左京区 橋本靖弘
山と山の間に広がる静原の里に移り住んで,早や10年。折々に変わる里の様子から四季の変化を肌で感じ取ることができる。
夏,青々と伸びた稲穂を波うたせる風。競い合って鳴くカエルの声。秋,彼岸の頃になると,申し合わせたように田の畔を真っ赤に染める曼珠沙華の帯。あちこちの休耕田でその可憐さを振りまくコスモスの花。冬,たった一つ残った柿の実が真っ白な雪の帽子を被って細い枝にしがみついている景色。中でも,春先の山の変化がすばらしい。灰色から薄茶色に,薄茶色から薄紫に,薄紫から黄緑にと,日々,目を楽しませてくれる。霜柱を押しのけて芽を出すフキノトウ。ウグイスの囀りで目をさます朝。生命の躍動を覚える。
「退職したんやし,畑でもしてみたら。」という里の人の声かけで始めた畑。耕耘機は使わないと,自分で決め込んで始めた畑も今では300坪にまで広がってしまった。
畑の畔にどっかりと腰をおろし,流れる汗を拭きながら冷たいお茶を流し込む。真っ青な空にぽっかり浮かんでいる雲の流れを目で追いながらの休憩。実にすがすがしい。心の充実感を覚える。
しかし,最近,野菜作りの難しさを痛感している。昨年,仕事の関係もあって白菜の種を蒔く時期が大きく遅れてしまったため,隣の畑の白菜に比べ,その大きさは半分ほどだった。今年こそは大きな白菜の玉にしてやろうと思って,他の家よりも早く種を蒔いた。順調に芽を出したのは良かったが,暖か過ぎたので虫が多く,せっかく育ちかけた葉がみるみる網の目のようになってしまった。残ったのはほんのわずか。ホウレン草の芽が,長雨で全部消えてしまい,二度,三度と蒔き直すこともたびたび。「なぜうちのキュウリは,こんなに曲がるの。」と尋ねる。「水が足らんしや。」「それに,根元から伸びてくる芽は思いきって切ってしまわな。」と教えられる。当然のこととはいえ自然との関わりを抜きにしては育てられない。頭で分かっていても,野菜とともに自然を肌で感じとれるようにならねばと思う。
野菜の種類によっては,転地させることが大事だそうだ。そこで,「野菜作りマップ」を作り,連作防止の工夫をしてみた。
化学肥料や農薬を使えば苦労は半分以下ですむが,年々野菜のできが悪くなる。土作りが大切だということは分かっているが,大変だ。サツマイモの蔓や雑草も土に戻す。その結果,土を掘りかえせば,みみずはもちろん赤はら,ムカデ,冬眠しているカエルなど,いろんな生き物が住みついている。良いことだが,今度はネキリ虫が増えてせっかく植えたキャベツを噛み切ってしまう。木酢酸を片手に,虫取りに追われる毎日が続く。
最近,私はめったに行かなかったスーパーやデパートの食品売り場を見てまわることが多くなった。見てまわりながら「どうしたら,こんなにきれいな野菜が作れるのかなあ。」「真っすぐ伸びたキュウリばかりやなあ。」「こんなに安く売って採算がとれるのかなあ。」などと,考えさせられることが多くなった。
「みず炊きするし,畑へ行ってネギと白菜を採ってきてー。」という生活を楽しみながら,「このトマト,いい匂いがする。」「このキュウリ,面白い形やけど,おいしいな。」といいながらかぶりついている孫たちの顔を見たり,「虫食いのあとがあるから安全なんでしょう。」といっている嫁のことばに,喜びを感じながら,少々形が悪くても太陽の光をいっぱい浴び,しっかりした土に育った野菜を作ろうと工夫をこらしている。
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