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「文化芸術都市の創生~京都の暮らしの文化をもっと楽しむ~」

ページ番号34892

2015年8月21日

「文化芸術都市の創生~京都の暮らしの文化をもっと楽しむ~」


フォーラムの模様

(1)「京都ならではの暮らしの文化」について,どのようなことを思い浮かべられますか。

笹岡氏

  日本建築は装飾が少なく,花がよく似合う空間である。座敷には,床の間という四季を楽しむ装置があり,季節にあった掛け軸を飾り,折々の花をいける。私たちは,そうやって四季を日常の暮らしに取り入れてきた。

  梅の美しいこの時期には,北野天満宮など花の名所に出かける人も多い。そして,家にも梅をいけて,その趣のある花姿を愛でる。京都人は四季の達人である。京都ならではの暮らしの文化とは,日常に季節をうまく取り込むことであろう。

 

杉本氏

  京町家は自然を五感で感じることの機会に恵まれている。坪庭があるため,土の香りや風の音,空の色の変化,季節の移ろいを感じられる。ほんの小さな空間を生かして,住まいや日々の暮らしに季節を取り込む工夫がされている。

 また,一般的に上巳の節句は3月であるが,京都には旧暦の4月に祝う習慣が残っている。

 杉本家に伝わる暮らしの備忘録「歳中覚」には親戚づきあいや法事,年中行事,献立などが記されていて,これを読むと江戸期の京商家の暮らしの慣わしや暮らしぶりがよくわかる。

 

中川氏

  京都市の中心部の町家では,襖や障子をすだれや葭戸など通気性の高い建具に取り替え,打ち水をするなど,夏を涼しく暮らす知恵があり,建物と庭を交互に配置して,奥行きの深い住まいに光と風,そして庭ごとの美しさと季節感を取り込んでいる。

  一方,洛北の民家では,日常生活を営む「台所」という広い部屋の真ん中に囲炉裏とかまどを並べて築く。火を焚く設備を一箇所にまとめ,暖房効率を高めるとともに,炊事や食事など家族が常に集まる場所として,冬を暖かく過ごす知恵が見られる。

 それぞれ風土や歴史と共にある暮らしの文化といえる。

 

 

(2)(1)で挙げていただいた「暮らしの文化」について,他のパネリストが御発言された内容も含めて,そこに息づく京都ならではのものの考え方や精神性,こだわり,価値観や,現代生活の中でそれを大事にすることの意義について一言ずつ御意見をお聞かせください。

笹岡氏

 華道家は目の前にある花を美しくいけることだけに執心してはならない。その花の姿を最期まで見届ける責任がある。可 憐な姿で,私たちの日々の暮らしを美しく彩り,仕事や家事で疲れた私たちの心を優しく癒し,そして,命の尊さをも教えてくれる花。都市化した現代社会では,務めを終えたその花を,ゴミ箱に捨てることしかできない。命の終わりを迎えた花が,バイオエネルギーとして再利用できるようになることを心から願っている。

 

杉本氏

  先ほど,京都には上巳の節句を旧暦で祝う習慣が残っていると言ったが,端午の節句はというと,新暦どおり5月に祝っている。このように京都人は旧暦をかたくなに守るのではなく,旧暦と新暦をうまく使い分け,自分たちが季節に合わせて,納得のいくように都合よくするという柔軟な気質を持っていると思う。

 

中川氏

  京都の暮らしの文化を考えるとき「奥ゆかしさ」という言葉が思い浮かぶ。町家の起源は平安時代末期にさかのぼるが,最初は店を持った小さな建物が通りに沿って並び,時代を経て住まいの空間が奥行き方向に拡充して,奥行きの深い「うなぎの寝床」と呼ばれる町家が生まれた。表の店は通りの賑わいで活気にあふれ,奥座敷は表の喧騒が嘘のようにのどかな雰囲気がある。また,店の造りは見栄を張ることなく町並みと調和させ,奥に行くほど意匠材料に趣向を凝らして,こだわりの暮らしを楽しんでいる。ここに京都の美学が感じられる。

 

 

(3)最後に,暮らしの文化を楽しむためのアドバイスをお願いします。

笹岡氏

   食卓に小さな花を飾るだけで,空気が和らぎ,そこが上質な空間になる。立派な花器や道具は必要ない。お菓子の空き箱でもワインの空き瓶でも,お洒落な花器になる。プレゼントでいただいた花束でも,道端で摘んだ小さな花でもよいから,気軽にいけばなを楽しんでほしい。

 

杉本氏

 旬の食材を使うということがよく言われるが,全ての材料を旬のものでと考えると,逆に献立が難しくなる。日常のおばんざいに1つ旬の食材を組み合わせ,季節感を加えることを提案したい。「ひじきと揚げのたいたん」に,今の季節なら菜の花を湯がき,緑の鮮やかなものを和えたり,また,豆腐を裏ごしし,白和えの衣を作って,和えるなど少し工夫を加えるだけで京都らしい味わいが醸し出され,季節感のある楽しい食卓になる。

 

中川氏

 子どもの頃の暮らしを思い浮かべると,季節や人生の節目にさまざまな祝い事や行事が催され,衣食住に「ハレ」と「ケ」の彩りが豊かにあった。それらは面倒くさいものではあるが,いざ失われるとさびしく味気ない。文化を受け継ぎ,環境と共生する暮らしを考えると,昔の暮らしの伝統を見直したり,新しい暮らしのきっかけを工夫したり,面倒くささを楽しむゆとりをもつことが大切になる。文化は特別な場所にあるというものではなく,もっと身近な暮らしの中で楽しんでほしい。

お問い合わせ先

京都市 文化市民局文化芸術都市推進室文化芸術企画課

電話:075-222-3119、075-222-3128 (京都芸大担当)、075-222-4200(政策連携担当)

ファックス:075-213-3181

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