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京都市消防局

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平成27年5月号 ザ☆救急

ページ番号181245

2015年5月1日


 年度末に差し掛かり,そろそろ人事異動かな?と溜まった事務を処理していたとき,担当課長から,「異動がなければ,京都消防のザ☆救急の記事を書いてくれへんか?」と依頼されました。私は京都消防の中でも特にこのコーナーとあの日あの頃が好きで,いつも楽しみにしています。でもまさか,自分に順番が回ってくるとは思いもせず,戸惑っていると,「救急でいろいろ経験したやろ」と言われ,これまでを振り返ってみました。

 心肺停止からの蘇生という救急隊員として冥利に尽きる事案から汚物を投げつけられたやるせない事案まで印象に残る現場は数多くありますが,今回紹介させていただくのは,命の危険を感じた事案です。

 秋も深まりつつあった11月の深夜のことでした。救急出動から帰隊し,3人でコーヒーを飲みながら一息ついていた時です。救急指令が入り,「〇歳男性,薬物多量服用,警察官同時指令」との状況を受信しました。薬物多量服用はめずらしい事案ではありませんでしたが,その日はなんとなく嫌な予感がしました。

 現場はマンションの一室で,大柄な男性が室内の床に仰臥位でいました。目は閉じたまま,こちらの問いかけに答えることなく,要領を得ないことをつぶやいていました。隊長が男性の妻から状況を聴取し,私ともう1名の隊員でバイタルサインの測定を行いました。指令センターに病院選定を依頼し,車内収容の準備を始めたところ,男性は突然覚醒し,起き上がりました。そして「お前ら,いてまうぞ!」と威嚇行為を始めました。落ち着かせようとなだめましたが,男性は興奮状態です。

 救護活動の継続が不可能と判断した隊長が屋外への退避を下命したと同時に,男性が「お前らの人生終わらせてやる!」と叫びながら,玄関に向かい走り出しました。間髪入れず妻がそれを追いかけて行きました。私たちはあっけにとられ,立ち尽くしていましたが,玄関に目をやると,男性と妻の2人がもみ合っていました。「こいつらやったる!渡せ!」「あんた,それだけはアカン!」と怒号が飛びかっており,よく見ると日本刀を取り合っているではありませんか!私達は数メートル離れた台所からやり取りを見ていましたが,退路を塞がれた状態で,その場を動くことができませんでした。3名それぞれが盾の代わりにと,台所の椅子を握りしめていたのが印象に残っています。

 隊長が指令センターに,危険が切迫していること,警察官が未着であることを伝え,指揮隊を要請しました。そうしている間に妻が日本刀を取り上げ,屋外に逃げました。

 しかしホッとしたのもつかの間,男性は,下駄箱などの家財道具を手当たり次第こちらに投げつけてきました。そこでやっと警察官2名が到着しました。助かった,あとは任せようと思いきや,止めに入った警察官が殴る蹴る,傘で突かれると暴行を受け始めました。もう1名の警察官は無線で応援を呼ぶと言い残し屋外に出て行きました。格闘中の警察官は背負い投げをされ,仰向けの状態で床に倒されました。男性は,その警察官の顔面を目掛け,重量感のある金属製の健康器具を両手に取り,大きく振りかぶりました。

 「危ない!」

 私たちは3人で飛び掛かり,暴れる男性を抑えつけました。そこでタイミングよく?もう1名の警察官が戻ってきて,手錠を掛け,逮捕に至りました。

 管轄警察署での事情聴取の際,日本刀は模造刀であったことを聞かされましたが,現場で感じた恐怖は,私の拙い文章力では表現できません。

 その後,この事案を検討してみましたが,接遇・対応も問題なく(事案内容から普段以上に気を遣っていました),人生を終わらせられるような落度は,全く思い付きませんでした。

 細心の注意を払っていても,常に危険が潜んでいることを肝に銘じ,緊張感を持って現場活動に臨むべきであることを改めて認識しました。


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電話:075-682-0119

ファックス:075-671-1195