきか,今の消防活動にとって最優先事項の情報は何かをとっさに思い描けなかったのです。 

 このときの状況ですが,民家が全面燃焼中。2名の逃げ遅れの方がおられ,救助隊による2回目の屋内検索を実施していました。よって,救助隊による人命検索を効果的に行わなければなりません。そのためにも,この黒煙と熱気に包まれている建物の内部がどういう状況なのか,いわゆる建物の間取りを把握しなければなりません。そのことは導き出せたのですが,うまく聞き出せませんでした。「あなたが知っている情報や状況を教えてください。それが今の現場活動に必要です。」と訴え続けました。その結果,少し時間は掛かりましたが,身内の方は追い詰められていた精神状態の中でも,情報提供に協力してくださいました。

 それでも,私が聞き方を工夫していれば,あと何秒かは時間を縮められたと思います。というのも,その現場で私は,「2階と3階の間取りはどうなっていますか?」というように指揮机上の空白の平面図を指しながら,問い掛けました。そうすると,一つずつ思い出しながら「階段はこの位置で,そこから隣は居間になり…」というような感じで答えてくださいました。しかし,今思えばこれでは遅かったのです。少し考えれば分かることですが,取り乱した関係者の方には,逃げ遅れの方がいると思われる場所を簡潔に答えられるように質問すれば,より良かったと思います。例えば,ベッドの位置,外に出るまでの避難経路,浴室,トイレなどの水回り,何があっても持ち出さなければならないと決めている貴重品の保管場所等々を,ピンポイントに聴取するべきだったと…。

 結果,逃げ遅れた方は浴室付近で発見されました。


  「経験は最良の教師である。ただし,授業料が高すぎる。」という格言があるように,経験を積むのには「時間」という高い授業料を費やしますが,経験に勝る教師はいないのです。この現場の経験は,非常に高い授業料になったと思います。消防を続けていく限り,絶対にこの授業料を無駄にはできません。

 それから,「自分の引出しを増やして整理する。」ということについてもお話したかったのですが,そろそろ与えられたページも終わりに近付いてきましたので,この続きのお話はまた,御縁があれば次の機会にできればと思います。


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