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京都市消防局

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平成27年9月号 あの日あの頃

ページ番号186966

2015年9月1日


 早いもので,消防学校を卒業してからもう36年。

 たくさんの現場へ行き,いろいろな経験をいっぱいしてきました。そんな中で思い出されるのは,現場で幾度となく危険な目に遭ったとき,私を助けてくれ,育ててくれた百戦錬磨の師匠たちのことです。

 1つは,二つ折りはしごの先端から放水する際,放水圧力に負けて地上に体ごと吹き飛ばされ,全身を地面に叩きつけられ,動けない私を荒れ狂うホースから助けてくれた師匠のこと。

 もう1つは,深夜の炎上火災で暗闇の草むらを走っていて,高さ3メートルもある側溝に転落寸前,正面のガードレールに飛び付いた絶体絶命の私を助けてくれた師匠のこと。

 最後に,民家火災の消火活動中のことです。全焼した2階に進入するため,私は,床が抜けないか,両手で窓枠をつかみながら片足で軽く踏み付けた後,今度は両足で体重をいっぱい掛けて確認しました。石橋を叩いて渡る慎重さが大切と自己満足し,窓枠から手を離し,2~3歩進入したその瞬間,メキメキ,バキバキ,ズボーっと,床が突然,崩れ落ちました。床と共に落ちていくとき,とっさに目の前に見えたはりにぶらさがり,奈落の底だけはまぬがれましたが,床が崩壊した衝撃で煙と火の粉,それに熱気が全身を包み,呼吸ができませんでした。飛び降りようにも,下は炎の海になっていました。こんな絶体絶命の状況下でも,抜群の機転を利かし,私を引き上げ,無事助けてくれた師匠もいました。

 これらの現場経験は,自分の命に関わる大きな事故につながっていてもおかしくはなかったのですが,幸いにも,これらの全てがかすり傷で済みました。

 長い消防生活のなかで,私がこれらの体験を忘れられないのは,恐怖や焦りということからではありません。それは,常日頃から隊員の行動を気に掛け,指導してくれていた百選練磨の師匠たちの存在があまりにも偉大だったからです。師匠たちは,瞬時にその場の空気を読み取り,適格な判断を下され,危険な現場活動を少しでも安全な方向に導いてくれました。本当の意味でのベテランとしての責任感や普段の安全に対する心掛けがあるから,突然の切羽詰まった危険に遭遇しても,適格に対処できる技量を備えておられたのだと思います。

 こんなすごい人たちから,日夜,厳しく怒られながら育てていただき,めずらしく,褒められたときは,最高に嬉しかったものです。

 昔,よく「あの人は火災原因調査の神様。地水利の神様。訓練の神様。現場の神様。」と呼ばれていたベテランがたくさんおられましたが,大量退職でどんどん消防の世界を引退されていきました。1979年4月,19歳で消防の世界に足を踏み入れ,何もわからない,何もできない,鈍でのろまな私を根気強く育ててくれた師匠たちには,感謝の言葉しか見当たりません。今日までの36年間,現場で大きなケガもなく勤務できたのは,若干の運もあったかもしれませんが,やはり師匠たちの教えがあったからだと思います。だから,あのような危険な現場に直面しても,そこからうまく逃れる術を体得していったのだと思います。

 私も残すところあと数年で卒業になります。私は,師匠たちから数々のいろいろな目に見えない知識・技術,そして現場活動以外のうまく仕事を進めていく要領を学ばせてもらいました。残された定年退職までの時間は,偉大な師匠たちと同じようにはいかないですが,若い職員に少しでも技量を伝授しいくために使いたい,そう思います。



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