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京都市消防局

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平成28年6月号 あの日あの頃

ページ番号199455

2016年6月1日


 昭和57年4月に消防学校の門を叩いてから,34年の月日が経ちました。消防学校6箇月の修業を終え,新配置になった頃の自分を振り返ってみました。倉庫に大切に(?)保管していた当時の京都消防(昭和57年9月号)をひもといてみると,新配置消防士の紹介記事「翔べ、フレッシュ消防士」に「私のモットーは全力投球」と書かれていました。消防士として歩み始め,「全力投球」していた時代から記憶に残ることをお話ししたいと思います。


 消防士なら誰でも,大火災の現場は記憶に残っていることと思います。当時はナビや高所カメラなどはなく,音声指令と地水利要図で現場や水利を検索していた時代です。

 消防学校での初任教育を修了し,消防署に配置になって数年が過ぎた寒い冬の夜でした。「出動指令。第〇〇地区〇区〇〇町〇〇旅館」現場は私の勤務する消防出張所から約1km離れたところでしたが,出動途上での望見状況は「F1」で,さほど緊張していませんでした。現場到着時,近隣者からの「奥の建物が燃えている。」との誘導で路地を抜けると,まさしく「火の海」という言葉どおりの火勢でした。「無我夢中」とはまさしくこのことで,私は,ただ先輩の後に付き,必死で隣接建物2階ベランダからの放水補助を行っていました。一夜明け,雪が舞う中での原因調査。自分が活動していたベランダを見て,がく然としました。そこには,細く錆びついた骨組みと焼け細った床板があるだけで,転落しなかったのが不思議なほどでした。結局,状況が急展開したことに対応できず,ろうばいしたため,全体を見失っていたのです。新任消防士から少し余裕ができ始めたころの出来事です。


 「住宅を1件1件訪問して火災予防などを訴える。」これは,私が消防に入る以前から今も続いている業務です。

 ある家を訪問したときの話です。玄関が開き,奥の居間で高齢女性が座っているのが見えたため,私が「こんにちは。消防です。」と声を掛けると,彼女は軽く会釈をして,快く私を迎え入れてくれました。防火ビラを見せ,出火防止の話をしている間,彼女はそのビラを見ながら,「うん,うん。」とうなずき,真剣に話を聞いてくれているように見えました。帰り掛け,私はつまづいて大きな物音を立ててしまいました。ふと高齢女性を見ると,何事もなかったように座っていました。そのとき,私は,初めて彼女は「耳が不自由なのだ!」ということに気付きました。そこで,私は高齢女性に渡した防火ビラに「体に気を付けて。」と書きました。すると,彼女は笑顔を浮かべて,握手をしてくれました。当たり前のように人と接し,当たり前のように帰っていれば,大切なことを見落としていたところです。消防生活も10年が過ぎようとしていた頃の出来事です。

 私の場合,誰もが驚くような貴重な体験がなく,よくある話をさせていただきましたが,消防人生を長年積み重ねると,必ず忘れられない出来事や失敗があると思います。

 ここでタイトルに戻ります。「初心忘れる!」…? 「初心忘れるべからず。」は,皆さんも御存知のとおり,「学び始めた当時の意気込みや謙虚さを忘れず,常に高い志を持って物事に当たらねばならない。」という意味で,Web京都消防でも何回も登場している言葉です。この言葉の裏には,「いかなる人間でも必ず初心を忘れてしまう。」という人間心理を突いた意味があるようです。人間,誰もが頭では分かっていても,慣れてしまえば必ず忘れ,失敗を生むのです。

 さて,私にとっての「初心」,フレッシュ消防士時代の「全力投球」は「直球」から「変化球」に変わり,「全力か?」と自分に問うと,やはり「初心」を忘れているようです。失敗や教訓を積み重ねて変化球に変わっても,「全力投球」の「初心」を忘れないようにするには,常に「全力か?」と,自分に問い続けることしかないようです。



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